8.小心者の大木 1
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あれから数日経って月曜日。今日は揃って訓練のため柔道場へ上がった2人は、ペアとして組み手を行っている。
「どうした大木、怪我は治ってるはずだろ?」
「はい、すみません!」
胸ぐらを掴まれ投げ飛ばされそうになるのを何とか回避しつつ、大木も果敢に中原へ立ち向かっていた。しかし上手く立ち回れないのは、相手との力量の差だろう。
「にしたってお前、ガチガチに固まってるじゃねぇか!シャキッとしろ!」
「すみません!」
普段なら謝りつつも手を出し足を出し抵抗する大木だが、今日に限っては謝罪の言葉だけで上手く反撃が出来ていない。中原も不調の原因は理解しているからか、厳しい目線で物を言う。
「あのなぁ。確かにお前は入院するほどの怪我を負った訳だが、後遺症も何も残らなかったんだ。前みたいに鍛錬を重ねられないと警察官としてやってけないぞ」
「はい、すみません…」
大木の心を傷付ける可能性のある言葉だが、中原だって相手を思って発言しているのだ。可愛い部下のためを思えば親心である。
「いざ現場に出れば凶悪な犯人だっている。人質を取られている可能性だってある。お前が怪我を負えとは言わないが、守るためには術を知っておく必要があるってのは理解出来てるよな?」
「はい……ただあの日の怪我以来、どういう訳か調子が出なくて、」
「問答無用!立てや大木!お前が一本取るまで、俺も止める気はないぞ!」
「班長から一本!?勘弁して下さいよぉ〜!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたペアは、外野から見ても注目を浴びるに十分過ぎた。早々に組み手を終わらせた警察官の1人が、大木の姿勢を見て周りと囁き合う。
「何だよ大木のやつ、昔のビビリに戻ったみたいだな」
「本当にな。中原班長は可愛がってるみたいだが、あの調子じゃ長く続かないだろうよ」
しかし嗤い声は、当人達に届かない。腰の引けている大木とやる気が空回りしている中原のペアを、庇えるほど周りは優しくなかった。
「へっぴり腰で中原班長に挑んだって、一本取られるだけなのになぁ?」
「ですね。大木の怪我は大したことないと聞いてたんですが、嘘だったんでしょうか?」
「入院はしたそうだが、こうして戻った以上は働けるってことだろ。単に怪我したことがトラウマになってビビってるんじゃないか?」
「はははっ、なら俺らで可愛がってやらないとな!」
仲間意識というものは、時に力強く、時として厄介な存在である。周りの階級の人間からすれば中原の行動に異を唱えることなぞ先ずあり得ない。寧ろ、協力的になって大木が復帰できるようにサポートする。それが、逆効果になっているとも知らないで。
「おい、しっかりしろ大木!」
「すみません!……可笑しいな、どうして前みたいに体が動かせないんだろう」
記憶を残さぬまま、体だけが痛みを覚えているのだ。自己防衛本能で全身が震えるのも、立ち向かう勇気が出ないのも当然である。