006.変わる兆し
リビングのカーテンを閉めるとチャイムが鳴った。
インターフォンのディスプレイでキャップを被り段ボールを抱えた男の姿を確認して通話ボタンを押した。
「はーい。」
「アマゾンです。」
「はーい。」ロビーの施錠ボタンを押して玄関に向かう。
玄関のドアを開けて宅配業者を待っている間、何となく外の最上階まで吹き抜けた空間から覗く空を眺めていた。夕方の茜色に夜の帳が降り始めている。足音が近づき先程の男性が姿を表す。荷物を受け取ると「サインは無しで、このままで大丈夫です。」と告げて直ぐに引き返して行った。
玄関に設置している猫脱走防止用ゲートを開けて内側に入りもう一度ロックする。宅配が来るといつもはジルがゲートの内側で興味津々に待ち構えているのだが今は姿が見えない。
サラダ油の御中元サイズの段ボールをリビングのテーブルに置いて特に何も考えずに封を開ける。
もちろん青いカエルはその中にはいない。
緑の蝶々も、赤いダンゴムシさえも入っていない。
空の段ボールを眺めていると少し肩を落としている自分に気づいて驚いた。何でがっかりしているだろう。たぶん、いやきっとある種の変化のきっかけを期待していたのだ。それが自分の行動の外側から都合良くやってくることを。
"よくないな。そういうのはよくない。"
「よくないな。」と呟いた瞬間、意識の外側から箱の中にジルが飛び込んできた。
その口には青ざめたカエルが咥えられていた。