賭けには勝ったが、勝負には負けた そんな金曜の夜
金曜日エッセイ 後編堂々の完結なのです。
何言ってんの? という方は、前編『金曜日の魔法』も読んでみてね~。
日常と妄想のはざまで揺れ動く、骨太のヒューマンドラマエッセイ、ここに開幕。いや閉幕。
皆さまは、『すあま』をご存じだろうか?
私がこよなく愛するおでんの具『ちくわぶ』同様、関東以外ではあまり知られていない和菓子だ。
知らない方のために簡単に説明すると、上新粉(うるち米を粉にしたもの)を湯でこねて蒸し、砂糖を加えて熱いうちにつきあげて作る。
モチモチとした食感とほのかな甘みがくせになる、至高のスイーツなのだ。
見た目は白とかピンクのものが多く、関西の方からすると、かまぼこにしか見えないらしいが、れっきとした和菓子だ。三食すあまでもいけるほど大好きだ。
しかし……『ちくわぶ』と『すあま』が無いとなると、私はたぶん関東から生涯出ることはないだろうな。この二つが無いだけで、世界は彩を失ってしまうのだから。
今日は、そんな『すあま』に関わるお話なんだけど、全然関係ない話。なんのこっちゃ。
昨夜はいわゆるマジックフライデー、私にとっては魔法の金曜日である。
毎週金曜日の会社帰り、自分へのご褒美にスイーツを買って帰るのがささやかな楽しみだ。
そのために、私は一週間かけていつものスーパーでリサーチをしている。金曜日に何を買って帰るのか、選ぶ過程もまた、楽しみの一環なのだから。
一昨日木曜日の夜、帰宅途中で立ち寄ったいつものスーパーで、私はある重大な決断を迫られることになった。
――――すあまが、二割引きになっている……だと!?
あろうことか、私の大好きな『てまりすあま』に値引きシールが貼られている。
経験上、『てまりすあま』に値引きシールが貼られることは滅多にない。それだけ人気の商品に値引きシール……。
喜ぶべきところなのかもしれないが、すあまファンの誰かが具合が悪いのかもしれない? そう思うと素直に喜んでばかりもいられない。
とはいえ、店側の発注数が多かった可能性もある。ここは前向きに受け止めるべき場面だろう。
だが、ここで問題になるのは、今日が木曜日だという事実。
私が買って良いのは金曜日だけだ。自らルールを破るわけにはいかない。目先の快楽に溺れてしまったら、金曜日の魔法が解けてしまう。それだけは避けなければならない。
消費期限を確認すれば、明日金曜日までとなっている。
――――待てよ、今日買って帰って、明日金曜の夜に食べれば良いのでは?
5分ほどその場で立ち尽くす私。周りから見れば、それは怪しい姿に違いない。
結局、金曜日の夜に買わないと魔法がかからないと結論付けて、その日はスーパーを後にした。
次の日、私は激しく後悔していた。
あああ……せっかくすあまが安く食べられるチャンスだったのに、私は何をしているのだ。今日の朝ごはんを『すあま』にすれば良かっただけの話だ。
一日中『すあま』のことを考えながら、金曜の夜を迎えた。
――――すあまが、半額になっている……だと!?
私は目を疑った。昨日二割引きだった『てまりすあま』に半額値引きシールが貼られている。
ふ……ふふふふふふ、勝った!! 私は……賭けに勝ったのだ。
別に賭けてもいないし、散々後悔していたくせに、我ながら現金なことだ。今夜は金曜日、もう迷う理由など一つもない……はずだったのだが。
――――半額の『てまりすあま』が、三つもある……だと!?
そうなのだ、まさかの三つ。この商品は、意外に大きくて結構ボリュームがある。いつもなら一つで十分満足な量だ。
だが、半額だ。これを見逃す手は……ない。
二つ買っても半額なのだから、プラマイゼロ、それは構わない。だが、三つ買ったら、マイナスなのではないだろうか?
すあま売り場で5分ほど悩む。多分店員さんは私のことを『すあまの妖精』だと思っているはずだ。
はっ!! もしや……私がいつもすあまを見ているから、仕入れを増やしてくれたのか?
だとすれば、もし私が買わなかったら、今後のすあま枠の削減は不可避。それだけは避けたい。店員さんの期待を裏切ることなど出来ようか。
結局……三つ買った。
消費期限切れまであとわずか。
果たして……食べきれるのか……私?
賭けには勝ったが、勝負には負けた そんな金曜の夜のお話。
ちなみに〇イオレット・エヴァーガーデンを録画し忘れていることに気付いた私は、完膚なきまでに敗者でした。
※三つのすあまは、私とひだまりとねこで美味しくいただきました。