7人の王様と8番目の王子
遠い遠いある国に王様がいました。王様はもうずいぶんと歳をとったので、子供たちの中から新しい王様を選ぶことにしました。
王様は8人の王子を集めるとこう言いました。
「どうだ? われこそは国を治めようという者はいないか?」
すると、8人のうち7人が王様の前に進み出ました。
「長男であるわたくしが王となるのにふさわしいでしょう」
「いやいや、長男を見て直すべきところを知り尽くした次男のわたくしが王にふさわしいでしょう」
「それならば、二人の兄のようにはなるまいとしてきた三男のわたくしのほうが」
などと、7人がそれぞれに、ほかの兄弟よりも自分が王にふさわしいと胸を張るのでした。お互いをけなし合うものですから、兄弟喧嘩が始まりました。
「あー、ごほん、ごほん!」
王様の大きな咳払いに、王子たちは我に返って喧嘩をやめました。
「争うのならば、わしが決めるぞ」
王様は王子たちを見渡して、さて誰にしようかと考えました。すると、末の王子だけがぽつんと離れた場所にいるのが見えました。初めにいた場所から動かずに、ずっと7人の兄たちを見つめていたのでした。
「これこれ、8番目の王子よ」
「はい、父上」
「おまえは王になろうとは思わないのか?」
「ぼくは王様になりたいなどと思ったことはありません。ぼくは末っ子で、7人の兄たちほど世の中を知りませんから。」
「ふむ。そうか。では7人の中から次の王を選ぶとするか」
王様のその言葉を聞いた7人の王子たちは、また喧嘩を始めました。
王様は大きなため息をひとつつくと、「わかった、わかった」と声を張り上げました。
それから、こう命じました。
「7人で順番に王をつとめよ!」
驚いて姿勢を正した王子たちに向かって、王様は続けます。
「1番目の王子は月曜日の王、2番目の王子は火曜日の王、3番目の王子は水曜日の王……」
そのようにして7人の王子を月曜日から日曜日まで当番をきめました。
「それから、8番目の王子よ」
「はい」
「おまえには、玉座の代わりに島をひとつあげるとしよう」
「ありがとうございます。ぼくは城を出て、その島で暮らすことにします」
8番目の王子は城から遠く離れた島で暮らし始めました。
なかなか大きな島で、村がいくつもありました。町のようにたくさんのお店はありませんが、それぞれに野菜を育てたり、ヤギやヒツジやニワトリを育てたり、魚を捕ったりして暮らしています。野菜と卵を交換したり、ミルクと魚を交換したりして、ほしいものはだいたい手に入ります。
王子は日当たりのよい丘の上の家に住み、お花を育てることにしました。城を出るときに庭師からいろんな花の種をもらっていたのでした。
王子の育てる花はどれも美しく長持ちすると、島じゅうの評判になりました。
ある時は、釣り竿を抱えた男が照れくさそうにやってきました。
「王子様、今日はうちの奥さんの誕生日なんです。花束を贈りたいので、この魚と交換してもらえませんか?」
「それはおめでとうございます。好きなだけ花を摘んでください。いやあ、おいしそうな魚ですね」
またある時は、ひっくりかえした帽子を抱えた男の子がやってきました。
「王子様、お姉ちゃんとけんかをしちゃったんだけど、仲直りをしたいんです。これでお花と交換してもらえますか?」
「やあ。これはすごいですね。木の実が帽子いっぱいだ。これだけ集めるのは大変だったでしょう。好きなお花を摘んでいくといい。お姉さんもきっと喜んでくれますよ」
物を交換するだけではなく、お花を渡す代わりに屋根の修理を手伝ってもらうこともありました。また時にはなにも交換をしないで焼きたてのパンをもらうだけだったり、鉢植えのお花をあげるだけだったりすることもありました。
島の人たちはみんな仲良しで、王子もすぐに島の暮らしに慣れました。
季節がいくつかめぐったころ、新しく島に越してきた人たちがありました。すっかり疲れ切った様子だと島の人たちが噂します。
心配になった王子は、花束を抱えてその新しい住人に会いにいきました。
「島での暮らしはいかがですか? 気晴らしに花でも飾ってみませんか?」
すると、新しい住人ははらはらと涙をこぼしました。
「なんてお優しい王子様。月曜日の王様とは大違いだ」
「月曜日の王様はわたしの兄です。なにか困ったことがありましたか?」
「お触れが出たのです。月曜日の王様は、夜の暗闇がお嫌いなんだそうです。なんでも暗闇でおばけを見たことがあるとか。それで月曜日は一晩中明かりを灯さなければならないことになったのです。ろうそくや油がすぐになくなって買うこともできません。翌朝は早起きして仕事をしなければならないのに、明るくて眠ることもできません。けれども明かりを消すと罰を受けるのです。それで困って島に逃げてきました」
「なんということだ。それは大変でしたね。この島では好きなときに明かりを消して休んでくださいね」
それからしばらくすると、また新しい人が島にやってきました。王子様は、花束を抱えて挨拶にいきました。
「島での暮らしはいかがですか? 気晴らしに花でも飾ってみませんか?」
「なんてお優しい王子様。火曜日の王様とは大違いだ」
「火曜日の王様はぼくの兄です。なにか困ったことがありましたか?」
「火曜日の王様は、火がお嫌いなんだそうです。なんでもやけどをしたことがあるとか。それで火曜日は一日中火を使ってはいけないことになったのです。うちはパン屋なのに火が使えないんじゃ焼けません。お客さんが楽しみにしてくれているので、みんなで順番に休みをとって毎日パンを焼いていたのに。けれども火を使うと罰を受けるのです。それで困って島に逃げてきました」
「なんということだ。それは大変でしたね。この島では好きなだけ火を使って、おいしいパンを焼いてくださいね」
それからも次々と新しい人たちが島にやってきました。みんな、新しい王様たちが出すお触れに困ってしまい、逃げてきたのでした。
水曜日の王様は水が嫌いで、水曜日は水を使うのも飲むのもいけなくなりました。
木曜日の王様は木が嫌いで、木曜日は木に覆いをかけないといけなくなりました。
金曜日の王様は金属が嫌いで、金曜日は金属のものを使ってはいけなくなりました。
土曜日の王様は土が嫌いで、土曜日は土の上を歩いてはいけなくなりました。
日曜日の王様はお日様が嫌いで、日曜日は日のあるうちに外に出てはいけなくなりました。
曜日ごとのお触れに困った国民がどんどん島にやってきます。今はみんな楽しく賑やかに暮らしていますが、このままではすぐに島は人でいっぱいになってしまいます。それでは島のみんなが困ってしまいます。
8番目の王子は、7人の王様に会いに行くことにしました。
ところが、困ったことになっているのは町の方でした。すっかり人がいなくなり、荒れ果てているのでした。
王子はお城に着くなり、7人の王様にたずねました。
「これはいったいどうしたことですか?」
「どんどん人がいなくなったせいなんだ。なにがいけなかったのだろう。お触れを出して嫌なものをなくせば喜んでもらえると思ったのに」
王様たちはどうやら、自分が嫌いなものはみんなも嫌いだと思っていたようです。
王子はいいました。
「お兄様たちが優しさゆえにお触れを出されたことはわかりました。けれども、それがよくなかったのではないでしょうか。ぼくは島で暮らしてわかったことがあります。好きなものも嫌いなものも、得意なことも苦手なことも、すべての人が同じではないのです」
島ではみんな違うことが得意で、だからこそお互いに助け合ったり交換したりできるのです。自分ひとりですべてをやろうとしてもできないでしょう。
1番目の王様がいいました。
「8番目の王子よ。おまえは島の人たちとなかよく暮らしていると聞く。どうだろう、その知恵と力を国のためにいかしてはくれないだろうか」
2番目の王様もいいました。
「それがいい。8番目の王子こそ、この国の王にふさわしいのではないだろうか」
3番目の王様もいいました。
「われわれは王の座をおりるとしよう」
ほかの王様たちも「そうだそうだ」とうなずきます。
王子はあわてて首を振りました。
「待ってください。こんなに大きな国をぼくひとりでまとめることなどできません」
「そういうな。おまえならきっとできる。わたしたちよりずっと国民とうまくやっているではないか」
王子は腕を組んで、しばらく考えました。それから顔を上げるとこういいました。
「わかりました。引き受けましょう」
「そうか。引き受けてくれるか」
「はい。ただし、8番目の王となります」
「8人の当番制にするというのか? 一週間は7日間しかないから曜日ごとにはできないし、どうしたものか」
「いいえ。当番にはしません。なにごとも8人で相談して決めるのです」
「ほう」
「お兄様たちの苦手なことがひとりひとり違うように、得意なこともひとりひとり違うはずです。その得意なことを持ち寄れば、きっといい国になります」
「それはいい考えだ。私たちはひとりひとりでは父のような立派な王にはなれなくても、兄弟みんなで力を合わせればよいのだな」
そうして8人の王様たちは、知恵と力を出し合って国をまとめました。8人でもできないことは国民の知恵と力を借りることもありました。
国はとても豊かになり、みんな笑顔で暮らしています。そしてお城にはいつもお花が咲き誇っているのでした。