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コウレイ  作者: 瀞む
6/6

#4

鍵をおばあちゃんに返却し、感謝の意を述べ公民館を後にする。登山口に着き、山を登りながら、先ほどの内容を反芻する。この地域には決まった人と結ばれる、という言い伝えがある。この地域に生まれた時点で、神だか仏だか知らないが運命の相手を決定づける。しかし、その一方で、決められたその関係を破りにいく人がいるそうだ。そのような人は、予め決められた人がいない。その人の子が同じようになっていくかたちで、運命のようなこの慣習に抗う性質が、伝染して行く。親は内情を理解しているので、子がどこかの関係性を破壊することを支える訳だ。親はかなり強く推し進めたりもするそう。奴の事例では、母親が何かを行っていた。奴も母親も、このタイプの人間であったのだろう。奴が途中から豹変したのは、この事実及び役割に気付いたからだろう。疑問点は今一つ残るようにも感じるが、解釈はこれが正しいだろう。

明知と福田が中学時代から妙に仲良く、今でも定期的に会っているという事実は、こういうことかと理解してみたりもした。僕にもいずれ、なんて下世話なことを考えていたら、廃屋が現れる。ここだ。人が消えて何年も経った、妖しくも淋しげな建造物である。戸は開け放たれていたため、恐る恐る中に入る。人が隠れてでもいそうな雰囲気だが、こんな山奥だ。スマートフォンの懐中電灯を頼りに奥へ進む。半開きの戸があり、中を覗くと書斎のようだ。立派な机に数枚の紙が乗り、空っぽの本棚は机の存在感を際立たせている。紙を見る。「里……し… …島… 候…」 「コウレイ」上に覆いかぶさるようにあった紙は掠れて読めないが、その下の紙には、確かに「コウレイ」と書かれている。机の下には、くしゃくしゃに丸められた紙が数個。1枚取って広げると、「令子幸」と。もう1つ手に取り腰を上げると、その瞬間、後頭部に強い衝撃を感じ、気を失った。


目を覚ますと、市街地の病院だった。

「あっ…大丈夫ですか?」

目の前にはなんとも可愛らしい女性が心配そうに僕を見つめていた。どうやら祖谷町地域に住んでいる子だそうで公民館にも屡々出入りし、例のおばあちゃんが僕が山に行ったきり帰ってこないことを聞いたらしい。それで山へ捜索に行き、倒れている僕を見つけ、救急車を呼んでくれたそうだ。目が覚めるまで、そばで見守ってくれていたその女性は、献身的に介抱してくれる。本音を言うと、目を開けて初めて彼女の目を見たとき、一目惚れをしたようだ。漸く僕にも、決められた人が現れてくれたのだろう。

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