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序章:六花殺人事件、もしくは六花怪談話

 あれ? なんだか息苦しい……。


 そんなことを思いながら目を開けようとするが、うまく前が見えない。

 布団がかかっている? いやいや、布団だけでこんなに重くはないはずだし……。


 一生懸命腕を動かそうとするが中々うまく動かない。それにやっぱり息苦しい……というか、息ができていないんだけど⁈

 ジタバタともがくこと数分。いや、もしかしたら一時間ぐらい格闘したかもしれない。それぐらいもがいて、ようやく体を締め付けている者が緩くなった。そのタイミングで、私はがばっと起き上がる。


「誰よ。布団に簀巻きにした奴っ‼」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」」」

 勢いをつけて起き上がると、ザザッと枯葉が落ち、さらに周りから悲鳴が上がった。

 ようやく目が見える状態になって最初に見えたのは、森林だ。大きな悲鳴に驚いた鳥たちが一斉に飛び立って行く。

「屍人だ‼」

「ちがう、僵尸キョンシーだ!」

「やだ。待って。おいてかないでっ‼」

 まだ布団が脱げきっていない状態で、次に私が見たのは、走り去っていく人間の後ろ姿だ。着ているものからして、たぶん農民だろう。呼び止めたかったが足が速く、すぐさま見えなくなってしまった。

 よっぽど驚いたのか、彼らが居たと思われる場所には、籠が残されている。どうやら山菜をとりにきていたらしい。あの様子だと、私を布団に簀巻きにして、土の中に埋めた人間ではないだろう。

 悪いことをしてしまった。でも一つ言いたい。

 

「私は僵尸キョンシーでも、屍人でもないわよ! どこも腐ってないでしょ⁈ ちゃんとこの腐敗一つない美肌を見なさいよ!」

 以前死体と間違われたことがある身なので、つい反論してしまう。

 もっとも、土の中に埋められていた人間が、突然はい出てきたからそういう発言になっただけだろうけど。起き上がった瞬間悲鳴を上げ逃げ出した彼らに、私をしっかり確認する時間はなかった。

 私はため息をつきながら、紐で結ばれ、枯葉と土に埋められている布団から這い出る。それにしても、雑な埋め方だ。多分自然にできた窪地に布団にくるんだ状態で置き、上に枯葉と多少の土を乗せたのだろう。

 死人を土葬するなら、もう少しちゃんとしてもいいと思う。


「というか、布団にくるんで埋めないでよ。私じゃなければ死んでたわよ」

 頭の上に乗ったままだった枯葉を落としながらぼやく。

 あっ、そもそも違うか。生きている人を布団にくるんで埋めるなんて普通はない。

 つまり死んでると思われたから、こんな雑な埋葬をされたということだ。いや、これ、埋葬というより、殺人を誤魔化すために遺棄されたっぽいわよね。

 ……殺されるほど誰かに恨まれることなんてあったかしら?


 自分の状況が分からず、青空を見上げる。

 太陽は高いので、たぶんお昼ぐらいの時間だろう。いつ頃埋められたか分からないが、あんなに浅い場所に遺棄されていたのだ。下手したら、夜中に夜行性の動物に齧られて目が覚めたかもしれない。そう思うと、昼間に目が覚めて良かった。

 これまで波乱万丈な人生を歩んできたとはいえ、野生の動物に齧られて目が覚めるという経験はできれば遠慮したい。


「でも一体誰が私を殺してしまったと思ったんだろ」

 私の体は変わっているので、死んでいると勘違いされるのも仕方がないとは思う。

 私は元々金の国の皇帝の子として生まれた。でも五歳ごろに金の国で謀反が起きた時、母もろとも殺されたのだ。とはいえ実際のところ私達親子は、政変とは全く関係なく嫉妬にかられた女性により、どさくさにまぎれて殺害されただけみたいだけど。とにかく私は一度死んでいる。

 しかし死んだと思ったのに、私は息を吹き返した。心臓は動いておらず、どんな怪我をしても死なない体という、人間にあるまじき状態でだが。

 最初は誰かに僵尸キョンシーにされたのかと思われたが、しっかりとご飯も食べるし体も成長した。まるで生きているかのように思考し動く僵尸キョンシーはいても、成長をする僵尸キョンシーありえないそうだ。だから私は僵尸キョンシーではない。

 そして心臓が動いてなくとも体は温かく、怪我をすると血が流れ、その後急速に修復するので、屍人でもない。

 何とも中途半端に死にぞこなったような状態だが、それでも生きている。


 そう。生きているのだ。

 だから勝手に埋葬していいはずがない。そもそも私の養父である、石の精霊のライがこんな雑に埋葬するはずがない。

 波乱万丈な人生を歩んできているが、母から私のことを任されたライは彼なりに大切に育ててくれた。

 つまり……ここに埋めたのはライではないということ。


 というか、そもそも、ここどこだろう?

 ピーヒョロロロとトンビの鳴き声がするのを聞きながら、周りを見渡すが木しかないので、ここがどこかが分からないが、たぶん山ではあると思う。私がいる場所も斜面になっている。

 ここがどこなのか分かるものがないだろうかと、農民がおいていった籠を覗くが、入っているものは、どこにでも生えている野草やキノコだけだった。場所が分かりそうな特徴あるものはない。


 できれば、今身を寄せている土の国であって欲しいが、絶対そこから移動していないとは言い切れない。どれぐらい眠っていたのかも謎だし、このあたりの国は元は【応国おうのくに】と呼ばれた大国から別れた場所なので、言語が同じなのだ。だから自分も分かる言葉を使っていても、同じ国とは限らない。

 そもそも、私は埋められる直前は何をしていたんだっけ……。


 それが思い出せれば、私を雑に埋めた相手も分かるかもしれない。

 しかし混乱しているからか、すぐには記憶が出てこなかった。うそ。何で?

 慌てそうになるが、必死に自分自身に落ち着けと言い聞かせる。まず私の名前は、セキ 六花リッカ。年齢は十五。両親が死んだ後、石の精霊のセキ ライに育ててもらっている女――。

 大丈夫。記憶がすべてなくなってしまったわけではなく、今は混乱しているだけだ。

 私は気を失う直前の記憶を思い出すため、まずは最近あった印象深い記憶から順に遡ることにした。

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