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一話

それは、天啓のようだった。

「そうだ、私は腐女子だった」

良……くないわ!と叫ばなかった私を誰か褒めて欲しい。なぜ今!と嘆くのを我慢した私を誰か慰めて欲しい。

正に今、乙女ゲーム定番の王太子イベントが始まったところ。そのタイミングで唐突に前世の記憶が舞い降りてしまった。そしてそれとほぼ同時に目の前のキラキラ男子から手を差し伸べられ驚き慌てた私はニワトリばりのジャンプを披露しつつ、過去へと意識を飛ばしていた。





吾輩はアリス・ハーランド。今世の私の名前である。

某ワンダーランドを彷彿とさせる名前であるが、この世界の人間は原典を知らないため今まで一度もその辺りで突っ込まれたことは無かった。思い出した今となっては、名前をネタに笑いをとる事ができなくて残念ではある。しかし元ネタを知らなければシラケるだけ、故に前世を思い出したところで口に出すつもりはない。

さて、そんな私ことアリスは平民生まれで貴族の養子になりこのキングダム学園に通っている、乙女ゲーム主人公である。

元、腐女子……いや、貴腐人を通り越した腐死鳥の魂が入り込んだ、哀れな主人公である。




何故腐死鳥であった私が乙女ゲームたるこの世界について知っているかについてだが。これは非常に単純な話である。

夢女子を併発していた親友が貸してくれた。一言で言えばそれである。

ただの友人であれば「自分はお腐れなので」とバッサリ断っていただろう。しかし、十年以上付き合いのある親友ともなれば話は別である。

進路を違えども連絡を取り、支え合ってきた親友。その彼女が貸してくれたのだ。プレイしない訳にいかないだろう。

そうして初めた乙女ゲームだが。私は意外にもハマってしまったのだ。

二次創作にまで手を付ける程に。




ここで前世の私のステータスを紹介しよう。



容姿普通、運動能力は低く頭脳は中の上くらいなオタク気質。そしてバツイチ子持ちの腐死鳥。

ヒロインに憑依させるには残念すぎる人材である。


そして一番致命的な点。それは、甘い言葉を吐かれ(比喩)ればこっちまで吐きそう(物理)になる乙女ゲーム適正ゼロインなのだ。

そうなればもはやヒロインではなくゲロインだ。毎回口説かれる度に吐いていた日にはもう逃れようがなくゲロイン確定である。ただでさえ私のような発酵し切った腐死鳥に憑依されているというのに、これ以上の醜聞は可哀想すぎるではないか。私ではなくヒロインが。



さて。憑依してしまった自分よりもヒロインの方が哀れに思えてしまう程残念(腐)思考で乙女ゲーム適正の全くない私が、何故、このゲームをプレイし続けられたのかについてだが。もちろんそれには理由がある。


まず、BL妄想に最適なカップリングが存在した事だ。いや、むしろこれが乙女ゲームでなければ、BがLするルートこそが彼等の本来辿るべき道であったのだろう。そう確信している。

彼らは、原作では決して結ばれない。それはそうだ、二人とも乙女ゲームの攻略キャラなのだから。

そして、片方を攻略するともう片方は必ず死ぬという鬼畜仕様。

他キャラを攻略した場合も、攻略キャラと関係の薄かった方が死ぬという原作時空に救いの無いカップリング。


転生パロディ妄想が非常に捗って仕方がなかった。


創作の解像度を上げるために、何度、彼らのルートを攻略しただろう。

原作がバッドエンドならば二次創作では幸せにしてやりたいと思う。それが、二次創作者の性なのだ。




次に挙げるとしたら、隠しキャラ攻略の条件が逆ハーレムでは無いこと。

これは、単体ではそれ程重要性は高くない。隠しキャラが好みど真ん中だからこそ重要ポイントとなっているに過ぎないのだ。


ちなみに、逆ハーレムルート自体は存在しているらしいが。その場合、何故か騎士様と公爵子息様は記憶喪失になった上でヒロインに首ったけになるという、もうそれはメリバなのでは?という展開らしいし、個人的にハーレム系BLであろうとも性癖に刺さらないため一度も手を付けたことは無い。



そして、彼らを攻略せず、というか好感度を全員均一かつ逆ハーレムとならない微妙なラインでストーリーを進めていくと、定番の隠しキャラを攻略できるようになる。のだが。

なんと、この隠しキャラ、馬なのである。


もう一度言おう。隠しキャラは、馬なのである。


馬と言っても神獣ユニコーンであり、乙女ゲームであるが故、当然人型イケメンにも転化できる。

何なら、他攻略対象よりも顔の良い男に描かれていたような気さえする。


しかし、人型になろうとも彼の本来の姿は馬である。


気高く、美しく、しかし可愛さも兼ね備えた白銀に輝く毛並みと真珠の一角を持つ馬である。


故に私は、彼に落ちたのだった。

(ユニコーン)の姿となった彼に。


馬は、私が最も愛する動物である。学生時代は馬と共に歩けるアルバイトをしていたし、社会人となっても当然、馬と関わる仕事を選んだ。

仕事が終わってからもひたすら馬とイチャつきまくっていた。いっそ馬と結婚したかった。何を血迷ったか、結局一度は普通の男と結婚してしまったけれど。


故に馬にならば、甘い言葉を頂いても素直に喜べる。むしろ舞い上がれる。

例え人型の時に甘ったるい雰囲気になったとしても、彼の本質は馬なのだと分かっていれば受け入れられる。むしろどんとこいだ。


……彼(馬)の前でならば、ヒロインらしく振る舞える自信がある。

その精神で、彼(馬)については正しい目的で何度も攻略に挑んだ。今、そのチャンスが画面越しではなく、現実に転がっている。

馬と永遠を誓えるチャンスが。



記憶を取り戻した今、私は、彼(馬)以外攻略する気は無い。

しかし今現在の状況を見ると、王太子ルートに片足突っ込みかけているようだ。


これは、由々しき事態である。


(ルート修正しなければ……!)


そこで私の意識は、現実へと戻って行った。


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