勇者 VS ギルド長
一瞬もしないうちに金色の矢が三本放たれる。
標的は勿論、ギルド長のレギオン。
アンはレギオンという名前も知らないけれど。
不意打ちにも近い攻撃だが、レギオンの戦闘スイッチは既にオンに切り替わっていた。
重たそうな鎧と巨体を思わせない跳躍をして矢を躱し、そのまま真後ろの木を蹴り加速しながら、両手を合わせて頭の上で振りかぶる。
「ダッシュで来たから武器持ってきてねーんだよ! フルパワーじゃないのが申し訳ねぇ!」
レギオンは、笑顔だ。
眼は喜びに満ち溢れ、口角は限界まで上がり、髪は勢いでおでこが丸見えだ。
アンはレギオンとは正反対で無表情だ。
金色に輝く煌びやかな目は、この時間が無駄と思うような眼。
口元は棒一本のような平坦な口。
髪は重力と風力と魔力に身を任せて、彼女の意志とは別に右に左に踊らせている。
黙って殴られるつもりはない。
アンは空中のレギオンに向けて再び弓矢を引く。
今度は一本だけ。
しかし一本に含まれる魔力量は先程とは比べ物にならない魔力が含まれていて、光り輝く矢は真っ直ぐとレギオンの腹に吸い込まれてようとしていた。
少し遠い空から二つの魔力が動いてこちらに向かってきたのを感じた。
女性は、この戦いを一秒でも見逃さないようにと、そして、何かあった時のためにと十数メートル先でアンを見つめていた。
レギオンは無理やり体を捻るように右回転し避ける。
アンとレギオンの差は腕一つ分。
右回転の勢いを利用して、両手に力と魔力を込めて、頭目掛けて、全身全霊で! 殴る!!
アンは、手に持っている弓を消し、そのまま腕を掴んで後ろに投げようとした。
淡々と、アンのしたい「拘束」に向けてここまで戦況をコントロールした。
(後は叩きつけて、魔力の糸で拘束して、急いで離脱して―――)
レギオンが、アンの腕を掴んだ。
アンが掴んだ腕はレギオンの左手だけ。 両手を離してしまえばもう片方の手なんて自由だ。
そして、レギオンならば片腕だけで人を投げられる。
地面にはレギオンが、空にはアンが。
お互い簡単には着ている物に汚れを付けない。 レギオンは叩きつけられる前に手だけで立ち上がり、アンは空中で受け身を取る。
イライラする、思い通りにいかないことにムカムカする。
ふと、気付く。
思えば、私は初めてこの勇者の力を「人」に振るった。
なんだかんだ、あいつを殺した時も、ヒビキさんと戦った時も。
全部、魔王の力を使っていた。
それもそのはず。
勇者は、魔族を滅するために力を使い、対して魔王は、人を滅するために力を使う。
勇者が人を倒すために使う力ではないのだ。
ならば、アンは―――。
使う?
「早まるな! アン!!」
頭の中か私の体の外か分からない、ルーチェの声が、聞こえた。
落ち着け、落ち着こう。
いま私が勇者の力を使っているだけでも、人間族はパニックだし、魔人族も、多分パニックだ。
もしも今魔王の力なんて使ってしまえば、私の計画が破綻する。
「おいおいどうした? まさか、もう疲れたなんて言わないよなぁ」
動きが止まったアンに、間髪入れずに攻撃に移る。
「……チッ!」
アンは人生で初めて舌打ちをした。
だが、悪態付いてる暇もない。
「『セイクリッドアロー』」
二代目勇者、アルカナの必殺技であるセイクリッドアローは、虚空から大量の光の矢を放つ魔法。
「光上級魔法、それくらいなら俺でも出来るぜぇ! 『土土人形』『鳳凰乱舞』『セイクリッドアロー』」
土魔人でアンの周りを囲い、大量の矢を炎を纏う大きな鳥と様なものが、アンを襲う。
しかし、これくらいならばアンは余裕だ。
土土人形に向けて矢を放ち穴を開け、なんなく脱出する。
「流れが悪いなら、こうするのが一番」
次の一手を撃たれる前に、アンは跳躍し空に浮く。
弾幕。
レギオンを狙わずに、数に任せて魔力を撃つ。
魔王になってからはこればかり練習していて、勇者でも出来るか不安だったが……。
出来てはいた。 出来てはいたが、気持ちのいい物ではなかった。
それでも、レギオンは前傾体制を改めて回避行動に移り、ペースはアンが掌握した。
「『瞬間移動』」
「は? 『瞬間移動』」
レギオンが瞬間移動で行方を眩ませ、アンの素直な声が口の中でこだました後、自棄になったアンも瞬間移動で先程レギオンがいた場所に移動。
瞬間移動戦になった場合、相手がいた場所に瞬間移動すれば攻撃を喰らうことは無い。
実際に、レギオンは先程アンがいた場所に思いっきり蹴りを入れていた。
ああすればこうする。
攻撃と対応、経験と才能、魔力量の差でアンは有利ではあるが。
後に来る教会に、先程空を飛んでいたであろうペガサス二頭が来るのも時間の問題。
……辺り一帯、どうなっても仕方ないか。
笑いながら突っ込んでくるレギオンに、アンは体内に魔力を指先に集中させ―――。
「■■■■■■■ 『高等空間転移』」
――――――え?。
子供っぽい、けれど知的で、とても芯のある声。
あまりにも高速で難解で、全く聞き取れない魔法の詠唱の後、私の視界は、レギオンから見知らぬ森へと変わった。
太陽の光はあまり入ってこないためか薄暗く、湿った空気が―――。
「アン、姿を解いて」
この声、は。
「……ネネさん」
久しぶりの再会、この前会った時とそんなに変わらない、でかい三角帽子と紺色ローブだ。
「話はあと、いいからその勇者状態解いて」
「は、はい」
ちょっと強い声にドキッとしながら、身体をリラックスして、勇者状態を解いた。
久しぶりにあんなに身体を動かして、身体中に魔力が活発に動いてるのが自分でも分かる。
「おーけー、ならすぐこの魔法陣に乗って」
地面に描かれた、巨大な魔法陣。
予め用意していましたと言わんばかりの準備の良さに思わず呆然としながら、ゆっくりと魔法陣に乗った。
青い光が一瞬視界いっぱいに広がると……そこは想像を絶する部屋だった。
戦闘シーンはもっと長く書きたい俺VS出来るだけ短く終わらせたいアン
明日は誕生日、明後日は押しアイドルのライブです。楽しんできます。