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二章 旅は道連れ世は情け②

 白龍と合流した私は、ひとまず地面にぶちまけた山桃の中でも食べられそうなものを籠に入れ直した。

「……いるか? それ」

「潰れちゃったのはごめんなさいするけれど、綺麗なものはいるよ。山の中での食べ物は大切だもの」

 飢えるということがない白龍には、食べ物の大切さが分からないようだ。

 毒があるかどうかも分からない雑草しか食べられそうなものがない時、山桃を捨てたことを私は後悔する自信がある。

 そもそも、草は毒がなくても、硬くて美味しくない。

 ある程度拾い、さらに追加で木からもぎ取って満足した私は籠を背負った。


「そういえば、よく私のいる場所がよく分かったね。どうやってここまで来たの?」

「番候補がいる場所は、本能で分かるものなんだ。ここには途中までは龍の姿で飛んできたが、金の国の領地に入ってからは、見つかると面倒なのと、木が邪魔で空からだと分かりくかったため歩いて移動してきたな」

「えっ。ここって、金の国なの? 土の国じゃなくて⁈」

 私を攫ったのは役人みたいだし、家から遠い山に捨てられたのかもとは思ったが、まさか国をまたいでいるとは思っていなかった。


「ああ。きっと六花を攫った奴らは金の国の者なのだろうな。……だが、ひとまず仕返しは後だ。とにかくライも心配しているし帰るぞ」

「そうだね。早く帰らないと心配してるよね。できれば帰りがてら、川も探したいけど」

「川なら空を飛んでいる時に見かけたから案内できるぞ」

「すごい、白龍! 流石だね」

 やった。これで水が手に入る。

 私はすごいすごいと、白龍の頭を撫でる。本当にできた弟だ。


「べ、別に。神獣ならそれぐらいできて当然だ」

「神獣は当然でも私は神獣じゃないし、他の神獣なら私が攫われても探してくれないでしょ? 白龍だからここまで来てくれたんだもの。私が白龍を褒めるのは当たり前よ。本当にありがとう」

 白龍は照れたのかぶっきらぼうに言う。でも普通はできないのだから、白龍が凄いことには変わりがないし、しっかり感謝を伝えたい。

「じゃあ、川の方へ案内をお願いしていい?」

「ああ。こっちだ」

 白龍の案内で、私は山道を歩いた。


 白龍が進む山道は整備されておらず、獣道のような場所だった。

 こんなところを歩いて大丈夫かなと思うような道だが、白龍は迷いなく進む。

「白龍疲れたら休憩しようね」

「ああ」

 白龍は子供の足なので、長距離をあるくには適してはいないし、道が悪すぎて足を痛めたりしないかと少し心配だ。

 それに私を探すために、きっと沢山歩いてきてくれたはずだ。神獣でも疲れるのではないだろうか。


「そういえば、私が連れ去られてからなん時間ぐらい経っているの? 土に埋められている間は、気を失っていたから時間がよく分からなくて」

「一日は超えているが正確な時間は分からない。私もすぐに六花に追いつきたかったが、山の中だった為、少し手間取ったんだ」

「ひえっ。そんなに経ってたの?」

 どうやら私は結構長いこと気を失っていたらしい。


「だから早く帰るぞ」

「うん。そうだね」

 帰ったらライにも相当怒られそうだが仕方がない。私が油断して、軽く考えていたのが悪いのだ。

 まさか隣国の人がわざわざ辺境の村にまで攫いにくるなんて想定はしていなかった。


 しばらく歩いて行くと、大きめの影が見え私は足を止めて、白龍の服を引っ張った。

「何だ?」

「何かいるみたい。熊かもしれないから、慎重に行こう。さっき、熊の縄張りを示す木の傷があったから」

「……熊? 動物の一種か?」

 どうやら白龍は熊をしらないようだ。

 白龍は普通に話せるし、色々知っているように思うが、時折普通は知っていそうなことを知らない。これが世界に慣れるために必要なことというものかもしれない。

 

「そう。熊はとても強い力で切り裂くし、人も食べるの。普段はドングリとかを食べているんだけど」

「ふーん。どんな生き物か気になるな」

「ええ。いや、気になるとかじゃなくて、危険なんだって」

「神獣が獣ごときに負けるわけがないだろ。六花に害をなす獣ならば、どのような姿か知っておく方がいい」

 えー。

 獣ごときって……いや、神獣からしたら、熊でも獣ごときなのかな?

 私からするととても怖い記憶しかないので、白龍が余裕そうな顔をしていても心配になってしまう。


「でも、本当に危ないのよ?」

「それなら、とりあえず隠れながら確認しよう」

「……隠れながら見るだけなら」

 これも白龍が世界を知っていくための一環だとしたら、私もむやみに止めるのは間違っているだろう。彼は人ではないのだ。

 そろそろとできるだけ音を立てないようにして動き、大きめの影がある場所がよく見えそうな木の後ろへ移動する。


「なあ。あれは人ではないのか?」

「うん。人みたいだね」

 そろりと木の影からから覗いて見えたのは、一人の少女だった。山奥なので人と同じぐらい大きな生き物ならば熊だろうと思ったが違ったらしい。

 そのことにはほっとするが、そこにいた少女は、明らかに不自然な恰好をしていた。

 私達がいるのは山奥なのに、彼女は汚したら困ってしまいそうな、綺麗な赤い服を着ているのだ。また鮮やかな赤い衣の袖は、木の枝に引っ掛けてしまいそうなぐらい長く、山に適していない。しかも頭を高そうな宝石がついた髪飾りで飾っいた。どこかに落としてしまうことも考えられるのに、それを身に付けたまま山に入る女性なんて私は初めて見た。

「でも恰好が、いかにもお貴族様みたいだけど……。もしかして仙女とか?」

「いや。アレはただの人だ」

 仙女なんて見たことはないけれど、普通ではない様子に仙女を思い浮かべたが、白龍はきっぱりと否定した。どうやらそういった類の人でもないらしい。

 だとしたら、訳ありの人だよね……。


 山奥にいる、貴族のような恰好をした女性なんて、どう考えても厄介ごとだ。

 年は私と同じぐらいだろうか? 結構若く見える。

 ここが金の国だと思うと、関わらない方がいいはずだ。私自身連れ去られ、さっきまで遭難をしていたのだ。人助けなんてできる状態ではない。


 ただそれでも、共も付けずポツンと山奥にたたずむ女性を見ているとハラハラしてしまう。

 私も金の国の後宮から逃げ、山奥にいた時とても大変だったのだ。何度死んだか分からない。それでも、傍にライがいたからまだよかった。

 服装から見ても、山に慣れていなさそうな彼女の周りに、誰もいないことが余計に心配してしまう。


「……こちらの姿を見られる前に迂回するぞ」

 私も厄介ごとだと思ったが、白龍もそう思ったようだ。

 白龍の言う通り、彼女に姿を見られる前に立ち去る方がいい。助けを求められても、害意を向けられても、どちらもいいことなどない。


 分かっているが、本当に立ち去ってもいいだろうかと思ってしまう。

 もしかしたら、山のどこかに彼女を探す従者がいるかもしれない。でもその従者と合流できるとは限らないのだ。

 ジッと女性を観察していると、彼女が手に持った何かを見ていることに気が付いた。

 あれは……きのこ

 何故、茸なんて見ているのだろう。分からないが彼女の表情はとても真剣だ。真剣に茸を見つめている。毒茸かどうかを見分けようとしているのだろうか?

 

 そんな中、女性は覚悟を決めたような顔で茸を口元へ持って行った。

「ちょっと待った!」

「六花⁈」

 私はあまりに無謀な行動を見ていられず、木の影から転がり出るような勢いで飛び出し、女性を止めた。彼女は突然私が叫んだことで、びくっと肩を揺らし、こちらを見る。


 こちらを見た女性の瞳は私と同じ青い瞳をしていた。

 きっと異国人の血が混じっているのだろう。そんな彼女は、驚愕といった様子の顔をしている。……こんな山奥で人と会うとは思わなかったに違いない。

 彼女の反応は当然だ。

 でも伝えなければ。

「生のきのこを食べるのはやめなさい! 本当に、死ぬほど苦しい思いをするから!」

 山でお腹が空いて、幼い私も最初に食べたのが茸だったから知っている。

 生は危険だと。

 あの後食中毒で、かなり苦しんだ。

 

 茸は普段の生活でも食べるので、食べられると思ったのだ。しかしなんの知識もなく食べるべきものではない。私はそれを、実践で学んだ。

「しかもそれは毒茸よ! 本当に駄目! 死ぬわよ」

 近くで見れば、それは私が以前食べたことがある毒茸だった。

 そう、あの時の茸の顔はこれだった。いかにも無毒そうな顔をして、しっかりと毒があったのだ。私は私を苦しめた茸のことは忘れない。


「六花は茸に詳しいのか?」

「詳しくはないけれど、実際に食べて死にかけたものは忘れないわ。茸は生で食べると危険だし、毒茸は煮ても焼いても毒茸なの。その茸はとっても、とぉぉぉぉっても美味しいけれど、その後に待っているのはある地獄よ。猛烈な吐き気と腹痛で死ぬのだから」

 あれは魔物だ。

 食べたすぐは、こんなに美味しいものがこの世の中にあったなんてと思って感動したのに、数分後にはのたうち回っていたのだ。今でも忘れられない。


「えっ。毒茸を食べたの?」

「毒を美味いとかいうなよ……」

 白龍と貴族のような女性は、私の体験談に引いた顔をしていた。


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