救われた者
コンコン、という音が鳴ると、部屋にナナグロさんとチェインさんがバァン!とドアを叩きつけながら部屋に入ってきた。
メキメキって音がしたのは気のせいだろうか。
「おい、大丈夫か!」
「アンちゃん!もう起きたって本当!?」
「多分大丈夫だよ。ちょっと体が痛いけど、お薬も飲んだししばらくしたら治るよ」
ルーチェによると、勇者になったおかげで回復力がかなり上がったとのこと。
それがなかったら一週間は寝ていたかもしれないらしい。
そんなことを教えてくれたルーチェは、現在姿を消している。猫だから、大きな音に反応して逃げ出したのかな。
「お二人は大丈夫なんですか? なんなら私よりボコボコにされていた気がしますよ」
「流石にそれはない。確かに馬鹿みたいに蹴られたけどお前よりは蹴られてないし、チェインの『癒しん水』のお陰で怪我した瞬間に回復したから今は痛みすらない」
「それに、単純に技術の差だね。私達は攻撃をされる時に、ダメージを抑えるために出来るだけ後ろに引いてダメージを少なくしていたの。アンちゃんはそれが出来ていなかった気がす。あとは……防具の差?」
「防御面は俺達方が上だな」
「う……今後頑張ります」
今まで矢を当てるだけだったから、攻撃を喰らうことを想定していなかった。
防具に関しては、木の上に移動したり走りながら矢を放ったりするので、重い装備は嫌だ。
まぁ装備は仕方ないけど、自分の防御技術が低いことに反省する。
「で……まぁ、その」
ナナグロさんの歯切れが悪い。
「あの金色になっていたやつは、なに?アンちゃん」
チャインさんが申し訳なさそうに話しかける。
一応、二人には勇者だと言うことを教えたくない。
本当は教えたいのだけれど、ルーチェが「何かあったら最悪だ。例えあの二人にも、国の王にも、親にも言うんじゃないぞ」なんて言うのだから仕方ない。
「えーと………………なんのことかな?」
「『誤魔化すの下手くそか!!』」
頭の中でルーチェの怒号が聞こえる。
どうやって話してるか分からないけど、そうか。これが魂の繋がりか。
自分でも下手くそだなと思ったけど、いままで人とあまり話したことないのだから、仕方ない。
「『開き直るなアホ! はあぁ……いつか言うから、今は聞かないでほしい、とでも言っておけ』」
「えと、いつかイウカラ、イマは聞かないでほしい……かな。うん」
「『棒読みだし発音変だぞ』」
うるさい。
「……そうか、まぁお前がそう言うなら聞かないでおく。その代わり、何かあったら言えよな」
「うん、私も使いやすいアイテムとか分けてあげるよ」
「二人共……ありがとうございます」
二人の善意がありがたい。
心からそう思った。
この宿に泊まってから……ちがう、起きてから二日目。
ベッドから起き上がり、軽くストレッチをする。
……未だに肋骨と首が痛い。動けはするけれど、全身が少し痛い。
一応、大事を取るために痛みが完全に引いてから旅に出る予定だが、こんな調子でいつ旅に出れるというのか。
コンコン
「入ってもよろしいかな」
この声は、あの時護衛した商人さんの声だ。
「どうぞ」
「失礼します。おや、もう起きても大丈夫な体ですか?」
「一応もう大丈夫です。まだ体のあちこちが痛いですが」
「そうですか」
すると、商人さんは急に膝を付いて私に頭を下げる。
「あの時は、魔物の脅威を去ってくださりありがとうございます」
「え……いや」
「貴方様は命の恩人です。わたくしツクモは貴方様に忠誠を誓います」
「ちょ、ちょっと待ってください!忠誠なんていらないですし、クエストの通り私は護衛をしただけですよ」
「それでも、命の恩人なのには変わりないです」
「だとしても、忠誠はちょっと……」
「『いいじゃねーか、忠誠の一つや二つくらい。別にお前の生活が変わるわけじゃないんだし』」
それは、そうだけど。
「お願いします、貴方様の願いならば、この手足を使いなんでも致しましょう」
「……そこまで言うなら、お願いします」
「おお! それならお怪我が治りましたら、是非私共のお店に来てくださいませ」
「わかりました」
「『今のままじゃ、持ち金も少ないし、装備品もボロボロだしな。存分に使わせてもらいもう』」
そんな、盗人みたいなこと……装備品?
『装備品』という単語で思い出し、部屋の片隅に置いてあった私の荷物を調べる。
「どうかなさいましたか?」と心配の声をくれるが、それを無視する。
持っていた物はある程度見ている。矢が残り数本しかないとか、サバイバルキットが見当たらないなどの、パッと見で無いと分かるものは。
バサッとお父さんから貰った防具を広げてみると、装甲となる硬い部分がバキバキに割れて欠けている。
ふうぅー。
「すみません商人さん、色々お願いします。」
「そ、そうですか。まぁ、私と致しましてはいくらでも渡しますので」
救った人がこの人で良かったと、心から思った。