6話
さて。ローズ様と立てた仮説を立証する為にはどうすれば良いのか。
攻略対象とできる限り遭遇し、実験を重ねるしかあるまい。
(ローズ様には、断られてしまったからなぁ)
王太子殿下は身近手頃な攻略対象で被験者候補だったのだが、そのお相手であるローズ様から断固拒否されてしまったのだ。
ローズ様曰く、私への魅了が解けたなら「自力であの方からの好意を得たい」とのこと。
これぞ正ヒロインと言うべきではないだろうか。ロマンチストで努力家。本当に何故ローズ様の中の人がヒロインに転生しなかったのか。ミスキャストここに極まれり、である。
それはさておき。
(王太子殿下を除けば、残りは三人……か)
そう。残りの被験者候補は三人なのである。
いや、所謂続編なんかを含めたらもっと居るのだが。
彼等はまだ、入学や編入等していないため被験者にはできない。
尚、私の狙う隠しキャラ・馬はあらかじめ候補から外している。
(公爵様と騎士様については、実験がそのまま本番となりかねない)
ハーレムルートがあるため、恐らく今からでも攻略(仮)に挑める。
しかし、ここをBでLさせる事が最終目的である以上、失敗が許されない。故に少々気が進まない。
(かといってあと一人もなぁ)
あとお一人、宰相息子は駄目だ。一途過ぎる為、奴に惚れられたら最後である。
そして奴には、番わせるべきお相手が居ない。婚約者無し、一応、仲が良いとも言えなくもない男は王太子殿下だけ、の寂しい男なのである。
つまりは一匹狼、そんな立ち位置のキャラである。人間サイドでは『かっこいい』の代名詞になっているこの呼称だが、狼サイドでいえば一匹狼は負け犬である。弱くて番を得られなかった狼が一匹狼となるのだから。
故にいずれは彼にも番を見繕わなければいけない、などと腐りし我は思っているのだが、時期を考えればそう悠長に構えている事もできない。
何故なら、推しCPの死別イベントまで一年も無いからだ。
いや、下手を打てば一・二ヶ月後に早まる可能性もある。
(……仕方がない。宰相子息様のお相手は後日に回すとして。非常に残念ではあるがぶっつけ本番、もうそのまま推しCPに突き進むか)
と、いう事で不本意ながら公爵様と騎士様に突撃する事と相成った。
変わり身早いと言うなかれ。これは苦悩の末決めた事なのである。
早くBL展開見たいという欲に抗えなかったという一面もあるが。それは置いておく。
お二人を密室に呼び出し閉じ込めるため。まずはお二人にとっての、共通の知り合いとなろう。
ある程度仲良くならなければ、腐オーラたっぷりな私の怪しい誘いになんて乗ってくれないだろうからな。
「……と、言う訳なのですよ」
そうして虎視眈々とチャンスを伺っていた私は、再びローズ様に捕まってしまったのだった。
校舎裏での尋問はもはや、恒例となっている。
これだけ会っているというのに百合展開のゆの字も無いということはやはり、攻略対象とのイベントでなければ魅了の魔法は発動しない、と結論付けでも良いだろう。
実験は終了した。もう本番で良い。
などと自分に都合良く考えていた私であるが、攻略イベントまであと数日ほどある。
要は、イベントまで待ち切れないのである。
何せ私は腐り切って汚泥と化した貴腐人。いや腐死鳥。推しCPを目の前に吊り下げられて、大人しく待てる訳が無いのだ。生もの(not・nmmn)と推しCPは新鮮な内に頂くべきである。
「貴女、急いては事を仕損じる、という言葉を知らないんですの?」
ローズ様から辛辣な一言が飛んでくるが、しかし。善は急げ、思い立ったが吉日とも言うではないか。
「事を成す前に、衛兵に捕らえられますわよ」
……ワタシ、そんなに怪しいか。
そう思い自分の行動を振り返ってみる。
昨日。半ばストーカーのように、公爵子息様の後をつけて回っていた。
一昨日。騎士様に気付かれかけ、慌てて標的を公爵子息様に変えた。
その前には、お二人が言い争いをしている所を遠目に見守り、その後、公爵子息様が落ち込まれている傍でチャンスを伺っていた。
そして今日、公爵子息様をこっそり追っている所をローズ様に捕まった。
うん。振り返れば振り返るほど怪しいな。
「わかりました。もっと離れて見守る事にいたします」
「だからそれが怪しいと言っているのです!!」
代案を申し上げたのに怒られてしまった。解せぬ。