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閑話 傀儡の魔王ハングマン

 人口的に作られた魔王として知られる二代目魔王イトが勇者に完敗。

 そこから約三年間、魔人族からしたら暗黒時代だった。



 まず最初に『二代目魔王イト』から端的に語ろう。


 初代魔王タヴが死んで七十年経った後、勇者アルカナが開花した。

 勇者に開花して望んだのは『魔物がいない世界』

 開花してすぐ旅に出た。魔物は全て殺した。すぐに力を付け、魔人大陸に訪れた。

 それは、魔王が生まれる前に魔人を全て殺すかのように。



 だが魔王は生まれなかった。

 このままでは魔人は殲滅されてしまうだろう。だが、勇者に立ち向かえるのは魔王だけだ。

 魔人族は考えた。結論は、魔王級の力を持った魔人を作ること。

 つまり、人工魔王だった。


 これで、なんとか勇者に勝てる。

 なんとか勇者と渡り合える、

 魔人族は……イトは、そんな思いでアルカナに対峙した。





 結論から言えば、イトは惨敗した。

 魔王級の力を持っていただけであって、魔王ではない。

 勇者が来たから迎え撃つだけの魔王モドキなんて、負けて当然だともい言えた。




 そこから、魔人族は地獄のような日々を味わった。


 人間族は、アルカナが魔王を倒してから一ヶ月も経たず、現在で言う魔人領土(当時は国境という物や領土というものは無かった。ここから先に行くと魔人族が住む場所、ここから先が人間族が住む場所という認識だった)に次々に侵略していき、村を襲い魔人達を殺して行った。


 当然命乞いをしてくる者もいたが、魔物を全て殲滅する教会の人間はそんな言葉に見向きもしなかった。

 だが、ただ殺していくのは勿体ない。魔人族を利用しよう。

 頭を使う奴はそう考えた。


 ただ監視を付かせて労働させるにしても、魔法による攻撃が飛んで来たら意味が無い。

 だが


 こうして作られたのが、勇者アルカナが使っていた『無力の愚者道』という『対象は魔力を一時的に使えなくする』という魔法を優秀な魔法研究者達によって改良に改良に重ね作られたのが『無力の首輪』という呪いの装備。


「あまり使わなかったけど、奇襲に使えばピンチから逆転に変わりえる強力な魔法」とアルカナは言っていたが。

 これさえ着けてしまえば一切魔力は(・・・・・)使えない(・・・・)。ピンチという状況すら生まれない。

 これで魔物は殺すだけでなく、利用する価値も生まれた。


 こうして、奴隷と言うシステムが生まれた。

 教会は魔物を滅びることを主軸にしているのであくまでも見つけたら殺すが、冒険者達は魔人を動けなくさせた後、無力の首輪をつけてから奴隷商人などに売る。

 奴隷は、貴族や一部の富裕層に高く売れる。女は性欲を満たす為に使われ、男は水も飲まず重労働。

 



 イトが死んでから僅か三年。

 詳細は不明だが、魔人族全体の人口はおよそ五割ほど減ったと言われている。

 住む場所は人間達に奪われ、未だ安全と言える場所は、島国である鬼人族が住む地『鬼蛾島(きがしま)』か、極寒の地である北方地域。

 そして、当時魔人領土で一番広く大きい森と言われている『バレージュナの森』くらいだと言われていた。



 イトが死んでから三年。


 ハングマンは、妻と六人の子供達と暮らしていた。

 バレージュナの森南東側で暮らしていた。

 二年前に人間族から住む場所を奪われたが、ここに逃げてからは安全に暮らしていた。

 今は、日々の平穏にためにいるかどうかも分からない神に祈り、いずれ来るであろう人間族達から子供達を逃がせるようにと不慣れな戦闘を練習した。



 そして、人間族はバレージュナの森に攻め行った。

 鬼蛾島や北法地帯とは別に、遠くは無いし雪程辛くはない。

 樹木がうっとおしく、国三個分ほどの広さのなかで闇雲に攻めるのはアホらしいと思っていたが、今生きている魔人族の九割が先程言った三つの場所に隠れていたので、冒険者達は消去法でバレージュナの森を攻めるようだ。




―――人間が攻めて来たぞ!



 集落の守り人がバレージュナ全体に警告を響かせる。

 ハングマンは泣き叫ぶ子供達に手を取りながら、他の魔人達が逃げる方向に混ざる。

 二年も歩いていればこの不安定な道にも少しは慣れたとはいえ、この混乱した状況では木の幹に躓く物も大勢いる。


「落ち着いてゆっくり追え!どうせ俺達はあいつらには追いつけない!ゆっくり、一人一人捕まえろ!」


 顔が丸いデブ人間が仲間の人間達に指示を出す。

 捕まえるという台詞や、言葉の荒さからみて教会の人間ではないのは確かだろう。



「キャァァアアアア!!」



 耳に突き刺さる声が、心臓の奥深くまで聞こえてきた。

 振り返ってはいけない。

 振り返ってはいけない。

 息子の泣き叫ぶ声、娘の泣き叫ぶ声、見知らぬ人が前を走る、妻の顔は見えない。




「あっ」




 と、いつもみたいな声が聞こえると。

 長男が転んだ。長男が転んだ。

 転んだら、やられる。




「お前達は逃げろ!!」




 ハングマンは家族達に背を向け、懐の剣を取り出し駆けだした。

 家族を守るため。その一つの思いだけで。





 結果から言えば、ハングマンは負けた。

 当たり前だ。

 いくら剣の扱いを理解したとはいえ、その程度では熟練相手に勝てるはずも無ければ、例え十年剣を扱っても、多対一を打破出来たかと言われれば首を横に振るほかない。


 淡い紫色の呪いの首輪は、ハングマンにも着けられた。

 ただ、売られるまでは手と足にも縛りを着けられるようで、例え熊人(くまびと)族でも鬼人族でも割れない拘束具は少しきつく感じる。

 白い鉄格子が何十にも重なる異質な馬車は、どこに連れられているか分からない。


 ハングマンはこうして捕らえられてしまったが、後悔はしてなかった。

 今ここには捕らえられた魔人族がいるが、この狭い部屋を見渡しも家族はいない。




 良かった。

 ここに家族がいなくて。

 もしもここにいたら、俺は情けない親父だと思い自害していただろう。

 本当に、本当に。

 無事でよかった―――。





「父ちゃんを、返せ!!」


 ―――外から聞こえる長男の声と同時に、強烈な爆風が前方から襲い掛かる。

 意味が分からない、意味が分からない。

 アレは確かに息子の声。それとこの爆発が何に繋がる。

 爆発音は増えてく。近づいてく。悲鳴は共鳴していく。


 これは、『ぽにー人形』……?

 それは少し不格好で汚い、可愛らしくもない小さな馬の人形。それが牢屋の中の至る所にあった。

 ハングマンは裁縫が得意だった。いつから得意だったか趣味にったか忘れたけれど、その特技は子供達には気に入って貰えたようで、特にその影響が受けたのは長男だった。自分もそれが作りたいと言っていたのが、四年前の事で。

 この人形は、ぽにー人形は、ハングマンが始めて作った人形でもあり、長男が作った人形でもあった。



「父ちゃん!ここにいた!さぁはやくここから出よう!」



 普段はひ弱な息子がでかくなったもんだ、なんて考えてる暇も思考も今はない。

 何故か動くぽにー人形に連れられ、未だ分からない思考の中でも、息子が助けに来てくれたことだけが分かり、穴の開いた鉄格子から体を出す。




 世の中は甘くない。

 ハングマンは後に語った。

 鉄格子の外から出た瞬間、息子の身体は真っ二つに縦に裂けた。

 血飛沫が顔面にへばりつく。内臓の一部が体に当たる。


「このクソガキ……人間舐めてんじゃねーぞクソが」




 糸が切れるような音がした。

 身体の内側から綿が出てくるように、使えないはずの魔力が内側から溢れだす。




「おら、さっさと鉄格子の中に戻れ。今なら許してやるからよ」




 男の声は聞こえなかった。

 ハングマンは頭の中に繰り返される何かに(・・・)忙しい。



「シカトか、よ!!」



 男は自慢の剣を振り上げた。

 高速に振り落とされつ大剣は、確かに人一人くらいなら縦から真っ二つにする力はありそうだ。




「契約だ、ぽにー」

「イエス、マイマスター。契約を実行します」








「―――そこから先の記憶は無いらしい。ただ分かるのは、家族全員死んだことと、ハングマン自身が魔王になった事と、当時付けられていた『無力の首輪』を『ライフライン』に変え、奴隷として生きていた魔人族全員を強化し人間族に報復し、人間族にもライフラインを着けさせて奴隷化し、立場を逆転させた……ふーん」



「『満足した?』」

「一応ね。まだあるけど、いいや」


 隣に眠るクローバを添えて、先程買った本を読んでいた。

 歴代魔王の情報はフォンセに聞けば分かるが、本で読んだ方が分かりやすいと思い先程古本屋で買っていた。


「けど、『ライフライン』って凄いね。味方に付ければ強化して、敵に着ければいつでも殺せし魔力を封じたりしなかったり、一巻の終わりじゃん」

「『うん。実際それを着けられて生き残れたのは、当時の勇者アルカナだけだよ』」

「それは……やばいね」

「でしょ?」



 それにしても、魔王に開花した理由が「息子を殺されたから」かー。

 なんだか、自分が「思い出の弓矢を壊されたから」が小さくみえてしまう。


「『それは人それぞれだし、その時の感情の揺れ次第。その弓矢は、家族みたいなものだったでしょう?』」

「それは……そうだね」

「『だから、自身持っていいよ。アンちゃんは、アンちゃんだから』」

「フフッ、言われなくても」

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