直視しなきゃいけな現実
二人が話しかけてきて、私は少し考える。
教会がここに来たということは、先程の大量発生したダーイラとの戦闘で勇者の魔力を感知した後すぐに教会は動き出したのだろう。
アンさんが勇者モードになっている意味は、正直分からない。
もしも教会に見つかっても勇者の力を使う必要はない。
村が襲われて逃げた人でも装えばいいはずだ。
もしかすると、それが出来ない程パニックになっていたのかもしれないけれど。
「……今は、挨拶よりも魔物を優先して倒していたいのですけど?」
そうやって不愛想に返事した後に、アンさんが動き出したようで。
勇者の魔力はあまりにもでかく特徴的で、矢を飛ばしたりする魔力が繊細でありながらしっかりとした魔力が籠っているため、私くらいならこんなに遠くでも「動き出した」程度なら分かる。
「あぁ、それだけど僕に任せてよ。 きっと、君よりも早く片づけられる」
鼻に付く言い方をしながら背中の槍を抜き出して、のそのそとペガサスが私に歩み寄る。
実際、アランさんはスピードタイプ。 それに加えてペガサスがいるのなら、魔力消費無しで空を駆けながら敵を探し、空から槍を突き刺すことも出来る。
唯一の不安点は、村の狭い場所には行けないのと、ペガサスがダーイラに間違えられないかが心配だが……正直断る必要はない。
「ここは僕一人だけでいい。 今は急いで勇者様の元に向かわないと」
「……」
「要件はアランに聞いてください。 それじゃ」
そう言って、イレンは空を駆けて行った。
勇者の元に、か。
「それじゃあ行くぞ」
「どこにです?」
「イレンの話を聞いていなかったのか? 勇者様の元だ」
今さっき、アランさんに話し聞けって聞いたんですけど???
内心思ったことをぐっ と飲み込んで、けれど出てしまったため息。 代わりに出てくる言葉が思い浮かばないので直球で聞こう。
「要件を聞きたいんですけど」
「ペガサスの上で話す。 今は一秒でも早く勇者の元に向かいたい」
この人達、私が断ると思ってないな。
断らないけどさ。 上下関係が無いにしても、【黒】の中では一番後輩だし。
逆に考えて、ここでアンさんに会って加勢しよう。
きっとアンさんも想定外が続いての勇者状態なのだろう。
私は、そう思いながら嫌々ペガサスに乗った。
見た目魔物の生物であり、『神の召使い』と呼ばれるペガサスは魔法では出せない速度で森の上空を駆ける。 これの空飛ぶことを『駆ける』と言っていいのかは分からない。 今更か。
「お前と勇者様の関係はなんだ」
「……」
アランさんが感情の籠っていない声で背中越しの私に聞いてきた。
正直、アランさん達が、教会が何をしたいかなんて聞く暇なんてもうなさそうだし、今一度アンさんとの関係を再確認する。
関係、関係か。
『忠誠』を誓った。
奴隷のような『契約』ではない。
冒険者のような『仲間』かもしれないけれど。
仲間のように寄り添ったアレは、ただの『金魚の糞』だった。
『忠誠』は誓った。
今の私は、忠誠というものはただの口約束にしか思えない。
国や王に尽くそうと、尊敬する人に尽くそうと、その人らから「裏切られた」と思われてしまえば、金色の忠誠心は黒色に見えてしまう。
私とアンさんの関係性か。
「そんなの、どうでもいいかな」
一呼吸置いて出た結論が、これだった。
「どうでもいい?」
訝しげに聞く。
「うん」
「興味深い。 何か隠し事があるような、その場凌ぎの言葉じゃないのが特にな」
「そうっすか」
教会が、アランさんが何を探っているかは知らない。
私とアンさんの情報もどこまで知っているか知らない。
だから、安易に情報を渡したくないという意味を含めての「どうでもいい」だったけれど、時間が一秒二秒経った後に、自分の心が落ち着くような気がした。
勇者の魔力にだんだんと近づいていく。
金色の雰囲気は眩しく光る。
アンさんの元に着いた時の立ち回りを考えなくてはいけない。
とりあえず、アンさんと戦っている誰か……恐らく【黒】の誰か。
勇者と戦いが出来るのは、【黒】か魔王軍幹部、そして魔王だ。
それ以外だと戦いにすらならない。
……正直キツイ。
話合いが通じればいいけれど、戦闘中の話し合いなんて出来る気がしないし、足とか壊したり魔法で拘束して戦闘不能状態にするのも、うっかり殺すのも、どちらも難易度が高い。 私は殺したくないし。
臨機応変。
便利な言葉だと思った。
アンさんの姿が草木の間と間から一瞬見えては草木で隠れた。
ここからなら、ペガサスを降りてもいいだろう。
そう思った矢先。
「―――ネネさん!?」
アンさんの真後ろに突然現る三角帽子。
恐らく瞬間移動の類だろうが、そんなことを考える前にアンさんは消えてしまった。
ペガサス操るアランさんは「チッ!」と大きな舌打ちをした後、先程アンさんがいた空間まで降りる。
その場にいたのは、私達【黒】を、ギルドを纏め上げているレギオンさんだった。
「よおぉアラン、ついでにヒビキ。 遅かったじゃないか」
「すまないギルド長、もう少し俺が早く来ていれば」
「仕方ない仕方ない、歴代で最も強い魔法使い、最魔女のネネに邪魔されたんだ。 早く来ても何をしても連れて行かれてたよ。 なぁヒビキ?」
爽やかそうな顔を作っているこちらを向く。
「そうですね。 なんなんでしょう」
「なんなんでしょうって……そっちも想定外ってことか」
「それはそうでしょう。 そもそも、こんなことになるなんて誰も想像出来るなんて思っていませんって」
既に私達がアンさん……いや、勇者と手を組んでいることが周知の事実っぽいことは放っておいて。
ネネさんと最後に通信したのは、魔人族から瞬間移動する前に軽く連絡した時くらい。
仲間というか協力者ではあるし、アンさんは人間領土に帰ることに真っ先に言ったし、人間領土まで飛ぶのにどれくらい魔力が必要かなどよく相談した。
けれど、私達がここに来たことなんて報告とかしていないし、私達がピンチだから助けてなんて連絡もしていない。
もしかしたらアンさんが連絡した可能性もあるけど……アンさんとネネさんが連絡取る方法は、中継として私が必要だ。 土壇場で何か新しい技術を生み出してネネさんと連絡手段を取った可能性もあってもおかしくないのがあの人たちだけど、今はその線は考えたくない。
となると―――。
「冷静に考えて、勇者の魔力に反応してその位置を特定。 勇者の真後ろに瞬間移動した後、即座に勇者を誘拐。 すぐさま瞬間移動。 この時場所はどこでもいいのか」
レギオンさんの冷めてきた頭の推理。
そこに付け足す。
「どうでしょう、飛んだ後の勇者の魔力の位置はジュカイ。 ここからの距離はそこそこ遠く、捜索も困難な場所。 そして、数秒もしないうちに勇者の魔力の反応が消えたことから、勇者状態を解除した」
「チッ……このネネ信者が。 アラン、いますぐ教会の連中に連絡してジュカイを調べさせな。 瞬間移動した可能性も高いが、念の為だ」
「分かりました」
ネネ信者って。 私は一番尊敬しているのはヒナさんだって言うのに。 いや、今はアンさんか?
アランさんはレギオンさんに言われた通り教会に報告するためにペガサスに跨り、飛行してはすぐに姿を消す。
さてと、私はどうしようかな。 村に戻ってダーイラの様子とかでも見ようかな。 教会所属のイレンさんだからきっと一つ残らず殺していると思うけれど、念のためだ。
それに、村に戻らないと荷物を回収できない。 仮面を回収して、すぐにネネさんと連絡を取りたい。
「それからヒビキ、お前はギルド本部に戻りあの勇者の報告してもらう。 いいな?」
……ですよねー。
ただ、これに関しては答えは考えている。
「ごめんなさいギルド長、いやです」
シンプルに断る。 これが一番だ。
「……拒否権はない。 今、魔王の影響で魔物は変異して暴れに暴れている。 それは、二か月姿を消していたお前でも分かっているはずだ。 いますぐ、いますぐ勇者を魔王の元に向かわせないといけない」
「知っています」
アンさんは知らないらしいから、傷つかないようにやんわりと伝えたはしたが。
魔王が長生きすればするほど、魔物は変異していき狂暴になっていき、人間が襲われる。
生態系なんてものはぐちゃぐちゃになり、魔物を利用した人間の事業は崩壊し、住処や食料を、命を奪われる。
ダーイラ村がいい例だ。
ダーイラの毛皮や肉などを売って生活していた村が、ホマツチヨとハキキハを伐採して加工してを生業とした人が。
ダーイラの変異により、木は異常に喰われ住処を襲われ村はボロボロで人は何人も死んだ。
たまたま私とアンさんがいたから、被害はまだ少なかったけれど、もしも冒険者が一人もいなかったら村は形すら留めていなかった。 ここらの木は喰いつくされ、村の家屋を喰われ、次の村に向かって侵略してもおかしくない。
そろそろ、アンさんだけじゃなくて現実を見なくてはいけない時期か。
これは、魔王が生きている限り。
アンさんが生きている限り、永遠に起こり続ける。
「なぁ教えてくれ、アン。 勇者は、何を考えている」
レギオンさんのらしくない顔を私に見せる。
……私は情には弱い。
けれど―――。
「私も教えてほしいな、アン」
黒髪のウルフカットと赤いメッシュが着地と同時に揺れる。
私が一番尊敬する冒険者であり、ブーメランというマイナー武器で【黒】に上り詰めた女。
「―――ヒナ、さん。 いつからここに」
「最初からだよ。 ギルド長と勇者が戦う前からいたんだけど、危ないと思って隠れていたんだ。」
「……」
「そ、そんな顔しないでよ。 元々私はここに一人で来てたし、ギルド長や教会も来てるとは思ってなかったし……どっかの誰かさんと違って、脅迫みたいなことして話そうともしなかった」
「脅迫? レギオンさんが?」
意外だ。
この人は戦闘狂であること以外は普通に常識人で、人を貶めたりするような人ではない。
いや、身内なら割とするっていうか、おふざけ程度ではするけど。
「俺は話し合いとか苦手だからよ……会話の流れっつーか、そんな風に伝えるしかなかったし、脅迫みたいに受け取られるとは思ってもなかった」
いや、これは言い訳か。 と、目線を少し下に向けて、後頭部を搔いている。
そっか、何かあったのかととか考えたけど、この人なりに考えがあっての発言があって、その結果がこれだったんだ。
ちょっと失敗するけど、人間のために勇者を説得しようとした、と考えれば普通ではあるか。
「勇者と戦えるってことだけに喜んで戦うし、そんなんだから戦闘狂とか言われるんだよ」
「そこに関しては反省したりしてなかったりする」
前言撤回、やっぱこの人おかしいや。
「まぁ、そこらへんの話はあとで良い。 どうだ、話す気になったか?」
「えぇー……」
少し和んだ空気のせいで素で嫌そうな声が出た。
「んー、ヒビキが頑なに言わないのが分からないんだよね」
「アンさんは秘密が多いんですよ……一応、武具を受け取らない理由には恥ずかしいとか言ってますし」
アンさんが言った、真実ではあるけど真意ではない言い訳を述べる。
私は、お二人の顔を見ないで語り続ける。
「私はこれから、アンさんの元で旅を続けます。 ……アンさんのしたいことについていくだけです」
「……そっか」
納得していないはずなのに、納得した表情を見せるヒナさん。 反対に、レギオンさんは釈然としな表情をし続ける。
「……なぁヒビキ」
「なんですか?」
「暴力に訴えていいか?」
「は?」
何を言っている。
駄目に決まってるでしょ。
「いや、だ―――」
「いいね! さすがギルド長!」
「ヒナさん!?」
いや、確かに私のわがままで黙っているけど!
情報全然得られなくてつまんないとか、レギオンさんは獲物が逃げてムカついてるとかあるだろうけど!
最近の私はそういうの多くない!?
「……逃げるー?」
「逃げれると思うか? こいつだぜ?」
レギオンさんはヒナさんを指さす。
そうなんだよなー、ヒナさんなんだよなー。 逃げれる気がしない―。
「はぁー……分かりましたよ。 そのかわり、日が落ちたらそこで終了、お互いにアイテムは使用しないというルールを付けてくださいね」
「なんでだよ」
「二体一だからですよ!」
「えー! 『対人戦闘最強』がおとなげなーい!」
「【黒】が二人ってだけでも相当厳しいです! まだ【赤】百人を相手にする方がマシですよ!」
私は内心キレながら、冷静にルールを決めていく。
黙って逃げたら大怪我で済むか分からない、ただ戦うにしてもこの二人ならいつまでも戦い続けるだろう。
まだ、戦った方がマシだ。
自分の中のスイッチを切り替える。
どうせアンさんの居場所は分からないし、勝てるか勝てないかの戦いを最近出来ていなかった。
再び後悔しないためにも、私は今よりも強くならなくてはいけない。
身体は、ダーイラとの戦闘で既にあったまっている。
「ヒナ、本気出さないと負けるから、覚悟してかかるぞ」
「当たり前! ギルド長こそ足引っ張らないでよね!」
容赦ない二人に、私はうっすらと笑った。
GW最高
お仕事は覚え始めて楽しい時期ですが、毎日身体がクタクタです。
そんな時にやるギャルゲーが最高というのを見つけられたのは、人生の大きな発見の一つにあげるでしょう。




