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ようこそ、菜摘屋へ。  作者: 湯気ゆっけ
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61.勘違い殺人 10

閲覧・評価ありがとうございます。誤字脱字など見つけた方は、生温かい目で見ていただけますと恐縮です。

この話はフィクションです。実在の法律や手続と異なる部分が生じる場合がございます。

情報は小出しになっているので、ぜひ推理してみて下さい。

祐輔が指差した先、慌てて全員で画面を取り囲めばそこには、雨に気付きレインコートをあたふた着る途中の瀬尾明里の姿が映し出されている。


「バイトが終わってやっと室内からでたんだ。彼女も強い雨と気付かなかったんだろうよ。変なところなんてあるか?」


1人のベテラン刑事が呟けば、否定するように祐輔は首を横へ振った。そうして菊池に、こう告げる。


「これと比較するように、別の機器で通りを過ぎたカメラって出せませんか?」

「出せるよ。こっちのも動かすから待ってて」


後輩に言われるがまま犯行現場を過ぎた場所の映像を出せば、先輩はお礼を告げられた。しかし分からないのは、彼が言う違いというものだ。


「このレインコート、よく見て下さい。着た当初は裾の辺りが皺だらけですよね」

「ああ。元から付いている皺だから、畳む時に多少乱雑になったんだろうな」


岡がそう返せば、祐輔は次いで現場先のカメラに捉えられた瀬尾の姿を指差して


「でも、こっちでは新品同然なんです。濡れた髪を弄りにくそうに整えているのも、新しいコートで動き難いからです。それにほら、裾の方に皺がないでしょう?」


と言い放った。言われればそうかも、と気付かされた年配達が、ともすればある仮説を思い付く。


「古いレインコートで首藤由美を殺害し、それから新品に着替えてカメラに映った!?」

「別のレインコートが犯行に使われたんなら、そりゃ誰からも血液反応が出なかった訳だ」

「しかしな、そのコートは何処に…あっ!大事そうに抱えてるって例の鞄か?」

「だろうな。もし自宅で洗い流していたとしても、犯行に使ったものを放置していくなんて出来ないだろう。犯人の心理に立てば」


長年刑事として仕事を熟しているだけある。犯行に使われた道具の在処まで想像して話を進めていく刑事達だが、しかしそれもある過程で途端に静けさを生み出してしまった。


「けれどなぁ…折角ならば過去の事件との結び付きも証明したいところだが、如何せん空井桜花である証明がないな」

「そもそも彼女、本当に空井桜花なんですかね?それから都市伝説サイトに殺害依頼を出した人物との関連性も」


過去の犯罪までは証明出来ない。言葉に詰まったこの空間に、祐輔がまた一石投じる。彼の主張はこうだ。


「もし連続殺人犯なら、相当手慣れていると考えるべきです」

「どうしてそう考えた?」

「えっと…始めの防犯カメラを見て下さい。この時点で既に、自分の体を少し濡らしていますよね」

「さっきも誰か言ってたが、そう強い雨と気付かなかったんじゃないか?」

「自分としては、"雨の中レインコートを着替えたら体が濡れる。そうなると万が一の場合怪しまれるから、先に濡らしてしまおう"と。考え過ぎでしょうか?」

「…いいや。何件もの被害者が雨の日に襲われているのは事実。思えばこうして濡れた髪を整えているのも、着替えなかったからとアピールしているように見える。手慣れていると判断するのも納得だ」

「ありがとうございます。となれば」


祐輔と岡の会話がエスカレートしかけたその時。サイバー犯罪対策課に照会を頼んでいた件の返答を得たと、パソコンを覗いていた者から報告を受ける。


「家後部長に依頼していたのって?」

「都市伝説サイトに殺害依頼を出した人物の特定じゃありませんでした?」

「いや、そっちは運営元に依頼を出していたはずだ。家後部長にお願いしたのは"アキラ"と呼ばれる人物の方で」


1人の発言を、別の者が否定する。つい本人達も忘れがちだがこの件は実行犯と誘導役、それから殺害依頼者の3役を要する事件なのだ。しかしパソコンの画面を見ていた者が声を出す前に、祐輔がポツリと呟いて。


「多分、アキラも瀬尾明里だと思います」

「どうしてそうだと言い切れ……ほ、本当だ!確かに文面には瀬尾明里と記載されているが、しかしどうやって」

「驚いた…正直、斉藤くんには持ち場に帰った時にこっそりあの子に話をして助言をもらってくれればくらいにしか思ってなかったんだけど…まさか君も解決に王手をかけるとは。レインコートへの観察眼もだけど、どうやって瀬尾明里だと?」


心底驚いた様子の菊池に、祐輔は答え合わせだと紙とペンを借りて1文字ずつものを書いていく。岡を始めとした刑事課の面々は顔を所狭しと近付けて、祐輔の解説を聞く体勢に入った。


「仰る通り、自分のお陰というよりは七条さんのお陰なんです」

「でも、君には連絡する隙なんてなかっただろう?」

「あはは…そうですね。連絡は取っていないんですが、彼女の遊びに付き合わされたせいで自然とって感じに、」


歯切れの悪い言い方の祐輔を、刑事の1人が肘で突いた。曰く、早く話せの意思らしい。祐輔はすみません!と応えると、急いで文字列を完成させてからこう話し始める。


「まず前提として。自分はこの解決方法に確証がないので、降幡高校に行く際は文芸部の顧問に聞いて欲しいことがあるんです。それから、していただきたいことも」

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