むけるめ
「人間の魔力と魔人族の魔力は全く違う」
学場の中にある小さな一室、誰も利用していなくて少し鼻がムズムズする。
一人の人魔族の少女と私。
椅子に座り、その何も感じていないような眼を向けてくる少女に、記憶の中に染みついた文字を読み、私なりの言葉で少女に伝える。
「一番の違いは、光属性の魔法の適正が高いかどうか、だと言われている」
「ひかり?」
「そう。 『ライト』」
私は手に魔力を集め、光を出す。
「これが、光魔法」
「……はぁ」
「これは人間族が得意とする魔法だ。 我々も使えるが、明かり程度でしか扱えない」
「……」
一瞬だけ眼を反らして、しかしすぐ真っ直ぐ私を見つめる。
取り残された少女、クローバ。
彼女は今、どんな思いでその眼を私に向ける?
「クローバちゃんが、私に会いたい?」
通話越しに聞こえてきたルカの声。
どうやらあの会議の後ちゃんと学場に行き、ちゃんとクローバに会ったようだ。
私からしたら、どうしたらそこから私に会いたいという話になるのか分からない。
「はい、貴方に魔法を教わりたいそうで」
「にゃはは、光栄なことでもあるけれど……魔法を教えるくらいなら君達でも出来るでしょ?」
「数多くの研究をしたロアヴェリスがいいと」
「にゃーその気持ちは分かるけど……」
分かるけど、今は人魔についてとことん調べたい。
分からないことは多い、分かっていることも多い。
そこから繋がる知識と未知と経験が混ざり合って、新たな知識と未知と経験が生まれる。
それを、今は邪魔されたくない。
ついでにアブソリューの調整も片手間にしなくてはいけない。
「ちなみに聞くけど、今だけ?」
「ていきてき」
「だそうです」
んー、可愛らしい声色に凄い無邪気で傲慢。
私が言えたことじゃないけれど。
しかし、相手は魔王の……なに?大事な人の一人だ。
あまり邪険には扱えない。
それに、クローバちゃんには魔法の才は多くあり、年齢的にも成長するなら今だろう。
そちらに向く、欲あり。
「分かった、私から向かえばいいかい」
「向かうも何も、私達でさえ貴方の場所を知らないのに、どうやって?」
「あぁそれもそうか。 にゃはは、なになに――――」
私は重い腰を上げ、ドアを開け、とりあえず歩き出す。
「すぐに向かう」
「……そうですか、なんだか貴方の居場所が分かった気がします」
「まぁ、部屋出たらなんとなく魔力漏れちゃうのが感知しちゃうだろうしね」
真新しい木の匂いと子供の声。
一メートル以上の身長差がある私に、怖がったり、興味の顔を向けたり。
歩き始めて三十秒。
「やぁ、きたよ」