気付いた気持ちと告白と
2学期。
夏休みは改めて莉緒に気持ちを伝えたうえで、お出かけしたり晩御飯を一緒に食べたりしていたけど特に進展はなかった。
しいて言えば、一応次のお出かけは約束しているくらいだ。
ただ、お出かけも互いの部活の休みが合わなかったりで結局行けておらず、約束で終わったままになってる。
朝の登校時間。たまたま莉緒と朝出会ってそのまま一緒に登校することになった。
一緒に電車に乗った訳だけど、朝の通勤・通学ラッシュの時間だからかなり押される。
「莉緒、壁側行きなよ」
そういって莉緒を壁側に寄せて、俺が壁になるように莉緒の前に立った。
「……」
「莉緒の乗る電車っていつもこんな感じなの?」
「朝だからね。仕方ないわよ」
「いや、そうなんだけどさ。……明日から一緒に登校しない?」
自分ではいい案だと思った。
莉緒と一緒に登校できるし、何よりこの満員電車から守れるし。
莉緒がほかの男とくっついてるって思うとあんまり気分がよくない。
「い、一緒には登校しない」
「な、なんで?」
「……なんでも」
理由は教えてくれなかった。
とりあえず俺と登校するのは嫌らしい。
そのあとは落ち込みながら学校に向かった。
何が嫌なんだろ?
光輝と一緒に登校して玄関で別れて教室に向かうと、窓から様子をみていた詩織が声をかけてきた。
「あら?夏休み中に付き合いだしたの?」
「付き合ってないから。今日はたまたま登校時間が被ったから一緒に来ただけ」
「へー」
詩織を見ると全然納得してない顔してる。
まぁ、今まで帰るのとかも全部断ってたしね。朝時間が被ったからって一緒に来るって変だよね。
詩織は昔からこういうことにすごく鋭い。
どうせばれるんだったら話してしまったほうが変に誤解とかされないし詩織なら周りにはバラさないだろうしいいか。
「……後でいい?」
「ん、いいよ。帰りカフェ寄ってこうよ」
「うん」
放課後、詩織と学校帰りにとあるカフェに入った。
互いにジュースとケーキを注文して、注文の品が運ばれてきたところで詩織に話を切り出した。
夏休み中に光輝に幼馴染じゃなくて一人の男として見てほしいと言われたこと。
線を引かないでと言われて少し向き合ってみようと思って、光輝と出かけたり晩御飯を一緒に食べたり同じ時間を過ごしてみたこと。
浅野と横行もその一環であること。全部話した。
「……向き合う気になったんだ。それで今のところどう思ってるの?」
「光輝ほんとに私の事大事にしてくれるなって。それに幼馴染っていうのもあるけど一緒にいてて安心するというか。……けど、やっぱりまだ男っていうより幼馴染が強くて……」
「それは仕方ないよね。実際幼馴染でずっと来てたのにいきなり男として見るとか大変だと思うよ。幼馴染君もそこは急かしたりしなかったんでしょ?」
「うん。いきなり変えてとは言われなかった」
そういう気遣ってくれるところも小さい頃はなかったんだけどな。
多分付き合ったら光輝は大切にしてくれる。
でも、私が光輝に同じだけのことを返してあげられそうにない。
私が悩んでいると詩織がくすっと笑う。
ん?なんだろ。
「この悩んでる姿を幼馴染君が見たら喜びそうね。莉緒にこれだけ悩んでもらえてるんだから。ま、がんばりなよ。話ならいつでも聞いてあげるから」
「うん、ありがと詩織」
「……自分で気づいたほうがいいと思うし、これはいわないでおこうかな?」
「何かあった?」
「ん。なにもないよ」
ポツリと何かを詩織が言った気がするけど、聞いても教えてくれなかった
2学期が始まって3週間がたった頃。
俺が当番でゴミ出しに行くと、莉緒の告白現場に出くわしてしまった。
思わず草陰に身を隠す。
「あの、好きです。付き合ってください」
「あ、その……ごめんなさい。私、お付き合いできません……」
「そっか……。ごめんねいきなり呼び出して。ありがとう」
もしかして告白受けるのかと心配したが、莉緒は断っていた。
ものすごく安心した。
告白した男と莉緒がそれぞれ場から去るのを確認してから、草陰からでた。
……莉緒可愛いもんな。そりゃあ、誰とも付き合ってないならこういうことだってあるよな。
今日は告白を断ってくれたけど、次もそうとは限らない。
莉緒は恋愛に対して消極的ではあるけど、もしかしたら気持ち替わりしてなんてこともあるかも知れない。
いつまでもフリーでいてくれる保証なんてない。
……ちょっと強引だけど。
莉緒の気持ちを軽んじることになるし本当はしたくないけど、それ以上に莉緒に彼氏が出来てほしくない。付き合うなら俺がって思う。
だからーー
2学期が始まって1月がたった頃。
ちょうど季節の変わり目だからか、暑かったり寒かったりの寒暖差が酷すぎたせいか私は風邪をひいて寝込んでいた。
ベッド脇に置いてある体温計で熱を測ると38度。
一応薬は飲んでいるんだけどまだ下がってない。
両親は仕事に行っていて家には誰もいない。
「……喉乾いた」
両親が仕事に行く前に、ベット脇にペットボトルを置いて行ってくれていたけど、その中身も底をついてしまった。
しかたなくベットから起き上がって、階下のキッチンまで歩いた。
代わりのペットボトルを手に取って自分の部屋に戻ろうとしたとき、足がもつれてその場にこけそうになった。
顔から床に転ぶことも覚悟したけど、実際はそうはならなかった。
私の身体は光輝によって受け止められたから。
「……光輝?」
どうしてここにと疑問を投げかける前に光輝が答えてくれた。
「熱出てるって聞いたから様子見に来たんだけど、こけそうになってたから驚いた。身体凄い熱いけど大丈夫か?」
「大丈夫じゃないから、転びそうになったんだと思うわ」
「まぁそうだよな。……乗って。部屋まで運ぶ」
光輝が私の前でしゃがみこんだ。乗れって意味だよね。
結構歩くのもつらかったから素直に背中におんぶしてもらって部屋まで運んでもらった。
「ごめんね光輝。ありがと……」
「おばさんたち仕事で遅くなるらしいから、帰るまで見ててほしいって言われてさ。見に来た。しばらくいるからなんかあったら声かけてくれ。お腹すいたらお粥くらいなら作れる」
「ううん。こういうときって何となく心細いからいてくれるだけで嬉しいから……」
「そ、そっか…!」
……あれ?いまなんか結構恥ずかしいセリフがさらっと出てしまった気がする。
それに安心したからか、眠気が……。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
一体どれくらい寝てたんだろうと時計を見ると時刻は19時を回っていた。
熱もだいぶん下がったみたいで、体がずいぶんと楽になってる。
寝返りを打った時に布団がやけに重いなと思って見てみると、傍で光輝が眠っていた。
どうやらずっといてくれていたみたいだ。
けどこのままじゃ風邪をひく。
「光輝起きて。こんなところで寝たら風邪ひくわよ」
揺さぶってみるけど光輝は熟睡してしまっているみたいで、一向に起きない。
部活のジャージのままだから、多分終わってからそのまま来てくれてる。
疲れてるはずなのに。
「……ずっと一緒にいてくれてありがとう」
多分だけど熱さまシートを変えてくれてるし、お腹がすいたとき用かはわからないけど、ベットのそばにゼリーとかプリンが置かれてる。きっと買いに行ってくれたんだと思う。
何となく光輝の顔に手を伸ばして前髪をそっと指で触る。
寝顔は可愛いんだけど、私が困ってる時はすごく男らしい顔つきになって頼りになるなと素直に思った。特に今日はかなり助けられた。
「……んー。……あ、莉緒起きたのか?」
「あ、う、うん!少し前に起きたの。ごめんね、疲れてるのに看病させて」
前髪に触れていた指をスッと布団の中に引っ込める。
危なかった……。なんか触れたくなったんだよね。
これじゃ変態じゃない。いや、これって……。
「いや、いつの間にか一緒に寝ちゃってたな。それよりどうだ体調?」
「大分ましになったわ。ほんとにありがとうね」
「莉緒が元気ないと心配だしな。これくらい全然。俺はいつでも来るから、なにかあったら頼ってくれていいから。今日は帰るよ」
「うん。お休み光輝」
「ああお休み」
光輝が部屋から出て行った。
玄関の扉が開いてしまった音がするのを確認してから、大きく息を吐いた。
「私、光輝の事幼馴染としか見れないって言ってたけど、あんなの嘘じゃない……」
最初から幼馴染だから付き合えないと線を引かずにきちんと光輝と向き合った結果、光輝の事を幼馴染でも弟としてでもなく、一人の男の子として好きになってた。
男というより幼馴染のほうが強いと詩織に話していたばっかりだったのに。
こんなことで好きになるなんて単純だなと自分で思う。
もしかしたら自覚がなかっただけで、もう好きだったかもしれないけど。
けど、もしこの気持ちを伝えて付き合ったとしてうまく行かなかったら?
幼馴染にも戻れなくて最初に危惧していた通り関係が壊れてしまうんじゃない?
……それは嫌だ。
そうなるくらいなら今の関係のままがいい。
光輝の気持ちを踏みにじってるかもしれないけど、私は、そうなるなら付き合いたくない。
気持ちは伝えない。
そう決めたのに。
その決意は数日後無残に破壊された。
莉緒の風邪が治ってから数日後。
「放課後、少し付き合って」
「なにいきなり……」
「すぐ終わるからさ!近所の公園にきてくれ!」
「え?ちょ、ちょっと待ってよ」
有無を言わさず莉緒にきてと伝えて去った。
どうせ行かないとか言われそうだから、そういわれる前に。
決意は固めていたけど、その時丁度莉緒が風邪をひいて寝込んでいた。
だから治るのを待って決行することにした。
そして放課後。
近所の公園で待っていると、莉緒が来てくれた。
「来たけど何の用事?」
「今から的あてするから、もし全部当てたら俺と付き合ってほしいんだ」
「……!ど、どうしてそんな話になるの?というか、付き合わないし……。私は……」
「莉緒が俺の事を弟か幼馴染で見てるのは知ってる。散々言われたからな。だからさ、それなら付き合ってそこから俺の事知って好きになって貰えたらって思うんだよ」
莉緒からしたら突拍子もない提案だと思う。
そもそも俺は一度振られているし、莉緒に線を引かずに一人の男として見てほしいとは伝えたけど、結局幼馴染か弟のままだと思うし。
それでも諦めるつもりはない。
けどだらだらして、先日みたいに莉緒が告白されて他の男と付き合ったりするのはもっと嫌だ。
だったら先に莉緒の隣だけでもキープしておきたい。
「この間、告白されてただろ?」
「……みてたの?」
「ごみ捨てに行くときにたまたま出くわしてさ。草陰から見てた」
「そうなんだ……」
「断ったのは知ってるけどさ。俺、不安になった。こうしてグタグタしてる間に莉緒がだれかにとられるかもしれないって。だから今好きじゃなくてもいいからもし俺が的全部倒せたら付き合って欲しいんだ」
「……出来なかったら、これでこの話は最後にしてくれる?」
「……それが条件なら」
俺、そんなに恋愛対象外なのか。
要するにこれからも好きになれないと言われてるようなものだ。
これ、付きあっても意味がないんじゃ……。
「じゃあ達成出来たら私は光輝と付き合う。できなかったらこの話はこれで終わり」
話がまとまって俺は的に身体を向ける。
10mくらいの場所に空き缶を3つ配置しておいた。
手が震える。外したら、莉緒とはこれきりだ。
「……よし」
ボールを空き缶に向かって蹴る。
一つ目は当たった。けど2つ目は無情にも空き缶の隣を転がっていった。
「……」
「……」
「……外した」
「……じゃあ、約束通り付きあわない。もう話は終わり。……私は、このままがいいから」
外れてしまった。
しかも莉緒にこのままがいいなんて言われてしまった。
俺……、完全にフラれたじゃん。
けどー-
「諦めたくない……」
「そ、それじゃあ約束が違うでしょ?」
諦めたくない。
だってー-
「ずっと好きだったんだよ。小さい頃からずっと……。高校生になって、背が伸びて、一回フラれても必死に男として見られたくて、頑張ってきたんだ」
「光輝……。わ、私は……」
「お、俺……!いまはまだ全然だめだけど、絶対莉緒に好きになって貰えるように頑張るから……!だから絶対あきらめない」
「ちょ、ちょっと待って光輝!……違うの、私本当は光輝の事……」
俺は一方的に叫んで莉緒を置いて走り去った。
莉緒が後半何か言っていたけど、その言葉は聞こえなかった。
せっかくチャンス貰えたのに、外すなんて。
あれを決めていたら、莉緒は俺と付き合ってくれたのに。
ってか、そんなに明るくないのに莉緒置いてきちゃったな。
……戻るか。
5分後くらいに公園に戻ると、莉緒はまだ公園にいた。
一人でブランクに乗ってる。
表情が暗いのはさっきのやり取りのせいだろう。
「莉緒ごめん。暗いのに公園取り残して。とりあえず帰ろう」
私は幼馴染のままがいい、そうはっきりと言われた直後だ。
だから送るという行為自体していいのか悩んだ。
けど彼女でなかったとしても、女の子を暗がりに放置して帰るのは憚られるからこのくらいは許してほしいなとは思う。
「光輝はさ、どうしてそこまで私にこだわるの?」
「なにが?」
「……同い年の子にかわいい子いるでしょう?私じゃなくてもいいじゃない……。年上の女なんて可愛くないし、面倒なだけじゃない。特に私みたいなのなんか特に」
「莉緒がいいからこうしてアタックし続けてんだけど。それに莉緒は可愛いし、面倒くさいなんて思ったことないよ。私なんかとか言うな」
理由なんかそれだけ。
同い年の女の子にひかれる前に、莉緒に惹かれた。
以来、ずっと莉緒にしみていない。
一つくらい年上なくらい、俺にとっては些事だ。
「光輝は凄くまっすぐだよね。……それに比べて私は全然駄目。……こんなことになっても、自信がなくて……。ううん、ごめん、帰りましょ」
莉緒はブランコから降り歩き出した。
これ以上話す気もないのか莉緒は帰り道何も話してくれなかった。
自信……?何が駄目なんだ?
莉緒に直接聞きたかったけど、聞いてほしくなさそうで俺は結局何も聞かなかった。
「詩織、年下ってどう思う?」
「それって恋愛対象としてどうかって話?」
「そう」
「……幼馴染君となんかあった?」
次の日。昼休み。学校の食堂で詩織と一緒にお昼ご飯を食べていた。
私ひとりじゃ答えが出せそうになくて詩織に相談することにした。
どうせこういう相談をした時点で誰の事を言っているのかとかすぐばれるのは分かり切っていたから素直に頷いた。
空気で察してくれたみたいで詩織は黙って聞いてくれるみたい。
「昨日、光輝にいきなり公園呼び出されて、空き缶全部倒したら俺と付き合ってくれって言われたの。今好きじゃなくても、付き合っていく中で俺の事好きになってくれたらいいからって。この間、告白されたって話したでしょ?あれ見てたみたいで、不安になったんだって」
「相変わらず幼馴染君直球ねー。それでどうなったの?」
「結局倒せなくて、倒せなかったときは付き合わないしこの話はこれで終わりにしてって言ってあって……」
「あら?どうしてそんな条件だしたの?」
詩織は若干あきれ顔だ。
少し言うのをためらった。
これ言っちゃったら詩織も流石に私の事最低って思うよね……。
「ちゃんと聞いてあげるから話してよ莉緒」
「……私ね光輝の事好きなの。男の子として。……なのにずっと気持ちを伝えてきてくれてる光輝に幼馴染のままでいたいとか言って逃げてる。昨日も、外した後ずっと好きだったから諦めないって言われて、私の本当の気持ちを伝えてあげればいいのに誤解させたままで……。けどね、怖いの。……付き合って関係が変わるのも、付き合って別れたりして関係がなくなっちゃうのも……」
「……それで年下がどうって悩んでるのは?」
「仮に付き合ったとして、私いままで光輝ことを散々お幼馴染だとか弟みたいって言ってたのに、今更彼氏彼女の関係になれるのかなって。甘えたりできるのかなって……。そもそも今は年上だとか気にしてないって話だけど、つきあってみたらわかんないし」
付き合うのが怖い。
関係が変わるのが怖い。
それが私が光輝と付き合うのを躊躇う理由。
あれだけ気持ちを分かりやすく伝えてくれているけれど、付き合ったとたんに熱が冷めてしまって別れたりがあるかも知れない。それなら最初から幼馴染のままのほうがいい。
……もう光輝の事をただの幼馴染で見ていなかったとしても。
「……距離が近いのも考え物ね。けど私から莉緒に言えるのはこれだけ」
「……」
「幼馴染君と話したほうがいいわ。彼だって男として見てほしいって言ってたんだし、莉緒のその気持ちも受け止めてくれるでしょ。というか、嬉しいんじゃないかしら?あれだけアピールしてるくらい好きなんだから。逃げてたらそれこそ何も変わらないわ。莉緒もずっとこのままじゃ駄目だと思ったから私に相談したんでしょ?」
「……そ、そうだよね。私……、光輝と話してくる。今の自分の気持ちを正直に話してくるわ」
「うん。それがいいわ。じゃあ、さっそくライン送りましょ。さすがの幼馴染君も昨日のそれは落ち込んでると思うし」
「う、うん」
iPhoneを取り出して早速光輝にLINEを送る。
話がしたいから時間が欲しいです。昨日の公園で待ってるから放課後来てと送った。
しばらくすると光輝から放課後行くと返信がやってきた。
……莉緒、話あるって言ってたけどなんだ?
部活中。ずっと同じことばかり考えている。
今は一郎試合形式の練習をしているんだから、集中しないととわかってはいるんだがどうしてもそれが気になって仕方がない。
昨日完膚なきまでにフラれたはずだ。諦めないとは伝えたけど、莉緒からしたらもはや俺はストーカーにしか見えないかもしれない。
そんな脈なしの意中の相手からの呼び出し。
間違いなく昨日の話だと思うけど。
「あっ、おい光輝!ボール!」
その声に我に返るとボールがもう目の前まで迫ってきていて、打ち所が悪かったのか俺は気を失った。
放課後。
公園で光輝を待っていたけれど、結局光輝は来てくれなかった。
……放課後行くって返信くれたのに。
一人とぼとぼと家に帰ったら、ドアを開けた瞬間お母さんが血相を変えて走ってきた。
少し驚いた。
「アンタ、どこ行ってたの?!」
なにかあったのかな?
凄く慌ててる。
「ちょっと公園に行ってただけだよ。どうしたの?」
「どうしたのも何も、光輝が部活で気を失って病院運ばれたって」
「え?」
それからすぐに病院に行った。
え?気を失ったって何……?まだ、何も伝えられてないのに……。
とにかく病院に走った。
病院に着いて光輝のおばさんから話を聞くと、どうも部活中にボールが頭に直撃したらしく気を失って病院に運ばれたらしい。いまは意識も回復して明日にでも退院できるそうだ。
それを聞いてとても安心した。
光輝が私が来たら二人で話したいと言っていたらしくて私だけ病室に入った。
病室に入ると光輝がベットの上にいて、私の顔を見ると申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめん莉緒。約束したのに行けなくてさ。多分待っててくれただろ?」
「よかった……。無事だった……」
無事だとはさっき聞いていたけど、実際に顔を見ると安心した。
ちょっとだけ涙が出た。
抱きつきたい衝動にかられたけどぐっと我慢した。
まだ私が光輝に大事なことを伝えられてないから。
「……結局おれは心配ばっかりかけてるんだよな。こういうところが手のかかる弟とかに見られるんだろうなきっと……」
「……違う。弟になんか見てない……」
「へ?」
弟に見てないと否定した私に光輝が気素っ頓狂な声を出した。
そういう反応するよね。だって意味わからないもん。
私が光輝でも散々幼馴染だとか弟って言われていたのに、それを否定されたら戸惑うと思う。
「……私ね、光輝の事好きなの。男の子として」
「……」
光輝が私の言葉を聞いて固まった。
……もしかして、直球すぎたかな?
もう少し前置きがあったほうがよかった?
「あ、ごめんな。黙り込んで……。や、けどさ、昨日はこのままの関係でいたいって……」
当然の疑問だと思う。
昨日はこのままの関係でいたいって言われたのに、今日は打って変わって男の子として好きだなんて言われてるんだから。
ちゃんと言わないと……。
「私ね、怖かったの。光輝と付き合うの……。うまく付き合っていけるかも自信なかったし、別れちゃったりしたらこうやって光輝と話すこともなくなっちゃうのかなって思ったら、踏み出せなくて……」
「昨日も確かに言ってたな自信ないって……。あ、そういうことか。聞いたら駄目だと思ってさ。聞かなかったんだよ」
他にもアピールされて嫌じゃなかったことも迷惑じゃなかったことも話した。
けどどうしてもさっき言った不安が勝ってしまって付き合うことに踏み出せなかった。
「光輝って年下だし、散々幼馴染とか弟だって言ってたのに、今更、その……、光輝に甘えたりできるのかなとか、彼氏彼女の関係になってうまく付き合えるのかなとか不安で……。私、前の彼氏には私といてもつまらないって理由で浮気されて別れたって話したでしょ?」
「言ってたな。最低だと思った」
「付き合って時間がたったら光輝の私の気持ちも薄れちゃって、またそういう風に振られたらいやだなって。前に付き合った人はそうなんだくらいで終わったけど、光輝に同じ事されたら流石に嫌だから。光輝の事信じてないわけじゃないけど、万が一が怖い。関係が壊れるくらいなら、このままでいたいって思ったの」
「……」
光輝が黙ってる。
多分引かれた。光輝を付き合う前から信じきれてないしで最低だと思う。
こうなってしまった以上はもう覚悟してる。
だからー-
「……今までありがと。私の事好きでいてくれて。前にも言ったけど、光輝にはもっといい人見つかるから。だから、もう私には近づかないで……。大学進んだら一人暮らし始めるつもりだから、もう会わなくなると思うし」
光輝との関係は終わりにする。
この恋は終わらせる。
もとはといえば私が素直に気持ちを伝えていれば、光輝とこんなことにはならなかった。
昨日、私が勇気を出して好きの二文字を伝えていれば、光輝を傷つけることはなかった。
私には光輝のそばにいる資格なんてない。
「いや、待ってくれ。なんで離れるの前提なんだよ」
「え、だって……」
だって、こんな面倒そうな女と付き合うの嫌でしょう?
少なくとも私が光輝の立場だったら、嫌がると思うけど。
「時間がたっても浮気しない自信はある。そんな付き合ってる相手に失礼なことしねーよ。それに7、8年ずっと莉緒に片思いして、やっと好きになって貰えたんだ。そもそも今のこの状況って、莉緒が俺を大切に思ってくれてたからこうなってんだろ?……だったら距離取る必要ないだろ」
「……なんで」
「もう7、8年ずっと莉緒に片思いしてるし、今更莉緒以外と付き合う気なんて起きない。今更それくらいで気持ちが変わったりしない」
「……7、8年」
全然気づかなかった。
小学4、5年くらいからずっとってこと?
そんな素振り全然なかったのに。
私の考えを察したみたいで、光輝が苦笑いを浮かべた。
「莉緒が俺の事幼馴染とか弟にしか見てないのは分かってたから。高校生になるまではアピールしてこなかった。身長とかのびたら少しは男として認知してくれるかと思ってさ。まぁ、しなかったことで莉緒がほかの男と付き合って、それを知ったときは相当落ち込んだけどさ。入学前に誰とも付き合ってないって聞いて安心もした」
「ごめんね」
「莉緒が謝る必要なんてない。莉緒悪いことしてないしな。莉緒がかわいいってわかってたのに放置した俺が悪い」
私が悪いよ。心の中でつぶやいた。
だって、そんな気持ちでいてくれたのに光輝の気持ちを踏みにじってる。
私、どこまでも最低じゃない。
「じゃあ、莉緒改めて。……俺、莉緒が好きだ。絶対大切にする。昔は守られる立場だったけど、これからは俺が守りたい。だから、俺と付き合ってください」
「……はい」
私がその場で返事を返すと、光輝がその場で小さくガッツポーズしてる。
思わず笑ってしまった。
「……めちゃくちゃ嬉しいな。昨日シュート外して絶望してたんだよ。もう莉緒を彼女にできないって。諦める気はなかったけどさ、完全にフラれたって思ってたから正直かなり堪えた。しかも、今日せっかく莉緒から呼び出されたのに、部活で気を失って起きたら病院のベットの上だしでさっきまで落ち込んでたんだよ」
「気を失ったって聞いたけど、熱中症?」
「いや、試合形式の練習中にボーっとしてたら頭にボール直撃した。当たり所悪かったらしくてその場で気を失ったらしい。大丈夫だと思うけど、念のため1日入院だってさ」
「光輝が病院運ばれたって聞いて心配した」
「ごめんな心配かけて。けど大丈夫だから。……それで莉緒。あの、俺たち付き合い始めたんだよな?」
光輝が不安そうに聞いてきたから、「付き合い始めたけど……」と返した。
まぁ、私もそもそも関係を断つ気できたっから付き合い始めたって実感がない。
そんなにいきなり変わらないだろうし。
「その……、抱きしめたりさせてもらえると嬉しいなとか……。俺、付き合えたら最初にしてみたかったのがそれなんだよ」
「……いいけど。人来たら嫌だから少しだけなら」
「え?!いいのか?!」
私かいい返事が返ってくると思ってなかった光輝がひどく驚いてる。
私、そんなに断るように思われてたの?
「どうしてそんなに驚くの……?付き合いだしたのに今までと全く同じとかないでしょう?そりゃあ、いきなり色々変えてとか言われると無理だけど、これくらいなら……。それに、私も光輝と恋人っぽいことしてみたいし」
「じゃ、じゃあ……」
ベットから立ち上がる光輝に私が抱き着いた。
背中にそっと手を回すと、光輝がそんな私を抱きしめ返してくれる。
「莉緒って昔は大きく感じてたんだけどさ。こうしてると全然小さいよな。なんかすっぽり入る」
「……光輝が大きくなっただけだと思うんだけど」
なんか生意気になったし、身長伸びてかっこよくなってるし、高校生になってからの光輝に何度ドキドキされられたかわからない。
何度交際断ってもグイグイくるし。
結局好きになっちゃってるし。
「……ほんといつの間にか私の中の光輝のイメージ変えられちゃったんだよね」
「それならよかった。変えたくて頑張ってたからな」
「……私、光輝の事好きよ。……好きになった、の方が正しいかもしれないけど」
「……お、おう。ありがとうな」
「……なんか悩んでいたのが馬鹿みたい。最初から素直に話してたらよかった。それなら光輝傷つけることなかったのに。……ほんと私って」
私のくだらない考えのせいで、光輝を悩ませてた。
ほんとならもう少し早くにこういう関係になれてたのに。
私が素直になりさえすれば。
私が自己嫌悪に陥っていると、光輝が「違うよ」と言って空いた右手で私の頭をなでてきた。
そうされるのが安心するのか、つい身を任せてしまう。
「……そういう面も含めて莉緒なんだから、変に自分を否定しなくていいんだよ。そういう面も含めて莉緒の事好きだしな。付き合うペースも急かすつもりないからさ。ゆっくりでいいって思ってるし」
「……私のペースに合わせていたら、ほんとにゆっくりになっちゃうわよ。だから、ある程度光輝が引っ張ってくれたらうれしいなって思うけど」
私が言うと光輝がうれしそうに微笑んだ。
その顔を見れて嬉しいと思える辺り、私結構光輝の事好きだったんだと遅ればせながら気づいた。
こんなの幼馴染で絶対いられなかったじゃない。
「莉緒、さっき甘えられるか不安だって言ってたけど、十分甘えてると思うぞ。正直俺がびっくりしてる」
「え、嘘、全然でしょ私」
「まあ、うん。自覚ないならいいや。なるべく俺がリードするよ頼りにされるの嬉しいしな」
「う、うん、よろしく」
こうして私は1つ下の幼馴染と付き合うことになった。




