ラビットユニコーンの群れ
「チャイン、明かりを」
「オッケー。『マジック・ライト・ボール』」
チャインさんは鞄の中から何かを周囲に何個も投げたと思うと、焚き火の火だけだった明かりが、まるで朝の様に周囲は照らされた。
チャインさんはこの界隈じゃ珍しいと言われている『アイテム使い』だそうで、その名の通りアイテムを駆使して戦闘をするらしい。
お陰で、茂みに隠れた四つのラビットユニコーンの兎耳がチラ見した。
「……シッ!」
私は草木の合間にあった可愛らしい角を見つけると、矢を放ち胴体を狙った。
ラビットユニコーンは素早い生き物だ。矢を察知するとすぐに上に跳んで避ける。
「ピーー……キュッ!?」
が、そんな行動も虚しく、ラビットユニコーンの赤い右眼に二本目の矢が突き刺さる。
知ってた。
私がどれだけ実家で君達を狩ったと思っている。
一度地上で矢を放ち、ジャンプを見てから的となったラビットユニコーンを射る。
跳んだ後は横にも下にも動かない格好の的、これは兎系魔物を狩る上での一番の対策だ。
これだけで、貴重なタンパク質が取れるのだから楽なもんだ。
矢を受けたラビットユニコーン尻餅を付きながら落下し、右眼を抑えながらのた打ち回る。念の為動かれては困るのでもう一度射る。
「すうぅぅぅ……フッ!ハッ!」
ナナグロさんの方を見ると、長くて細い剣を片手で素早く振り回しラビットユニコーンを斬り払う。
一度目は横の薙ぎ払い、すると、やはりと言うべきかラビットユニコーンは上に跳んで逃げる。
もちろんその隙を逃すほど甘くないらしく、二度目は持ち上げるように剣を振り上げてラビットユニコーンのお尻から角先まで真っ二つに斬ってしまった。
中から飛び出る内臓と血、ナナグロさんは避ける動作もせずにそれを浴びた。
「……この狩り方、毎回汚れるんだけどいい方法無いかな」
「弓使えば汚れないですよ」
「そうかいな。もういないか?」
「うん、少なくともライボルの中にはいないと思うよ。まぁ夜だし、まだ警戒は続けた方がいいかもね」
「ライボル?」
「ライトとボールでライボル」
もっといい略し方があったでしょ、と内心思う私だった。
「ピキュッ!キュキュッ!」
「お、まだいたようだね。じゃあ……ん?」
再び武器を構えようとした私達、けれど、何か様子がおかしい。
「ピキュ!」「キュー」「ピーピキュッ!」「ピー!」「ピッ!」「ピキュ―?」「……キュル?」
木の上、木の下、至る所から現れたラビットユニコーンの群れ、その赤い眼は確かに私達を見ていた。
「やばいやばいやばい、この量はありえねぇ!逃げるぞ!」
「うん!アンちゃん、急いで!」
「は、はい!」
「ピッピピッピピー!」
「「「ピー!」」」
ラビットユニコーンは本来個体で行動する魔物だ。
どんなに多くても、子育て中の親二匹と子供複数匹とかだが、どれを見ても大人のラビットユニコーンだし、家族ににしても多すぎる。
私達が逃げ出すと同時、ラビットユニコーン達も動き出した。
「どうする!後数秒もしたら追いつかれるぞ!」
「戻って!『マジック・ライト・ボール』これで足止めしてて!『ドラゴン・スモーク』」
チャインさんが光る玉を回収すると同時に、足元に何かを投げ、プシューと音を立てながら煙が出てくる。
それはさながら凶悪モンスター、ドラゴンのような形を作って行く。
ラビットユニコーンは煙を突き抜けて走ってくる。先程馬車で教えてくれたが、大抵のモンスターならあれで立ち止まってくれる所か走って逃げて行くらしい。
これで怯えてくれればいいのだが……。
「「「キュー!」」」
「どうして!?やっぱりあいつら何かおかしい!」
ラビットユニコーン達は煙を突き抜けて私達目掛けて走り抜ける。
獲物を見つけたハンドッグ以上の執着、赤い瞳は私達しか見ていなかった。
「クッソ……!おい!商人!今すぐ馬を走らせろ!」
「え、そんな急に言われても……」
「いいから!マジで死ぬぞ!」
「は、はい!」
「アンは荷台から弓を撃ってくれ!チャインも何か出来るか!」
「モチのロン!てかこれ加速する前に追いつかれる!」
私は言われた通り荷台から弓を構えてすぐに放つ。
即撃ちじゃないと間に合わない、けれどいつものやり方で、一度地面に撃ち、跳んで避けるから予めそこに撃っておく。
私の読みはいつもどどおり当たっていた。
問題は、その後だった。
矢は胴体に吸い込まれるよう放たれた。だが、ラビットユニコーン達は空中でもう一度跳び、矢を全て避けた。
「嘘!ありえな―――」
そう言う前に、ラビットユニコーン達は空中で距離を詰め、私達に追いつく。
ラビットユニコーンは対策さえ知ってしまえば狩るのは楽だ。
だが、ラビットユニコーンに一度でも攻撃を許せば、手練れた冒険者も負けてしまう恐れがある。
馬はようやく動き出した。
「キュ!」
ラビットユニコーンは身を乗り出していた私に攻撃を仕掛けてきた。
全長八十センチもない小さな体で懐に入り、一つ腹を蹴りを入れる。
こうなってしまえば最後だ、二つ、三つと蹴りを重ね、四つ目に蹴り飛ばした。
しかし、蹴り飛ばされた後、そのまま弓を引いて矢を放つと、矢はラビットユニコーンの喉元に突き刺さり即死した。
良かった、とりあえず一匹は倒せた。
けれど、あの蹴りのダメージが高すぎる。
少しでも動こうとするとお腹に激しい痛みが襲い、動かなくても頭の奥まで『痛い』という危険信号が鳴り響く。
「クソ、数が多すぎる……グハッ!」
「このままじゃ……」
「ヒヒーイイィ!!」
「あぁ、ブラウン!しっかりしてくれ!」
馬が悲鳴を上げ、馬車が倒れた。
一匹のラビットユニコーンが馬に蹴りを入れたのだろう、普通の馬なら骨は折れ、当たり所が悪ければ死んでもおかしくはない。
もしかしなくても……死んじゃう?私達。
「ここまでか?最悪な最後だな」
「ふんだ、私はまだ諦めないよ! 『癒しん水』『スピード・アップ』『パワー・アップ』『無双神器の真似事』ほら! 高いんだからせめて足掻け!」
「最初から使っとけアホ!」
「使っても勝てる見込みは薄いよ! 死ね! クソ兎!」
うっすらと開いている目には、必死に抗う二人の姿、ここで目を瞑ったら、なんだか終わってしまいそうで、頑張って目に力を入れる。
動こうかそうにも右手は動きそうもなく、むしろ自分でも、なんでさっき撃てたんだろうと思う。
そんなことはどうでもいいと告げるように、ナナグロさんが倒れ、その次にチェインさんも倒される。
これが、冒険かぁ。
人魔族と呼ばれる私が沢山の人と出会う。
そんな目標を、夢を、あざ笑うかのように、こいつらは殺してくる。
「いやだな……死にたく、ないな。みんな、死んじゃうのかな」
「そうだな、今の状態はまさに必死状態、戦況を覆そうも、実力が違い過ぎる」
「……え?」
頭上から、知らない声が聞こえた。