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白猫ルーチェ

 金色で、眩しい。

 五人。

 金色で眩しい五人から、よく分からない話をされた、気がする。

 そんな長い長い夢を見ていたような気がする。


 目を開けて、また閉じた。


 ぼんやりしていた頭から逃げるように、重たい瞼を少しずつ開け、見ている物が木目調の天井とハッキリと分かるようになった頃には、意識は現実に戻されていた。


「……ここは?」

「ドミノ宿屋の医楽天よ」

 知らないおばさんだ。

「ドミノやど……えっ? ドミノ? じゃあここは、王都?」

「そう、王都ドミノよ」


 なんということか、起きて目が覚めたら目的地に着いていた。


「でも、なんで?」

「あなた、クエスト中に気絶したらしいじゃない。ボロボロのチャインちゃん達がここに来て大慌てよ」


 女の人がそう言い、やっと目が覚めたのか、昨日の記憶が蘇ってくる。

 迫りくるラビットユニコーンの群れ、そこで私達は蹴られに蹴られて、確かその後……。


「私が……やった?」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ! なんでもありません!」



 勇者に覚醒して、ラビットユニコーンの群れを沢山倒したんですよ! なんて、言えるわけない!



 たった今、全て思い出した。

 金髪に彩られた髪の毛、魔力で生み出した黄金の矢、何かに乗っ取られたかのような動きでラビットユニコーンを射抜いていった自分自身を。

 いや、実際に乗っ取られたのかもしれない。

 あんな動き、私には出来ない。


「まぁいいわ、もう少し寝てなさい。さっき身体のあちこちを見たけど目立った外傷はもう無かったわ。念のためそこにあるスープ飲みなさい。まずいけど」

「まずいんですか?」

「めっちゃまずい。まずいけど、内臓とかに無理矢理効かせる薬みたいなもんだから、我慢しなさい」

「ありがとう、ございます」

「じゃあ、私はお暇するわね」


 ありがとうございますだけど、まずいと言われたら正直ありがたくない。

 そんなことを思いながら、去っていく彼女を見送った。



「やっと、一人になったか」

「ふぇ?」

「久しぶりだな、そろそろ目は覚めたか?」

「貴方は!」


 頭上に出てきた白い猫、確か名前は……名前は――――――。


「――――――ルーチェ!」

「だいぶ時間掛からなかったか?」

「寝てたから」

「今後はちゃんと覚えてくれよ? お前が名付け親なんだし」

「そんなことよりさ」

「話をぶった切るなよ。なんだ?」

「そんな色だったっけ?」


 初めて会った時、今とは違いもっと金色に近い色だったはずだ。

 今は私の髪みたいに真っ白だ。


「勇者は力を付けていけばいくほど髪の色が金色に近づく。俺達の色は勇者の髪の毛と同じように金色に近づいていく」

「えっ、私もあの色になるの」

「そうだ。嫌か?」

「うん。絶対ってレベルで嫌だ」

「即答かよ」

「私の髪色はお母さんの遺伝なの。お父さんと一緒に狩りに出て、疲れて帰ったところにお母さんの料理を食べるのが好きだった。狩りの技術はお父さんから。髪の色はお母さんから。だから、嫌だ」


 大好きなお母さんとの唯一の繋がり、お母さんはそんなことないと言っているけれど、私はそう思ってる。


「そうか……まぁもしも強くなっても金髪を回避する方法があったらそれを探そうな。少なくとも歴代の勇者は全員金髪だったが」


 優しい猫で良かった、正直金色よりも白の方が似合ってると思うし。



「さてと、しかし人魔族が勇者になるとはな」

「――――あれっ? 私ルーチェに人魔族ってこと言ったっけ」

「言わなくても分かるっつーの! 俺達は契約して、魂で繋がっているんだ。」

 ……魂で繋がってる、の意味が分からないけど、なんとなく言ってることは分かる。

 分からないのに分かるって、何言ってるんだろう。


「だが、これまで以上に人魔族であることを隠さなきゃいけなくなったな」

「ん? 隠すのは当たり前だけど……これまで以上に? どうして?」

「どうしてって、お前は勇者になったんだぞ? 勇者は目立つ存在だ。これから教会のお偉いさんや王様、勇者と聞いて崇める市民達が、勇者が人魔族と聞いたら失望してしまう!」

「それは……確かに。でも、失望じゃ済まないかもね。教会って、頭おかしいらしいから。勇者でも人魔だと分かったら処刑されるかも」

 それくらい怖い存在だと、私は思ってる。

「流石に教会も勇者だから殺さなそうだが……まぁ、もしもバレたら吾輩がなんとかしてやる」

「どうやって?」

「頑張る」

「……そっか!」


 あまり期待しないでおこう。



「それで、私はこれから何をすればいいの?」

「そうだな、とりあえずこの街から離れようぜ。ここは王都ドミノ、人間族で一番有名な国と一点もと過言じゃない国だし、なにより協会本部があるんだ。勇者であること、人魔であることがいつバレてもおかしくない」

「で、でも」

「でも、じゃない。いいか? アン、お前はまだ勇者であることをあまり自覚してない」

「そ、そんなことは……」


 ない、と言えなかった。

 確かに、わたしは流れるままに契約して、流されるままにルーチェと会話していた。

 もう少し、危機感を持った方がいいかもしれない。


「そうだ、その顔だ。だがそれだけじゃ足りない。とりあえず、今目指すのは竜の谷だ」

「竜の谷って、あの?」


 物語で何度も見たことがある単語。

 作品によって設定とかそこにいる生き物は変わるけれど、一貫して言えるのは『修行する場所』だった。


「あぁ、ただ今あの場所に行っても、ドラゴンモドキにすら手も足も出ないで死んでしまうだろう」

「じゃあどうするの?」

「修行だ」

「へ?」


「修行する場所にいくために修行だ。そうだな、この国からさらに北に行くと『チャトランガ帝国』がある。そこでクエストをじゃんじゃんこなそう」

「修行するために修行……それ、例え竜の谷に行ってそこで修行した後も修行とか言わない?」

「流石に言わないぞ。というか、普通は勇者であることを王様に言って、支援金をたんまり貰って、めちゃめちゃいい装備買って、ある程度楽して竜の谷に行くんだ。その工程をお前は吹っ飛ばさなきゃいけないから、手間なんだよ」

「王様に人魔族であることを明かせば?」

「ワンチャン晒し首でそんなこと出来るか!」

「勇者殺して大丈夫なの?」

「お前さっき自分で『勇者でも処刑されるかも』って言ったじゃねーか!んなリスク背負う気は吾輩ないぞ!!」

「あの、はい。すみませんでした」


 ちょっといい猫かと思えば、意外とキレやすい猫だった。

 それにしても、こんな思いっきり喋ったのは久しぶりかもしれない。

 チャインさん達との会話も楽しかったけれど、少し控え気味だった気がする。

 ただ、ルーチェとは腹を割って話せるというか、無意識にそう思ってるかもしれない。

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