アンのしたいこと
魔王としての仕事は、実はないと言っても過言ではない。
魔人族を導くとかそんなのしなくても、魔王がこうしたいと言えばその時代の方向は決まるし、なにより私がこんなに苦労することはない。
けれど、それじゃあ駄目なのだ。
結局私が「人魔を開放」「人魔に人権を」みたいなことを私が強制しても、私がいなくなった途端に強制力は無くなる。
すぐに人魔が
私が勇者だから、勇者に攻めてこられて殺されるようなことはないけれど、やっぱり……保険と言えばいいのか分からないけど、蛇人族の寿命なんてまちまちだし、魔王の寿命なんてもっと分からない。
おまけに、私のしたいことは魔人族を導くことではない。
人魔がこの世界で生きていく環境を作っていかなくちゃいけないことと、人魔が生きていてもいいメリットを探さなくてはいけない。
環境は……現状私が生きている時間だけなら簡単だけど、その後がちょっと難しそうで。
メリットに関しては何から手を付ければいいか全く分からないのが現状だ。
とりあえず、クローバに学業を教えて、将来頭が良くなったクローバに任せてみるというのも考えてはいるけど……出来ることなら私が解決したい。頭は悪いけど……魔王でありながら勇者である私が出来ることを精一杯やらなくてはいけない。
「少し、疲れてきたかな」
魔王としての威厳を知らしめるために、自分一人で各所に挨拶や話し合いをして、自分の口で「魔王の命」と告げて。
本当は人と会って話すだけでも辛くて、今でもどんなふうに話したらいいか分からないし、自分がどんな風に話してるのかも分からない。
自分が人魔じゃなくて魔人だったら、魔王としての振る舞いはもっと上手かったのかな、とかも思った。
そう思うたびに、全身から力が抜けて、やっぱり私は魔王には……人の上に立つには向いてないなとつくづく実感した。
「『でも、やるべきことは終えたね』」
フォンセはそう言った。
その通り、私は魔人大陸でやるべきことをすべてやり切った。
各種族に奴隷を開放を命令し、学場に人魔を受け入れさせた。
ロアヴェリスさんに人道的な実験なら人魔と人間の実験を許可し、ミコトちゃんに人魔に関わることを言ってもらって、他の幹部達には人魔に対して不満を持つ人達をお仕置きしてもらって、その種族の長の人とかにもお願いして、時には威圧して。
クローバに瞬間移動教えてもらって、そしてお願い事をして。
魔人大陸に来てから何日経ったのだろう。
少なくとも、この黒く染まった髪の毛を見ても違和感を感じないくらいの時だろうか?
「『アンちゃん、多分その言葉は一年くらい継続してから出る言葉だと思うよ。一か月も経ってないじゃん』」
フォンセが言うには人それぞれらしい。
さてと。
久しぶりに着よっか。
「ヒビキさん手伝ってー」
その日、魔王アンと、その従者である人間族のヒビキは、魔人大陸から消息を絶った。




