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こいつ頭可笑しい

「ただいまです」

「ただいま帰りましたです」

「はいおかえり。意外と遅かったね」


 ロアヴェリスのラボに戻った二人は、どこかボロボロで。

 不自然に胸元だけがはだけていた彼女達は、不機嫌そうな顔を浮かべていた。


「にゃはは、二人共満身創痍。お風呂入ってきたら?」

「ロアヴェリス様、この身体に乳袋を付けてください」

「ロアヴェリス様、私達の身体に胸を付けてください」

「服だけ斬られたんでしょ?付けたらおっぱいごと斬られるじゃん」

「「確かに」」


 二人は納得した。自分達に胸が無いことに感謝した。

 さて解決!胸が無くて良かった!今日もお疲れさまでした!



「既にお風呂に入ってる……ってツッコミはしないのかよ」


 本来女子しかいないこの空間に、あまりにも似つかない渋い声。

 


「あらこの不自然な声は」

「あらこのムサくうざい声は」

「おはようございます。寝坊助アブソリュー様」

「おはようございます。大遅刻アブソリュー様」



「アブソリューだけで結構だ、双子猫」



 布団の上で横たわる不自然な巨体。

 体に何重にも巻き付けられた包帯、首から上だけが動かせるようで顔を二人に向けている。


「君達が遊びに行った瞬間に目が覚めてね、大変だったよ。吐血はするし、動こうとするから傷は開こうとするし」

「それは……迷惑かけたよ」

「迷惑掛けましたすみません、だろ」

「大変申し訳ございません、だろ」

「なぁロアヴェリスさんよ。こいつらってこんなにうざかったか?」

「にゃはは、やっと起きて嬉しいんでしょ。思春期あんど思春期」

「そうなのか?」

「「そうなのですか?」」

「適当言った♡」


 アブソリューは頭に血が上るのを感じたが、先程身体を起こしただけで吐血したのでグッと我慢した。

 ツッコミ役がここにいてはいけない。



 二人が着替えから戻り、アブソリューの赤黒く滲んだ包帯を変える。

 お腹、二の腕、太ももの痛々しい縫い目に嫌な顔一つせずに包帯を変えるランとレン。

 一ヶ月ずっとしていたから、というわけではない。



「さてと、とりあえず君はしばらく安静にして。一ミリも動かなければ一週間で歩けるはずだ」

「一週間何していればいいんだよ」

「動くなと言っているんだけど」

「もうちょい縮めてくれないか?」

「私は元々三カ月寝ている予想だったんだよ。だけど、君の状態と精神力を信じて一週間と言ったけど……スリーピングラスを飲んでまた強制的に一ヶ月寝る?」

「……あれは生物が口にするものではない」

「じゃあ我慢できるね」

「……チッ、仕方ねぇな」


 スリーピングラスは、近づいた物を花粉で眠らせて食べてしまう植物系の魔物だ。

 ちなみに、最初にこの花粉を与えた時は、花から吸うだけでも良かったのだが、何を思ったのか口から吸った。

 ロアヴェリスが素で頭可笑しいと思った人は数少ない。

 もちろん褒めては無い。


「それじゃあ、今後の―――」



「アブソリューさまあああああああああ!!!!」


 ライフプランでも話そうか。

 ロアヴェリスがそう言おうとした時、扉を壊さんとばかりに開けるメイドがいた。



「ご無事に起きたようで、なによりですううううう!!」

「ナンシ……ゴヴァ!!」


 そのまま、怪我だらけの主人に向かってダイレクトアタック(頭からダイブ)した。


 アブソリューは思った。

 こいつ頭可笑しい、と。

 もちろん褒めては無い。



 アブソリューが気絶して、ランとレンが再び包帯を巻き、ロアヴェリスがナンシーに説教した後。


「さてと、それじゃあ二人共。そろそろあの子(・・・)のことを教えてくれ」

「はい」

「了解」

「あの子?」

 ナンシーだけが

「ナンシーさんは苦労掛けた詫びで私達にご飯をくれ。なんとなくパイが食べたい気分だ。おそらくアブソリューもその頃には起きるだろうから四人分。よろしく」

「はい! 承知いたしました!」


 自分が何をしたらいいか分かれば、行動に移るのは早い。

 ナンシーはあの子のこともすっかり忘れながら部屋から飛び出した。



「邪魔者はいなくなりましたね」

「駄乳は消えた」

「にゃはは、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな。別に聞いてもいいけど、いるだけで邪魔なだけなんだから」


 酷い言われようである。




「じゃっ、早速教えて。あの子が何者か」

「何者か、までは分かりませんよ」

「異常に強いだけです」


 それは、かなりの評価ではないか?


「武器はこちらだけ使っていたのに」

「まるで手加減されてるように」

「地の利はこちらにあったのに」

「まるで私達が力量を調べえられている」

「「主導権を握られたまま、そのまま潰されました」」



「……へー。私の可愛い娘がここまで言うんだ」


 ロアヴェリスは不敵に笑った。

 何者か分からない敵に、そもそも敵かどうかも分からない存在に。

 一瞬だけ、笑顔と瞳を消した。



「そこまで言うなら、私と同じくらいの力量。幹部程、【黒】に人間族に仮面被ってる人はいないけど、まぁ素性は隠すよねー。まずは男は除外して、残るは魔法使いとハンターと処女と血と眼。身長的にハンターと処女と眼の三人まで絞れるか。そして目的は?魔王様が現れてスパイとして来たか、だけれどあの首輪なら念話も封じれるはずだから情報が漏れることはないと思うから大丈夫のはず。それと、取引に使うとするなら、何と取引する。何を目的で取引する。魔王様のしたいことは、魔王様のしたいことは奴隷の解放。人魔族の自由? なら、人魔族を全て寄こせとでも言うのか。言いそう。超言いそう」



 二人の事は目もくれず、上だけを眺めて一人事。

 こうなってしまっては二人にすることは無い。ただ恩師の話に耳を傾けるのみだ。



「―――俺は、どうなった?」

「あの女が【黒】でもなんでもない可能性もあるけど、それは考えなくていい。ランレン二人を相手に子ども扱いは幹部級じゃないと出来ないはず。というか魔王様の攻撃に耐えるのだから幹部級は絶対。いや待って、そもそもスパイなら襲ってきたことに説明がつかない。意味が分からない、意味が分からない、意味が分からないけど―――」

「何をしているんだ?」

「黙れ単細胞」

「静まれ病人」

「お前らは口を開けば悪口しか言えないのか」

「「はい」」


 アブソリューは口を閉じた。一応傷も閉じた。


 未だ天井に向かって独り言を続けるロアヴェリスを見て、こう思う。

 相変わらず、こいつ頭可笑しい、と。

 もちろん褒めては無い。

就職活動が本格的に始まりそうなので、来週休みかもしれません。

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