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ダーイラ

 ダーイラ村は、チャトランガ帝国内にある村だ。

 名前の由来は、「ダーイラ」という魔物がこの村の近辺でよく見かけるからだそうだ。

 安直だなと思ったけれど、私の名前の由来を聞いたことがない(または覚えてない)から特に何も言わなかった。


 ダーイラという魔物は、分かりやすく言えば紫色の山羊(ヤギ)である。

 食べる物は『木』その物で、その強靭な歯で粉々にし、体内にある毒で溶かし、ゆっくり消化するらしい。


「ダーイラ村は大きな森を切り開いた場所にあるので、近く~って言っても三十分くらいは掛かりそうですね。そこに、昔お世話になった宿屋があるのでそこに行きましょうか」

「はーい」




 見たことのある樹木、見たことのない樹木ばかりを眺めながら獣道を歩く。

 ドミノ王国の領土内の山に住んで、魔人領土で魔王のお仕事であちこち行って、それで今はチャトランガ帝国の領土内にいるけど、同じ種類の木とか、全く見たことのない木とかがあって。

 住む場所や環境によって植物の生え方が違うのは知っている。ただなんとなく、この世界が繋がっているのが面白かった。

 太く大きいのが住んでた付近の木。

 ここのは細く大きい木と、真っ黒で太くてでもなんか小さい木。

 魔人領土に関してはいっぱい周ったからこれといったものは言えないけど、各地でいろんな物を見て。

『魔王』という鎖を一度外して見た景色は、こんなに広い物なんだと再確認した。


 家にいる時はこんなこと思わなかったな。

 勇者になった瞬間の時も、ルーチェに流されて流されてなんだかそんな気分じゃなかった気がする。


「『悪かったな』」

 別に、勇者になってやることは魔王討伐なんだし、仕方ないよ。



 そこそこ歩いて、ちょっと疲れてきたなと感じる。

 散歩程度しか歩いていないのに疲れてきたってことは、ルーチェが言っていた通り体調が悪いんだと気付く。

 この状態で襲われたらちょっと危険かな?


「ダーイラって強いんですか?」

「ダーイラは基本襲ってこないですが、戦えばそこそこ強いですよ。群れで三頭から五頭くらいで組んで突進してきます。大体の冒険者は一頭や二頭ならまだ対処は楽だけど、三頭からキツイって言ってます」

「言ってるんだ」

「ギルドでアンケート取りました。これがアンケート結果です」

「持ち歩いてるんだ」


 ヒビキさんがバッグの中から一枚の紙を取り出して見せてくる。

 ダーイラが三頭からキツイと言っているのではなく、魔物を相手にする時を言っているらしい。

 本当に三頭から対処が難しいって書いてるよ。増えたら逆に楽しいって書いてる人は馬鹿なの?


 話は逸れたけど。

「てことは、戦闘とかにはならないってことですか?」

「おそらくそうなるでしょう。ダーイラ村の周辺って本当にダーイラしかいなくて、いても虫系ぐらいで本当に襲われないと思いますよ」

「それじゃあ安心かな」


 このまま村まで歩いても安心安心。

 と考えていると、前方斜め右方向に紫色の何かが見えた。


「あー、あれがダーイラ?」

「よく見えましたね、そうですよ」

「こう見えて弓使ってる者なんで、目はいいんですよーっと……まぁ戦わないなら警戒する必要もないか」


 つい癖で弓を掴んで、がっかりしたような気分で弓を離す。

 新調した弓を試してみたかった。

 疲れて戦いたくないのか弓で狩りをしたいのかどっちか分からないや。本能は狩りをしたいんだろうね。



「しかし、今日はあまり見えませんね」

「?」

「ダーイラは草食なので、今みたいな春と夏の間くらいが一番活発になるんですよ。ですが見たのは今の一回だけですし、すぐ消えたし。変異してるのかな?」

「変異?」


 聞きなれない言葉が聞こえたかと思ったが、ヒビキさんが「あー……」と言うに困った声をする。


「まぁいっか。魔王の影響で姿や行動が大きく変わる魔物が多数いるんですよ。例えば……ミリオンポイズンとか?」

「ミリオンポイズン」

 少し懐かしい、あの苦労して倒した魔物だ。

「本来はあんな量の針を飛ばしたりはしないですよ。あれが出来るなら【蛇】ですよ」

「確かに、あれは勇者の力を使わないと負けてました」

 でも、気がかりなのは。

「魔王の影響? 私何もしてないですけど」

「多分開花しただけで、……いや、開花する直前から影響は受けるのでしょう。原因は分かりません」

「よかった、私が悪いかと思った」

「いやまぁぶっちゃけお前が悪いと言っても過言じゃないけどな」


 ルーチェが私の中から出てくる。


「勇者が魔王を倒しに行く理由なんて、ほぼそれだからな。人間達からすれば魔王は存在してるだけで悪だ」

 うおぅ反応に困る。

「そしてこれは推測ですけど、人間領土にいる魔物にだけ適応されるんですよね」

「それは一応、間違い。勇者が敵意を持って魔人領土に行った時は、活性化する魔物もちらほらいる」


 フォンセも私の中から出てきた。

 そういえばルーチェとフォンセが私の中以外で一緒にいる所見たの初めてかも。


「活性化? 魔人族は変異を活性化と呼んでるんですか?」

「変異も活性化も狂暴化もそのほかも色々呼ばれてる。つまり、名無し」

「やっぱそうですよねー、聖魔戦争の時でしか現れないから研究しようにも出来ないから、しばらくは色んな呼ばれかたになりそうですね」


 ヒビキさんがウキウキした声になったり、かと思えばがっかりしたりしていると、ダーイラ村の入口らしき柵が見えてきた。

 木と木を紐で結ぶ簡易的な柵だ。

 門番らしき人に「旅の者です」と一言告げて中に入ると、木漏れ日の光だけだった太陽の光が私達を包み込む。

 日は真上、お昼時だ。


「私が言った宿屋、メープル宿屋はすぐそこにあります。そこでお休みしましょうか」

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