よい子のみんな、こんにちは!魔王のアンです!
カルドロンの大地の次に来たのが、魔王城周辺の西側全域にある、世界で一番大きい『学場』と呼ばれる建物。
基本的に六歳から十五歳までの子供達を集め、勉強を教えることができる大人が子供達に授業をする場所。
ここには無料で通えるらしく、お金のない家庭の子供も通えるらしい。
授業内容は、最初に共通語を教え、次に受け身や剣術や魔法、畑仕事や肉の解体方法などを教わるらしい。
先代魔王の『ペンタクル』が勇者と対決し、両手両足と魔王としての力全てを失いながらも勇者を倒した後、彼女の側近であった『ペイジ』という少女と共に「子供達に知識を持たせ、魔人族全体の力を付ける」と言い、最初はこの魔人族周辺のみ建て、その後は犬人族や猫人族などの住民が多い地域から順番に学場を増やしていき、最終的に魔人領土全域に建てた、らしい。
簡単に言っているが、経った三十年しか歴史が経っていないのに、ここまで『学場』という新たな文化を魔人全体に作り育てたペンタクルさんは素直に尊敬する。
二十年前に亡くなったと聞くが、私が生まれた時代が少しでも違えば、もしかしたら会えたかもしれない。
だがペイジさんは今も生きており、この学場の理事長という地位を持った人らしい。一応、元魔王軍幹部だとか。
この地位は並みの貴族よりも大きいらしい。
今の若い貴族はこの学場で勉強し、その知識を生かして統治していると聞いたときは、意味が分からず同じことを二度説明してもらった。
ペンタクルさんとの出会いはペンタクルさんが魔王になる前かららしく、初めて出会ったのはお互いが十歳の頃らしく、会って早々に対決したそうだ。その日からずっと、力比べや頭脳比べをして遊んでいたらしい。
ペイジさんが言うには、その当時じゃ純粋な力比べでは勝っていたが、どんな勝負でも頭を使って勝ち越されていたらしい。
自分自身の周りが脳筋ばっかで、自分は頭を使って戦っていると思っていたが、ペンタクルと戦いかたは意味不明で、奇想天外な罠、それを絡めた読み合いを見て、自分の戦い方を一から改めたそうだ。
そこから数か月後に魔王に開花して、一番最初に『軍』を作り、その軍の中でも強い人も集めた『魔王軍幹部』を作りはじめた。
その魔王軍幹部の一人目が、ペイジさんだ。
そして、二人でお金や税金のシステムを一から作り、今まであやふやだった領土の問題を人間族と話し合い決めた。
「私は別に、人魔をこの世界に受け入れることは事態は賛成するんですが、やり方が気に入りません。急すぎますよ」
と軽く小言を言われた。ごめんね、人魔をこの学場に入れたいといったのも二週間前だしね。
法律に関しては分からないからと言って丸投げしてるけど、やっぱり駄目なのかな。
時間さえよければ、基礎的なことから教えてもらおう。
さて、今日からやるのは人魔族を数人この学び場に入れること。
私の目的は「人魔族がそこにいても不思議じゃない世界」だ。
私の権限で人魔に人権を持たせたとしても、魔人族と人魔の空気は悪いままだろうし、偏見は変わらないままだろう。
だからこそ、こうやって子供の頃から人魔に会わせて慣れてしまえば、大人になってからも偏見はないはず!
と、夢の中でフォンセが言っていた。
フォンセのこういうずるがしっこい所、結構好き。
ここまでが説明。
これからが今からすること。
「みなさんこんにちは! 人魔の魔王のアンです!」
「「「「「「…………」」」」」」
「こんにちは!!」
「「「「「「……こんにちは」」」」」」
魔王に挨拶を返してもいいのか、という疑問の沈黙。
ペイジさんから「挨拶が返ってこなかったら、もう一度こんにちはと言ってください」と言われた通りにやったら、今度はおどおどしながらしてくれた。
少し可愛い気もする。
今からするのは、子供達に「人魔がこの学校に来る」ことを説明すること。
一応、事前にペイジさんが説明はしてくれたが、理事長よりも魔王の私が伝えた方が良いだろうと言われここに立っている。
一呼吸し、足を開く。子供達とはいえ、容赦はしない。
「本題に入る前に、一つだけ。私は人魔です。それは昨日のことを見てくれた人は大勢いるだろうし、見なくても噂は広まったと思うから、みんな知ってますね?」
半数以上が小さく頷いてくれた。
「昨日も言ったけど、私はこう思う。魔人族とはいえ、人間族とはいえ、人魔族とはいえ、私達は同じ生き物で、同じ言葉を話す仲間だと。もちろん、今もなお聖魔戦争は続くし、人間族との和解は難しい。けれど、出来ないことはない。出来なければ、私のような人魔族は生まれない。人間と魔人が愛し合い人魔は生まれた!」
醜くて目を反らして気付かなかった当たり前。
子供達の顔は……よく見えない。
「さて、本題です。今日から人魔のお友達がこの学場にやってきます。貴方達と同じように授業を受けます。頭が悪い子がいれば、よく喋る子もいれば、運動神経が良い子もいれば、無表情の子もいる。それは、貴方達が今まで理事長先生や色んな先生に言われている『個性』です。種族隔たり無く、一緒に遊んで、一緒に学んで、一緒に成長する。私は、この学場をそう思っています」
二週間前、人魔を入れてくれとペイジさんに話した時、少しだけだけど授業や遊ぶ姿を見せてもらった。
そこには、いろんな種族一同に集まり、お互いで笑い合いながら過ごしていたのを見た。
そこに、クローバの姿が浮かんだ。
「最後に、私は『人』が好き。私が導く民も、人を好きになってくれると嬉しい」
魔王らしからぬお辞儀をした後、目の前の子供達からは無言の拍手が送られた。
「それでは、今日からこの学場に来る子達です。簡単な自己紹介をお願いします」
いくら千人近い子供を受け持っている場所とはいえ、いきなり百人程の人魔を受け持つのは無理だと言われたので、最初は二十人程の子供を送った。
その中には―――。
「クローバ、よろしくおねがいします」
愛娘のような存在の、クローバの姿がいた。
だんだん魔王らしくなってきましたね。
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