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樹海にて。 学び場にて。 謎の家にて。

 今何か、大きな大きな魔力の塊が、直ぐ近くにあった気がした。

 全てが変わってしまったあの日のような魔力が、すぐそばにいるかのように。


 もう、魔力の気配はない。 気のせい、とは思えないが


「なんか、すげぇでかい魔力がありましたね」

「だな。 一応警戒しなくちゃいけない」


 この魔力がなんにしても、俺達、俺が今敵う相手ではないだろう。


「魔王かも、しれないな」


 あの時感じた、ジメジメ……というより、肌で感じる嫌悪感は今は感じなかったが、アレに似た魔力の圧はあった。

 魔力を扱うのが苦手なおれでさえ分かる魔力の流れは、あの時と、今感じた魔力だけだ。


「逆かもしれませんよ」

「逆?」

「勇者とか?」


 そう、仲間が言って納得する。 が同時に、もしも今の魔力が本当に勇者の者ならば、魔王が生まれて二カ月、何をしているんだという気持ちにも思える。


 ……考えても仕方ないか。


「とりあえず、今は―――」


 少しでも前に進まないと、そう自分を鼓舞するように独り言を零そうとする前に、自分の足がズレるような感覚、いや、ズレた。

 太陽の光が一切入ってこない樹海、荒れ狂う根っこや柔らかすぎる土に足元を取られたのか、右足の義足が取れた。


「あっ、もうスティーブさん、話すことに来とられてましたねー」


 あの日から俺をサポートしてくれるやつが近くによって付け直すのに手伝ってくれる。

 親分が最後にくれた魔力でくっついたり動いたりするこの魔道具は、俺のような魔力が扱いが下手くそな人間でも歩くことが出来るが、このような険しい道だとすぐに外れてしまう。


「……」


 情けない、そう思う。

 一応、今はこの盗賊団を仕切ってはいるが、頭の俺がこんなではすぐに解散してしまうだろう。



「……」



 ジメジメとした森の中。

 服の中の水分がひんやりとべたつきながら、この荒れ道を歩く。


 今は、今だけは、我慢する時間だ。

 俺の欲しい力はすぐそこにある。

 それを、掴めば。

 それを手に入れれば。

 親分の敵は、討てる。

 魔王を、殺せる。


 あのクソガキを、殺せる。




「アンは」

「ん?」

「アンやおかぁさんたちは、ひかりまほうのことなにもいわなかった」

「鋭い質問だねぇ。 実は、人間族が光魔法を扱いやすい体質なのは魔人族にはあまり知られていない」

「どうして?」

「光魔法はあまり研究が進んでいないからねぇ」


 ロアヴェリスはペンを右手でクルクルと回しながら、壁に貼り付けた白く大きな紙に、あれやと書き込んでいく。

 ルカはいつの間にかいなくなっていた。

 大方、好きな人のところにでも行っているのだろう。 厄介ごとを押し付けられたロアヴェリスは、この状況を楽しめても押し付けられたことに対しては不満げだ。

 それを子供に見せるほどロアヴェリスは子供ではないため、授業のようなものはまだまだ続くが。



「そもそも、まほうってなに?」

「ほおーう、その疑問に辿り着くのには後十年くらい掛かると思っていたよ」

「?」


 何を言っているか分からない、様子。

 それもそうか、概念の考えなんて、子供の頃から考えても大人になってからも自由だ。


「魔法が何か―――」




「その疑問は、この世の魔法研究学者が永遠に悩みぶつかる壁よ」


 ズラリと並べられた焼き魚のテーブル。

 なんとなーく思ったことをネネさんに聞いてみたら、すごい真面目な顔でそう返された。


 あ、これなんか美味しい。 お肉だけど、お肉とは全然違う、そんな美味しさ。

 そういえば、魚って本でそこそこ見ていたけど実際に見るのは初めてかもしれない。 調理後だけど。


「私は……そうね、『魔力を消費して、自分の望みを叶える手段』……と、思ってるわ」

「自分の望み?」

「例えば―――」

 ネネさんは何もないところに手を出す。 何をしてるのか、私も何かした方が良いのかと思っていると、そこからコップのような形状をした氷が出現した。

 そのまま水魔法のお水を入れて、何も言わずに飲み干した。

「水が欲しいから、魔力を消費してコップを作って水作って飲んだ」

「…………はぁ」

「それが、望みよ」


 聞いた瞬間は分かんなかってけれど、首を捻ってもう一度ネネさんの言葉を頭の中で復唱して、ようやくネネさんが言ってることが至極単純なことだと理解した。


「つまり、『敵を倒したいから火を出す』とか、その程度の事ですか?」

「その程度って言うけど、それって凄いことじゃない?」

「凄いこと?」

「だって、貴方は魔物を倒すのに弓と矢を使って射貫くし、剣を使って切り裂くし、拳で嬲るかもしれないれど、その手段の一つに魔法が入るし、道具らしきものもいらない」

「んー……」

 言わんとしてることは、分からなくもない。

「貴方は魔人領土から人間領土まで瞬間移動してきたじゃない。 それって、魔法を使わなかったら何時間何十時間も走ってきたのよ」

「あー」


 言わんとしてることは分かった気がする。


「……まぁ、難しい話はここでやめておいて、少しだけ面白い昔話でもしようかしら」

「面白い?」

「そもそも、人間族って元々魔法を使わなかったって話、聞きたい?」


 人間族は元々魔法を使わなかった?


「聞きたいです」

「そう。 と言っても、実は全部ヒビキから教えてもらった話なんだけどね」


 そう言って、ネネさんは語りだした。

にて。

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