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人魔の魔王

 ヒビキとの再会から二週間が経った。

 あの日からというものの、私の後ろにはクローバとヒビキが常にいるようになった。

 クローバはあの日以来、貰った仮面を気に入ったようで、部屋から出るたびに仮面を着けていた。

 とても可愛いので―――仮面自体は可愛くはないが―――特に何も言わなかったが、一緒にいる二人が両方とも仮面を着けているせいで見た目の奇抜さは異常だ。

 ヒビキも当たり前のように着けるし、私もそれっぽい物着けようかな……仮面着けてる魔王っていないらしいし。


 ヒビキが人間だというのはすぐに|みんな≪幹部や兵士さん達≫にはすぐにバレた。

 と言っても、魔王の私が連れているからあまり強くは言えないのと、護衛と称していたので幹部達は見ただけで実力者と分かってくれたので割と説明が楽だった。

 最も、首輪を付けていても人間に護衛させるのは危なくないかと言われたが、そこに関してはヒビキを信頼よりもハングマンの首輪の性能を信じてほしいと言ったら黙ってくれた。

 流石、魔人族を救った英雄魔王だ。

 今後も適当に名前を使ってもいいかもしれない。



 さて、あの会議から二週間が経ち、ようやく幹部達が地元から帰ってきたようだ。

『ようやく』とは言ったが、帰りを遅くなった理由の一番は、私が言った『奴隷禁止』と『人魔族に人権を与える』(自分は人権剥奪禁止と言ったが、人権を保障する話のほうが分かりやすいらしい)の説明に苦労しているのだろう。


 魔王の意見だからそんな話し合う必要もないんじゃないかな、と言ったら「絶対王政だがお前はこれ以上政治に関わるな」とルーチェに言われてしまった。

 ははは、勉強しよ。



 二週間忙しかった幹部と違って、正直私はそこまで忙しくなかった。

 しいて言うなら、|来≪きた≫る日にのために演説の練習をしていた。

 ……正直、もうしたくない。もうしたくないし、本番の演説もしたくないし、人魔族とかどうでもいいから隠れて平和に過ごしたい。

 そんな思考をスルーされながら、声を出す練習やらそもそも人前にでる練習など沢山された。

 里から帰ってきたイナリさんが「今世の魔王はずいぶんと魔王らしくないのぉ」と大笑いされながら言われた。

 まぁ……実は勇者ですし、とは言えないけど。

 そもそも勇者の力があろうが、魔王の力しか持っていなくても、私の性格は変わらないでしょ。



 それと、もう一つは。


「『瞬間移動』……出来た!」

「まだ、にめーとる」

「クローバ、みんな初めはそんなもんだよ」

「にしても、なんでクローバちゃんと……魔王様はフィーリングで魔法打ってるんですか。意味が分かりません」


 魔法の練習をしていた。 

 私は両親から教わった魔法は一応できるのだが、それ以外はてんでだめだ。その教わった魔法も簡単な物ばかり。

 私が使えるのは初心者が使う魔法と魔王になったときに使えるようになった魔法と、勇者になったときに使えるようになった魔法のみだ。

 それだけ聞くと十分な量の魔法が使えることになるけど、そこから魔法を作ったりアレンジしたりは基本ができていないと出来ない。


 クローバは、逆に転移魔法と華人族しか使えない専用魔法の一部のみらしい。

 専用魔法はともかく、どうして転移魔法なんて高難易度魔法を覚えているのか、なぜそれ以外使えないのとロアヴェリスさんが聞いてみると―――。


「にんげんにおそわれた」


―――という声を聴いた瞬間に、その場にいた私達の顔を強張らせた。


「しゅんかんいどう、おかぁさんがつかってた。アザミは……よくわからない。きがついたら、つかってた」

「……そっか、ありがとう。ちなみに、どんな人に襲われた?」

「…………しろかった」


 白い。なるほど。


「うん。ありがとうクローバ。みんな、白だって白」

「なるほど。どんな人達かわかりませんが、私の刀が神聖な、あぁ違う新鮮なお肉を斬りたいと言っている気がします」

「にゃふふ、殺す」


 とその場にいたキリノジさんとロアヴェリスさんがよくないオーラを出していた。

 気持ちは分かる。分かるけど………………弁解の余地ないかも。やっぱり殺そう。




 という話をしたのはどうでもいいんだった。その後その後。

 瞬間移動しか使えないクローバが、他に魔法を使ってみたいと言っていたので一緒に魔法を教えてもらうことになったのだ。

 


「にゃふふ、クローバちゃんはすぐに感覚で覚えられる天才タイプ。魔王様は……うん。魔王になったときに覚えた魔法を伸ばすといいよ」

「遠回しに魔法の才能がないって言われた!?」

「魔王様に対してよくそんなこと言えますね……まぁ実際、魔法って出来ない人は本当に出来ないですし。私もそうですし」

「キリノジさんが?」

「はい。と言っても、私は能力で無理やり魔法っぽいことは使えるので……というか、今世の幹部達は個性を伸ばす人が多いので、もしかしたら魔法を覚えてる人は少ないかもしれませんね」

「私も、です。だいたい能力が解決する。」


 能力万能かな。

 キリノジさんの能力は知らないけど、ルカちゃんの紙に書いたらなんでも出せる奴は、確かに魔法なんていらないのかもしれない。



 もちろん、この二週間ほかにも色々した。

 色々したけど、毎日やっていたのは演説と魔法の練習くらいだ。


 さて。


「そろそろかな」

「?」

 掛けられた時計を見て立ち上がる。

 時間だ。

「誰でもいいから、来た人や上層部の人達を集めて、あの場所に」

「あの場所?」


「魔王の部屋」






「初めまして、魔王のアンです。本日はお集まりいただきありがとうございます」


 魔王の部屋は二種類ある。

 一つは私達が寝止まる部屋。

 もう一つは、魔王が部下達に士気を上げたり、魔王が勇者が来るのを待つ、そういうのに使われる部屋。

 初日に行ったパーティに使った部屋よりも三倍は広い。



 今日集まった人達は各種族のトップにいる人。

 こことは少し遠い場所を治めてる貴族や、竜人族や蝙人族蝙人族(こうじんぞく)蝙蝠(コウモリ)が進化した種族)などの長やその部下、もちろん魔王軍幹部達や軍の部隊長、商人や政治活動をしている者など。

 いわゆる、魔人族の有名人が一同に集まった。


 その人達から向けられる「あれが魔王」という畏怖にも崇高にも似た目線と「例の魔王の横にいる人魔」という嫌悪と興味の目線が痛い。

 ヒビキさんはさすがに連れてこなかったが、私の声が聞こえる通話石を持って私の部屋で待機している。

 きっと仮面の奥にいるネネさんも聞いているんだろう。それに対して、特に言うことはない。


 クローバは、やっぱりずっと私の服を掴んでる。

 最近は多くの人と触れ合って成長したなって思ったけど、やっぱり出会って時と同じで、なんとなく懐かしくも感じる。



「お話の前に、少しだけ昔話をさせていただきます」



 私は……私は成長したのかな。

 少なくても、あの一か月よりは、家を出た日よりは確実に成長はしたかな。



「ある日、少女は生まれた。人間領土の小さな山で」


 人間領土で、という言葉を聞いて目の前にいる人たちは小さく声を上げた。。


「少女はすくすく育ちました。けれど友達はできませんでした。それは何故か?」


 ある人は察しただろう。ある人はクローバの話だと思うだろう。



 私は魔王化を解除した。



「私が人魔だから」



 先ほどまで真っ黒だったツインテールは、雪より白い髪色に変わる。

 強い力を持った魔人族は、見ただけで魔人族かそれ以外かが分かるらしい。

 ここにいる多くの人は、私が人魔だと分かるだろう。


 鎮まる空気、一つの音も鳴らない空間、口を開ける者多数、極一部だけ、察していたかのように頷く人がいた。

 ある人は意味も分からず直視した。ある人は現実を否定するように目を反らした。




「まぁ、いろいろあって魔王になりました。人魔でも魔王になれるのかって私でも思ったけど、前例がないだけって思ってくれたら嬉しい。こんなんでもちゃんとした魔王だからさ」


 そういってまた魔王の力を身に着けると、また髪は黒くなった。

 

「それで、魔王の力を手に入れたしこの力をどう使おうかと思ったんだ。そこで考えたのが『人魔を救うこと』理不尽な境遇に立たされている人魔を救いたい」


 そう思ったのは単なる思い付きだけど、こうやりたいと思ってから私は魔王という地位にありがたみを持っている。

 だって、こういう魔人族からは理解しえないことを言っても、魔王だったなら賛同してくれる。



「ストロングさん、竜人族の国では人魔もしくは人間に恋した竜人を見つけたらどうしますか?」

「…………人魔であり、救うと仰った魔王様手前言うのは申し訳ないが、速やかに処分する。人間も、誇りを失った竜人も、幼い人魔も」

「うん。ありがとう。でもそれは国の話。荒くれが人魔の子供を見つけたら、奴隷商人に連れて行かれるのは知ってる?」

「む、それは……」

「知らなくて当然。竜人族は高貴な存在で、人間の血を持った者をその地に近づけさせない。そもそも同族を売るなんてこともしないから、奴隷も禁止されている。だから珍しいんだよね、竜人の人魔って。割と高値で売られていた」


 一つの紙を見せる。

 それは、魔王城周辺にあった奴隷市場の値段一覧。


「こ……これは」

「それが竜人の血を受け継いだ子供の末路。そこに、人間の血が混ざってるってだけの、まだ齢十歳の子供の末路。

 次に犬人族、どうなの(・・・・)?」


 焦点を竜人族から犬人族に移る。

 どうなのと聞いたのは、私が一番嫌いな種族だからだ。


「……犬人族の人魔は、種族自体が多産なのもあり数が多い。自分の国では、奴隷として売っていることを公認している」

「もっと言ってよ」

「……これが全てでございます」

「人間を捕まえて、多くの人魔を生み出して多くの人魔を売っていることは?」


 各種族からどよめきが走る。

 私も初めて聞いたときはそんな反応だった。


「それだけじゃない、帝国に対しても高値で売り、その金で人間を買い、人魔を売る。モラルに欠けたことをしているね」

「……人魔は、悪だ……何が悪い!」



 また、胸の奥がムズムズしてきた。

 いらいら。

 いらいら。


「使っている犬人族も犯罪者で、人間に関しては敵であろう!それを利用しているだけだ」

「……はぁー」


 ため息を一つ。

 それだけで自分の中の何かが落ち着いた気がするのだから、不思議だ。


「聞いてほしいな。犬人族の長、名前は?」

「わ……私の名はガエだ」

「ガエ、どうして人魔は悪なの?」

「そんなの、人間が敵だから!人間の血という不純物など、我々の遺伝子にいらないから!」


 大声を出すためか、なぜか私のもとへ一歩一歩と近づいてくる。

 何の主張だろう。私は魔王なのに。



「それで?」

「考えを改めましょう魔王様!人魔なんて、奴隷にして使い果たすのがちょうどいい!」

「……うわぁ」


 素で嫌悪の声が出てくる。

 なるほど、こういう人間が、悪なのか。


 イライラ。

 イライラ。


 周りの人は、もうこの男の命が無いと思っているようだ。

 魔王にたてつき、しかも人魔を救うと言っているのにこの発言。

 ストロングに至っては手に槍を掛けている。


「それは、曲げない」

「どうして!」

「どうしてもなにも……まずお前(・・)が間違っている。その間違いに気付けないなら、私の考えなんて、一生分からない。


 私がしたいことは、種族が違うからという意味の分からないことで差を付けている今の魔人族を変える。人魔という存在を許さない、そんな魔人族を。

 人魔が安心して暮らせる世界のために。

 支配から逃れた人魔達を、更生させるために。


 それが魔王になってからする目標だ」


 魔王という存在は、高らかに演説するらしい。

 こういう泥臭い話し方は、魔王らしくないだろうか。

 それでもいい。

 だって私は、普通と違うのだから。




「『人魔の魔王(イレギュラーキング)』が宣言する。

 魔人族、人間族に捕らわれた人魔族を開放し保護する。


 これより、失われた人魔の歴史を、再び紡がせる」



 同時に、魔王のアンの歴史が紡がれる。

投稿が大変遅くなりました。言い訳と致しまして、職業見学とか推しとかパソコン買ったとか色々あります。

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