一話 噂の宗教
最近忙しい中、久しぶりの投稿なのでどのくらいのをペースで更新出来るかは分かりませんが最後までお付き合い頂けると幸いです^_^
すでに完結している「電脳世界の天使はリアルでも俺の天使だった」は初投稿の作品で、自分で言うのもアレですがかなりの傑作になりましたのでそちらも読んでいただきたいです(._.)
ブランコが二つ音を立てながら揺れている。
夕日が辺りを包み一日の終わりを告げる頃、少年は少女に誓う。
「僕が……ちゃんを守れるように強くなるから!」
腰ほどの長い髪をなびかせて少女は答える。
「なら私はともくんを幸せにするね!」
ゆっくりと目を開くと朝の日差しが差し込んでくる。
「またこの夢か、俺ってどんだけ記憶に残る思い出少ないんだよ……」
昔、近所に住んでいた女の子が親の仕事の都合で海外へ引っ越す事になり、一緒に遊べる最後の日に二人で誓いを交わした。そんな遠い昔の夢をよく見る……
枕元の時計を確認し、しばらくスマホをいじった後だらだらと身支度を整え家を出た。
家を出ると生暖かい風が頬をかすめた。七月に入ったばかりとはいえ肌に感じる気温は夏を感じさせる。
今年の春から大学生になった俺は家を出て大学近くに部屋を借り、一人暮らしを始めた。実家から三駅しか離れてないので実家からでもそれほど不便はないのだが大学生といえばサークルの仲間と楽しく日々を過ごし、休日には彼女とデートが当たり前なので一人暮らしの方が何かと都合がいいな!と思っていた入学前の俺に聞きたい……
「サークルってどこに入ればいいんだよ! 彼女ってどうやって作るんだよ!」
「……」
特にやりたい事があるわけでも好きな子が居るわけでもない俺が一人昔の自分に言いながら大学までの道のりを歩いていると後ろから声が聞こえた。
「何ぶつぶつ言ってんだよ」
「いや、何かいい事ないかなーと……」
駆け寄ってきた男が問いかけた質問に返答した。
「そのセリフこの三ヶ月で聞き飽きたなー ちなみに神崎友也さん的にはどんなのがいい事なわけ?」
「いや、そう言われるとピンとこないな……彼女出来るとか?」
「何で疑問系なんだよ」
「じゃあ逆に聞くけど安藤直樹さん的にはどんなのがいい事なんだよ!」
フルネームで茶化すように聞いてくる友人の直樹に仕返しの意味を込めて同じ質問を投げかける。
「俺的には今日の学食の日替わりがとんかつならいいなー」
「お前、幸せなやつだな……」
直樹とは入学初日に講義で話しかけられたのがきっかけで仲良くなり、三ヶ月という短い期間ではあるがそれなりにこいつの事が分かってきた、短絡的ではあるが親しみやすく今後も仲良くやれそうだなと思う。
学校に着き、お昼に学食で落ち合う事にした俺たちは別々の講義へ向かった。
俺の一限目は英語で、朝から分からない単語が書きつられているホワイトボードと睨めっこする。英語のテストは単語さえ暗記しておけばそこそこの点数をとれるので、頭の回らない朝にノートに写すだけでいいとは俺好みの講義だ。
午前中の講義を終えた俺は中庭の廊下を通って待ち合わせの学食へ向かった。学食に着き券売機の脇にある横に小さな黒板を見ると今日の日替わりはミックスフライと書かれていた。
「直樹、ドンマイ!」
今朝の会話を思い出して心の中で呟き、券売機で日替わりの食券を購入して、料理を受け取った俺は直樹といつも座る端の席に座った。向かいにはすでに俺を待っていた。直樹がニコニコしながら俺に話しかけてくる。
「これはこれでありじゃね?」
「日替わりの話か? 食べたかったのとんかつじゃなかったのかよ……」
「白身フライとチキンカツだぞ! それにヒレカツ! これってとんかつだろ?」
「まぁ……」
俺の想像していたものとは違うのだがヒレカツを頬張る直樹を見てやっぱり幸せなやつだなと再認識した。
しばらく講義の話や来月から始まる夏休みの話をしながら食事をしていると直樹が不意に話題を変えた。
「そういえば友也聞いたか?」
「何を?」
「一カ月前から近くで活動してる宗教の話!」
「宗教? お前、とうとうそんなものに入ったのかよ……幸せになれる壺とか買わないぞ……」
「いや、俺の事どう思ってるんだよ! まぁいいわ、俺も聞いただけなんだがこれが面白いんだよ」
宗教の噂とは確かに不思議ではあるが直樹にとって面白い話が俺にとっても面白いかは分からない…とりあえず話を聞いてやる事にする。
「で、どんな活動してるって噂なんだ?」
「近くの公民館の部屋を借りて幸せについて話してるらしいんだけどさー」
「うわー……よくありそうな話じゃないか」
「まぁまぁ聞けってそこの教祖は会費もとらなければ宗教勧誘してるってわけでもないらしいんだよ、ただ自分の考えを話してみんなに幸せになってほしいだとよ」
「へぇー お金を巻き上げるわけでもなければ信者を集めるわけでもないのか……でもそういうとこもあるんじゃね?」
確かにニュースなどでお金を騙しとる詐欺のような内容を目にした事もあるし、普通は会費などがかかるものと思っていた俺のイメージとは違うが、そもそも仏教やキリスト教といったメジャーな宗教の知識すらない俺が知らないだけで、他人の幸せを本気で願うような人が教祖として活動するって話も世の中にはあるだろう。大学で噂になるようなものでもないと思うのだが……
「で、ここからが面白い所でさ、実際に行ったやつの話だと実際に幸せな気持ちになれたらしいんだよ」
「うちの大学にも怖いもの知らずが居るもんだなー」
「近くの公民館で活動してるみたいだし、お前も何かいい事ないかなーとか言ってるだけじゃなくて何か新しい事でも始めてみろよ」
笑いながらそう言う直樹を見て嫌な予感がした。
「直樹、まさか俺にその宗教の活動に参加して来いと?」
「さすが! 察しがいいなー」
こいつ、正気かよ…他人から聞いた根拠のない話で友達に勧めるか?普通…
「冗談きついぞ、俺が行くと思うか?」
「俺は本気で言ってるぞ! それに大学の先生の耳に入ってその先生が危険視したみたいで、確かめに行ったらしいんだよ。その先生の話によるといい経験になるから行きたいやつは行ってみろって事らしいぞ!」
「先生がそういうなら問題はないんだろうけど…」
「俺、今日はバイトで行けないんだわ、友也が行ってみて良さそうなら別の日に行ってみようかと」
「まぁ考えとくわー」
軽く話を流して食事を終えた後、俺たちはそのまま別れて午後の講義を眠気と戦いながらうけた。
一日の講義が終わり、直樹に例の宗教について詳しく聞いた俺は、まぁ興味もあるし特に予定もないので公民館へ行く事にした。
橋を越えてすぐの所にある公民館で、近くに公園があるせいか子供の笑い声が聞こえてくる。数メール先に、コンビニと中学校というこの場所でどんな事を話しているのか、ますます興味が湧いてきた。
「そういえば昔、あの子と約束したのはそこの公園だったな……海外で元気にしてるといいけど」
今朝、夢に見たせいかそんな事を不意に考えてしまう。俺は、友達を作るのが苦手というわけではないのだが誰かと深い仲になるのは面倒と感じ、人と一線を引いて接している。そんな所も理由で、思い出に残るような出来事はそれほどない。
「さて、そろそろ腹を括るか……」
懐かしい思い出に浸りながら覚悟を決めた俺は公民館の中へと足を進めた。
公民館の中は何度か利用した事があり、変わり映えしない。そのまま直樹に聞いた部屋に向かい、部屋の前で足を止めると部屋のドアに貼られてある紙が目に入った。
幸せになりたい方は中へどうぞ
「えーー……やっぱり帰ろうかな……」
何とも胡散臭い紙を見て覚悟が揺らぎ、部屋の前をうろうろしていると中からおばあさんが出てきた。
「こんにちは〜 あなたも幸せになりにきたの?」
「こ、こんにちは……大学でここの話を聞いてきたのですが…」
「中にお入り、お茶を入れてあげるわ」
「あ……ありがとうございます……」
この部屋は一番奥にあるので通りかかっただけとも言えず、再度覚悟を決めた俺はおばあさんに連れられて中に入った。部屋の中は長テーブルが三つ並んでいるだけの簡素な作りで五、六人くらいの人が座っていた。前のホワイトボードには十七時より幸せについての話と書かれてる。
「初めての人は一対一で代表から、ここの説明を聞く事になっているのよ。初めて来ましたって言えば伝わるわ」
「おばあさんが教祖の方ではないんですか?」
「私はあなたと同じで幸せになりに来ただけよ」
どうやらおばあさんは教祖の方ではないらしい、ホワイトボードの前に教壇があり、そこに座っている人が教祖の方らしい。
「色々と教えていただきありがとうございました」
お礼を言って教壇に向かおうとする俺をおばあさんが呼び止めた。
「あ、最後に一つ……ここの噂が広まっているみたいだけどあの子は教祖様とか呼ばれるのを嫌がるからやめてあげてね」
柔かに笑いながらそういうおばあさんに分かりましたとは言ったが宗教の代表が教祖様と呼ばれるのを嫌がるとは疑問は尽きないな……まぁ本人が説明してくれるだろうと期待しつつ教壇に居る人に話しかける事にした。
最後までご愛読いただきありがとうございました!
今回は宗教というものに触れていますがこの場をお借りて一つ言わせてください。
私は宗教というものへの知識はないに等しいレベルで、本気で信仰している人の目から見ると不快に思う表現もあるかもしれません……ですが私としては宗教というものへ批判する気持ちは一切ありません、無知な事で不快な思いをされる方がいらっしゃいましたら本当に申し訳なく思います……
批判やこの表現どうなの?などがありましたらコメントいただきたいなと思いますのでよろしくお願いします!