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5話

その数日後、裏庭にて。

「ていっ!ていっ!」

私は、この力をどうにか思い通りに使えないかと練習をしていた。

先日のローズ様との会談の後からずっと練習している。毎日放課後、他のご令嬢方がお茶会やサークルに勤しんでいる時間一杯練習している。

しかし何も起こらない。

まるで初期は跳ねるだけしか選択できない、ボロボロの釣竿で釣れる某お魚モンスターのようだ。

「うーん、ファンタジーの定石だとイメージすれば魔法が使える筈なんだけど」

ファンタジー小説の読みすぎだと思われるかもしれないが、ちゃんとこの世界でもこの定説は通じると、貴族教育を通して学んでいる。

まあ今世では全く小説を読んでいなかったのですけど。しがない平民生まれで周囲に本なんて無かったし、お貴族様の養子になってからはお勉強の本しか読んでなかったし。

よくそれで耐えられたなと今の私になってからは思う。多分、前世を思い出すまでは完全に別人格だったのだ。でなければ軽度活字中毒を患っていた私が発狂しない筈がない。

が、そんな私の前世は今はどうでも良い。

「とにかくもう一回……!唸れ私の……!」

「……何をやってらっしゃるんです?」

超微妙なタイミングで現れたローズ様。そして怪しいポーズを取っている私。拳を突き立てたせいで穴ぼこだらけになった地面。

これはもう、事情聴取である。

「ちょっと、来て頂けます?」

そうして私は、あえなくローズ様に連行されたのだった。



そして今度は所変わって学園のお茶会室。流石貴族も通う学校なだけあって豪華なお茶会室だ。その、豪華な椅子に腰掛ける私の場違い感が凄い。

前世・今世と庶民育ちにこれは拷問のようだった。カップ一つおいくら万円するのか分からない恐怖。

「……つまり、魅了の力が上手く制御できなくて練習していた、と」

そんな私の様子にお構い無しなローズ様は優雅にお茶を召し上がりながら仰った。

同じ元日本人な筈なのに。今世で慣れたのか、それとも前世から裕福なお育ちだったのかもしれない。

「どういう時に発動していたのかは思い出せます?」

「うーん……」

用意されたティーカップに手を付けず、私は考える。

あのピンクのキラキラはいつ現れたかといえば……

「前世を思い出すまでは朧気ですけど確か……入学式で攻略対象達と顔を合わせた時、と、王太子殿下イベント数回、と、先日、ですね」

そう答えると、ローズ様は納得したように頷いた。

「やはり。ストーリーイベントに関係しているのではありませんこと?」

言われて思い返せばなるほど、発動タイミングからして有り得る。全員のルートをプレイした訳では無いので確信はできないが、少なくとも攻略対象初顔合わせではストーリーのスチル入手タイミングで発動していた。気がする。それにファンタジー小説あるある設定でもあるのだから、有り得るどころかかなり可能性は高いのでは無いだろうか。

予め予想しておくべきであった。そうしたらもっと早くに公爵子息様と騎士様同時攻略からの真実の愛に気付かせるルートを開通させられたかもしれないのに。

うっかり王太子ルートのみに足を突っ込んでしまっていた状態なだけに、例のお二人との関わりが薄い。つまり好感度も私がゲームでプレイしていた時よりも上がっていないと思われる。ある程度信頼を得られなければ、二人を密室に閉じ込めるよう誘導することもできない。

好感度を上げようにも、イベント発生まで待たなければいけないのはかなり痛手だ。早くBをLさせたいのに。それに、この先騎士様と公爵嫡男様をドッキングさせられるタイミングなんて……

「あった……!」

通称、密室ドキドキイベントである。ルート変更イベントという別名もあるこのイベント。ダンスパーティーの夜に、慣れない夜会で疲れたヒロインが休息を取りに別室へ入り、攻略対象とうっかり閉じ込められてしまうのだ。

もうこれを利用する他無い。

このイベント、ヒロインに嫉妬した何者かが外から鍵を掛けてくれるのだ。私が態々密室を作り出す必要が無いのだから、取り敢えず呼び出して魅了を掛けた後は、ただ黙ってクローゼットに飛び込み隠れていればいい。

「何があったんですの?」

「次なる目的を達成する、そのチャンスです」

ふん、と拳を握る私を見たローズ様は溜息を吐いた。

「呉々も、やり過ぎないようにして下さいませ」

「えっ、ヤり過ぎないようになんてそんな……!」

破廉恥な!と言おうとした所、扇子で頭をべちりと叩かれた。

硬いもので叩かれた割に痛くない、でも音は派手に鳴る絶妙な力加減だった。

「何誤変換しているんです!?破廉恥なのは貴女の心ではなくて!?」

真っ赤なお顔をしたローズ様にそう叱られたけれど、腐思考なんてこんなもんである。

「素直になるお薬も追加しようかな」

「犯罪もいけません!」

その後結局仮説立証の目処も立たないまま、帰宅時間となってしまったのであった。

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