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ダーイラVSヒビキ&パレット

 黒くて小さくて、この世界で一番硬い木と言われているこれは『ハキキハ』と言うらしい。

 一メートルから二メートルしかないのにそう言われているのは凄いなと初めて知ったときはそう思ったが、身近にそんな人(ネネ)がいたなと思い出し思わず笑う。


 ダーイラが好む木は細くて長い『ホマツチヨ』だ。

 私達の人間からすれば軟らかくて加工しやすくて、長いから量も稼げる優れものらしいが、ダーイラからすれば食べやすくて量が多くて美味しい木らしい。


「こっちがホマツチヨが多い場所だ」

「ダーイラって、昔来たときはもっと全体にいた気がするんだけど、変異してからダーイラの行動パターンは変わったの?」

「よく覚えてるな。確かにダーイラは、ホマツチヨを好むとはいえその周辺にずっといるようなやつじゃない。森全体を駆け回って、ハキキハに突進したり回ったり……まぁ、はっきり言って普通の魔物と同じだ」


 パレットは「稀に好きなホマツチヨに離れないやつとかいたけどな」と懐かしそうに語った。


「詳しいね。村の住民だからダーイラにそんなに詳しいの?」

「さぁ? まぁここの冒険者や伐採屋、加工屋は詳しいんじゃなねーのかな。俺は戦う術を身につけたかったからよくちょっかいをかけていたから、後は、まぁ暇さえあればダーイラ書いてたからな」

 少し自信ありげに、少し恥ずかしさが入った喋りには、ダーイラに対する憎しみは感じなかった。

「後で絵見せてよ」

「……あいよ」


 自信ありげの顔は照れた顔になり、頬がほんのりと赤く染まっていた。

 おかしい、昔はもう少し愛想良かったんだけどな。やっぱりそういう時期なのかな。



 宿屋を出て五分もしないうちに、目的地に着いたようだ。


「このあたり?」

「……まだ何も言ってねーよ。さすがは【黒】ってところか?」

「褒めてる?」

「褒めてるさ。一応何で分かったか聞いてもいいか?」

「足跡の数が多いのと、足跡が比較的に新しい。あとは微かに足音と羽音が聞こえるのと、糞が増えた」

「……」


 絶句した表情で私を見てくる。

 私自身は普通のことを言っているのに、そんな反応されるのは心外だ。


「ここからは危ないんだよね。パレットはどうちょっかい出してたの?」

「変異? 前は三体くらいのやつだったりと遊んでたが、あいつらに翼が生えてからは群れに石投げて、上手い具合に一体に分かれさせてから戦ったよ。と言っても、戦ったのは一回きりで、それ以降はこのあたりから絵描いてるだけに留めてる」

「賢明な判断だよ。未知の魔物相手は何してくるか分からない」


 魔王による影響で変異した魔物は、必ずと言っていいほど知能と性能が上がっている。

 アンさんとミリオンポイズンとの戦闘を見たり、魔人領土に行く道中での変異した魔物を相手にしてきた私が言うのだから間違いない。


「じゃあ、私は早速行ってくるから、パレットはここで待機ね」

「おいおい、俺の槍は持ってきただけじゃねーか。あんなにかっこうつけたんだから、少しは活躍させてくれよ」

「村の方向に逃げたダーイラを倒してくれればそれでいいよ。私は一人で大丈夫」

「一人で大丈夫って、さっき未知の魔物相手は何してくるか分からないって言ったのは誰だよ」

「私は【黒】だよ」

「……母さんの敵だ」


 それを最初から言ってくれれば、私も変に断らなかったのに。


「あーもう、分かった。それじゃあ」

「それと」


 私の言葉を遮る、鋭い眼が向けられる。


「心配なんだ、お前が」


 首を引き、真っ直ぐとした眼は私を射抜く。

 引き締まった顔がより一層……かと思えば、すぐに口元をもにょもにょさせて恥ずかしそうに顔を歪める。


 さてと、どうしようかな。


「いや……うん、まぁいいや。ありがと? なのかな」

「なんだよ」

「別に、相変わらず自分の気持ちを伝えるのが下手くそだなって」

「悪かったな」

「うん、悪い」



「お母さんの敵なら、私よりも多く倒さないとね」

「……おうよ」



 私達二人はダーイラがいる場所に向かって駆けだした。





 変異したダーイラの特徴の一つとして、一日中ホマツチヨを食べていることがあげられる。

 普通のダーイラは一日一食ほどで十分だが、変異したやつは狂ったようにホマツチヨを食べて、食べて、食べる。寝ないで、繁殖もしない、ただ狂ったように食す。



「いた。前方三十体」

「おう」


 俺はまだ見えていないのに、ヒビキは既に見えたどころか数まで把握している。

 二年前はこいつ以外にも仲間がいたり、戦っている時しか見ていなかったからこんなに状況把握能力が高いとは思わなかった。


 二枚の翼が生えたダーイラが、俺は数まで把握は出来ないが確かにダーイラはそこにいた。

 前を走るヒビキが、携えた剣を抜いたので、俺も背中に携えた槍を抜いて構える。

 ダーイラがこちらに気付いた。


 さてどう突っ込もうか。

 ヒビキにただ付いてきただけで、何か打合せするかと思ったらそれもなく、作戦も何もないこの戦いでどのように攻めていくのかと考えていると。


(ヒビキが、転んだ?)


 かと思うと、ヒビキは次の瞬間にはありえない速度でダーイラの近くまで行き、俺が状況を把握しているころには剣を振り下ろしダーイラの首を斬っていた。


 あれは、転んだんじゃない。前傾姿勢になって……なんか加速した。

 俺には理屈が分からないが、視界の中に入る地面には力強い足跡残っており、この数秒で俺は「あ、移動したんだ」と理解しておいた。

 そんなことを考えているとヒビキは二体三体とダーイラを斬り倒していく。先程のように首を斬り一撃で倒したり、翼や足などを斬り行動を阻害している。


 ハハッ、やっぱり―――


「やっぱすげえな、ヒビキは!」


 ガキの頃から憧れで、俺が武器を手にした理由。

 正直【黒】だとか関係ない、ヒビキが凄いんだ。


 俺も気張らねぇと……!



「『クラッグショット』」


 ダーイラ達がヒビキに注目している今、ほんの少しでも援護する。

 クラッグショットは顔面程の大きさの岩を飛ばす中級土魔法、ダーイラの顔面にぶつけようとしたが、動き回るダーイラには腹部に当たる。

 頭に当たれば一撃で倒せると思ったが、腹なら多少のダメージ程度だろう。

 当たったダーイラがこちらを向き、標的対象を自分に変える。

 一度自分から目を離したかと思うと、近くにあったソマツチヨに向かって走り、持ち前の四本足で器用に三角飛びを行い、新しく生えた自慢の翼を広げて空から滑空状態で突進してくる。


 大丈夫、結局こいつは突進しかしてこない。

 脳内対策は完璧なんだよ!



「母なる大地の保護を、偉大なる樹木の保護を。


 ソウルウッドシールド」


 薄茶色の壁を四枚、自分の半径一メートルほどの位置に囲む。一枚はダーイラに合わせて少し斜めに置いておく。

 背中にある壁に足を付けて、タイミングを見計らい、蹴る。


 要は三角飛びだ。


 パリンッ、とダーイラの攻撃を防ぐために置いてあった盾は砕かれた。

 多少、速度は落ちただろうか。一体のダーイラはもともと俺がいた場所めがけて突進していが、俺がいない事に気が付き、旋回して四本足で地面を擦りながら急ブレーキした。

 そんな事もするのかと新しい知識を得ながら、ダーイラが入ってきた場所にまた壁を作る。これで万が一でも逃げられなくした。

 槍を投げる構えに入る。俺の位置はちょうどダーイラの真上。


 翼の付け根を狙って、後頭部の後ろから思いっきり右手を振りかぶり、投げた。

 ダーイラの背中に、右翼に浅く突き刺さる、仕留め切れていない!両手で槍の柄を掴みダーイラに馬乗りする形でさらに突き刺す!感触は十分ある。藻掻く、藻掻く、痛みから逃げ出そうとするがソウルウッドシールドによって阻まれる。


「いい加減、落ちろ!」

 俺は槍から手を離し、ダーイラの首根っこを掴んだ。太く、とても動きを抑制できそうにないが、十分だ。

「『クラッグショット』」

 零距離から脳天目掛けて撃ったクラッグショットは、見事にダーイラの頭に当たった。

 破片がこちらに飛んできて顔のあちらこちらが痛いが、ふらふらと歩き、その場で足を曲げたダーイラの前ではどうでもよかった。




 こんなのが、三十体。

 こんなに苦労して、一体倒したのが、三十体?

 早くヒビキの元に向かわないと。

 ダーイラに突き刺さった槍を回収しようとしたが、高くから突き刺したことにより中々抜けない……というか抜ける気配もない。


「まぁ、いいか」


 この盾の外から今でもダーイラの鳴き声が聞こえていて、一体倒したことによる高揚感もあったのだろう。

 俺はそのまま槍が刺さったままダーイラを両手で持ち上げ、展開していた魔法を解除する。



 ここから見たヒビキは、多くのダーイラに囲まれている状態だった。

 上空、地上に何体いるか分からないが、足元に転がっている死体の数も分からない。

 ヒビキは、見た感じ無傷だった。

 化け物かよと思いながら、俺はヒビキの元に駆ける。


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


 雄たけびを上げながら槍を振り上げ、地上にいるダーイラに向かって思いっきりダーイラで叩く。

 ダーイラの何体かがこちらを向く、関係ない、槍にダーイラが付いた鈍器を振り回す。




「ありがとう」



 ごくごく普通の、けれど、胸ときめく声だった。



 ヒビキはダーイラが俺の方を向いた隙を見逃さなかった。地上にいるダーイラの首を流れるように斬り捨てた。

 一体、二体、五体、八体。

 一体一秒程度、全方向に目があるのかと言わんばかりに自然な足運びで正確に首を斬り、最終的には地上にいるダーイラを全て殺した。


「助かったよ。攻撃待ってカウンターしてるだけだったから攻め手に掛けてた」

「…………何が起きたか、いや……深く考えないでいいか」

「私なんて【黒】の方でも分かりやすい方だよ、それよりも、敵から目を離さない。まだいるから」


 ヒビキは空中にいる敵にしっかりと見ながら、剣についた血糊を払おうと一振りした。が、数が多かったためかべっとりとした血は簡単には取れそうになく、小さな布を取り出して綺麗にふき取った。


「なんかもう、いっか。急いでるわけじゃないからちょっとだけダーイラの行動パターンでも調べようかと思ったけど、パレット疲れてるっぽいし、早めに終わらせよっか」

「おいまてお前手加減していたわけじゃないよな」

「えーと……まぁいいじゃん。変異って貴重だから、今のうちに調べたいじゃん」


 俺は敵の事を忘れてツッコむ、ヒビキは未だに上空のダーイラを見ながらカバンの中に手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。

 書かれているは、魔法陣?


「『サモン・ハリセンボン爆弾』」



 聞きなれなくて如何にも危ない単語を呟いたかと思うと、なにやら丸くてトゲトゲしている何かが出てきた。


「『対爆シールド』」


 ヒビキがそういったかと思うと、突如としてものすごい衝撃と砂煙が襲う。

『シールド』と言っていたため、俺達は防御魔法で守られているのだろう。爆弾と言っていたのだから、爆発したのだろう。


 それは分かる、今までのヒビキの人外じみた技(?)と比べればまだわかる

 それよりも……。


「お前なんで森で爆弾なんか使ってんだよ! 燃えんだろ!」


 爆発魔法は火を含む。

 こんな森の中で火を含む攻撃をしたら、たちまち引火をしては燃え移り辺りは火の海になってしまう。


「大丈夫、大丈夫。ほら見てみ?」

 そういってヒビキが指さした。


 大木は倒れ、ダーイラ……なんか見るに堪えない感じでボロボロで粉々になっていて、悲惨という光景だが。


「本当だ、火は全くついてない」

「でしょ? 不思議だよね」


 あっけらかんと、ヒビキはそう言って。

 俺は一気に肩の力が抜けた。

あけましておめでとうございます。

今年は『勇者のアンです。魔王のアンです。』の総合評価ポイントを100p集めたいです。

新入社員の僕は四月から仕事が始まり、疲れて小説書けないよーって時期が出来るかもしれませんが、ちまちまとやってきたこの小説を途切れさせないためにも頑張ります。

今年もよろしくお願いします。

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