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8話

「ほげぇ!?」

後ろめた過ぎる妄想の最中に、当の本人から声を掛けられた私は踏み潰されたニワトリのような悲鳴を上げた。

そうして、流れるように――と、自分で思う程度には慣れた手順で――土下座のポーズを取る。

無駄に美しさを意識したが、しかし。カッコつけた所で土下座は土下座なのである。

「……それは、何のポーズだ?」

そして悲しいかな、この世界に土下座の概念は無かった。ローズ様には前世の記憶がおありだったお陰で分かって頂けたのだけれども。純粋なるこの世界の住民は当然ご存知ないのだ。この意味が。

私の腐りし誠意は、幾ら地面に額を擦りつけたところで伝わらない。

「えっと、これはとある地域に伝わる古の謝罪方法で……」

顔を上げたところでハッと気が付いた。イベント本来の流れと大分違ってしまっている事に。

魅了の力は……と思って周囲を確認すれば、ピンクの如何わしい光はまだ発生していなかった。

まだイベントにカウントされていないようだった。

目的のタイミングまでに軌道修正を図ろう。

「……立てるか?」

と、一瞬で軌道修正成功した。いや、私は何もしていないが。

転んだヒロインを助け起こす場面。形は違えど、イベントストーリーに近い状況となっている。


昨日夜なべして立てた計画が無駄にならずに済みそうで、何よりだ。

魅了の力が出そうになって、というかもう爪の先まで来ている気がするが、ここはぐっ、と手を握り締めて抑える。


今回はアンソニー様との親睦イベントであるが、ここで私ことヒロインとの親睦を深めてはいけない。いや、後でもルート修正が可能である事は王太子様――もう名前忘れた――の案件を見れば確実なのだが。しかし、今回のイベントは重要なのだ。

アンソニー様とセオフィラス様の関係を匂わしてくる、というか嗅がせてくるこの重要な局面。一瞬、スチル発生直前の本当に一瞬、数行の文章から窺えるだけなのだが、アンセオが同じフィールドに揃う大事な回なのだ。


正しく魅了を使えれば、早い段階からお二人の関係を修復していく事ができる。だから、もう少しだけ魅了の力には待っていて貰いたいのだ。

「……おい、大丈夫か」

「ははは、はい!大丈夫でふ」

盛大に噛んだ。しかしここで恥ずかしさのあまり気を緩めてしまってはいけない。

羞恥心なんてあったのか、という心の中での突っ込みは、無視しよう。


確かこの後、公爵子息――セオフィラス様が通るのだ。

それはセオフィラス様ルートへの分岐点でもあり、アンソニー様の過去を垣間見る重要な事件だ。


ゲームではセオフィラス様の姿を目撃した騎士様が顔を顰める、そしてヒロインが「あれは……セオフィラス様?」と心の中で思い、そしてアンソニー様の『自嘲しているような表情で座り込んだままのヒロインを立ち上がらせるスチル』で締めるのだが。

(魅了発動直後に目撃させたら、どうなるんだろう)

私の心はワクテカ、である。

要は悪役令嬢ちゃんと王太子様をくっ付けた時の要領で、まずは試してみよう。

……決定的瞬間を見逃さないよう、気絶は無しで、意識を相方へと向けさせる方向で。



「えっと、あの、自分で立ち上がれるから大丈夫です」

私は、ストーリー通りの台詞を口にする。私の言葉に伸ばしかけた手を引き、体を起こすアンソニー様。

もうすぐ、もう間もなく、だ。

「何をキョロキョロと。誰かを探しているのか?」

これはストーリーと違う。けれど、そんな事に構っていられない。魅了の光(仮)は今尚出たがっているようなので軌道修正はもう必要無いだろう。


と、そこでとうとうアンソニー様の背後に、目的の人物が姿を現した。


抑え込んでいたピンクのキラキラを解放する。そうして、光がアンソニー様へと届いたところで。

「あれっ!あそこにいらっしゃるのは!」


びっくりしてこちらへ目を向けるセオフィラス様。お目目がウサギのようにまん丸だ。いやウサギモチーフなのはアンソニー様なのだけれども。

うん。セオフィラス様、かわいい。


そしてアンソニー様の方はというと。

「……ッ!」

どうやら、魅了はクリティカルヒットしたようだ。目を見開き、息を呑んでいる。

そうして態とらしく目を逸らし、何やらブツブツと呟き始めた。


片想いの相手が女性を助け起こそうとしている姿を見せられた上、目を逸らされたセオフィラス様は少し傷付いたような表情をして、踵を返してしまった。本音を言えば「アンソニー様!セオフィラス様を追いかけて!」と言いたいのだが、当の本人といえばその場に立ったまま動かないでいた。

けど、私にはわかる。アンソニー様、動かないのではなく動けないのだ。きっとこれは、脳内で素数を数えてる。前屈みにはなっていないし、ズボンの中に棍棒(隠語)を隠し持っているような様子は無いけれど。耳は赤いから多分そう。

「……何を見ている」

「いえ、お二人が幼馴染だと王太子殿下からお聞きしたものですから」

企みが成功した私は、ニッコニコ(もしかしたらニヤニヤかもしれない)でそう答えた。



自白剤でも盛るつもりであったが。お口よりも、身体の方が素直になりやすいかもしれない。

心の方はすれ違いながらもお互いに向いているのだし。いっそ全力で身体を結び付けさせに行ってしまって問題無いのでは。最初からそのつもりだっただろうという突っ込みは無視していく方向で。


今後は魅了パワー全開盛モリ特盛で。二人の理性をぶち壊していきましょうかね。

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