魔王城の浴槽は無駄に広い
その後、私達はゲートに入り魔王城の中に入った。
中にいる召使いらしき人達は私を見ても動じず、淡々とした表情で迎えてくれた。
「人間大陸から来たんでしょ?長旅で汚れてるだろうから、お風呂に入ってきなよ」
とアンちゃんから言われ、魔王城に備えられている露天風呂に入る。
別に大丈夫と言いたかったけれど、今の私は逆らえる立場ではない。
嫌々頷いたが、勇者が魔王になったという意味の分からないことが起きたせいで、疲れが溜まりに溜まっているのは確かだ。というか、疲れとか感じてる場合じゃなかったのだ。
せっかくだからゆっくりしておこう。
と思ったその時、仮面に魔力が流れた。
「『お風呂に入っても仮面は外さないでよね』」
頭に響くネネさんの声。
今までの光景が見えていたのなら、今までの会話が聞こえていたのなら、私がアンちゃんに接触出来たのは知っているだろう。
「『えぇ、そうよ。貴方が舐めプされながらボコボコにされた様子も全部見てるわ』」
そんな所見ないでくださいよ。
とりあえず、風呂でも仮面を外すつもりはありませんよ、この間にネネさんと連絡は取りたいし、そもそも召使いさんが私を監視している状況で顔を見られたくない。
「『そうね。私達が魔王軍幹部の情報を手にしているのと同じように、あちらも私達の情報を握っててもおかしくない。ヒビキは一度も前線に出た事が無い、新参黒だからもしかしたらバレないかもだけど……用心しないわけにはいかないわね』」
「『―――そうですね』」
そうですね。
「『ん?』」ん?
「『お久しぶりです、ネネさん。アンです』」
突然会話に入ってきたアンちゃんの声に驚きつい目が開かれる。
頭を洗っていたので目ん玉に泡が入る。なんだかよく分からないけど頭スースーして気持ちいと思っていたのに、目までスースーして……一言で言うなら超痛い。
「『大丈夫ですか!?』」
「『目を殺った原因が心配してるのウケるわね』」
ネネさんが言う『ウケる』は『滑稽』って知ってますからね!!
それよりアンさん!!何しているんですか!!
「『お二人の念話にお邪魔させていただきました。一応私は魔王なので、こっかきみつ?を漏らされるのは駄目でしょってルーチェに言われまして』」
「『理由はどうでもいいわ。私が知りたいのは、念話の傍受したやり方よ』」
「『えーと……そもそもヒビキさんに着けた首輪に念話機能を付いてるらしくて…………えっと、うん、ん?うん……』」
雲行き怪しくなってきた。
多分、妖精達に教わってるんだろう。
「『アンちゃんがおーばーふろうしたから、私が説明、するね?
魔力信号が同じ念話装置があれば、その信号と同じ―――』」
アンちゃんとは違う、ルーチェさんとも違う声が説明すること約五分。
とりあえず私は全身を洗い流し、タオルを頭の上に乗せて湯船に浸かった。
専門的なことは二人に任せて、私は何も考えずに疲れを取ろう。
思った以上に疲労が溜まってる。やばい、眠っちゃいそうだ。
「『―――なるほどね、説明してくれてありがとう。それはそうとヒビキ、そこで寝たら仮面に備えてる爆弾を起動するわよ。恐らく首から上が無くなるわ』」
「なんてもん付けてるんですか」
思わず声に出してツッコむ。召使いさんがビクッと動く。驚かせてごめんよ。
「『その首輪、原案がハングマンだから、電流、流せる』」
なんてもん着けさせてるんですか!?
「『私、念話とこっちでの会話両方しているんですけど、念話の方全然状況分からないので一旦切ります。ヒビキさんは長湯してたら怪しまれる恐れあるんでなるべく早く上がってください』」
「『あら残念』」
「『また後でヒビキさん通じて話します。それでは!』」
そう言ってアンちゃんは念話を一方的に切る。
そういえば、私魔力消費してない。ネネさんと同じタイプ?
「『いえ、一番最初私が念話を繋げたのを利用して消費したのは私だけよ。あの子、やるじゃない』」
ウキウキしてるとこ悪いですけど、何一つ話が分からないのでもう切ってもらってもいいですか?
「『はいはい。せいぜい死なない事ね。今みたいに気緩めてたら死ぬわよ』」
そう言って、プツンと魔力が途絶え心の声が全く聞こえなくなった。
分かっていますよ。
全裸でも寝ている時でも襲ってくる人は容赦なく襲ってくる。
なんせここは魔王城だ。
魔王軍幹部の人達はもちろんの事だが、ギルドランクで言う『赤』に相当する人は沢山いるだろうし、頭の可笑しいやべぇ奴もいても可笑しくない。
それはそれとして、早めに湯から上がれと言われたため、ここはアンちゃんの指示通りさっさと上がってしまおう。
「―――やっぱり、頭可笑しいやつっているんだって」
湯から上がろうとした途端来た気配。
一秒後に当たるであろう攻撃に備え、浴槽のお湯を思いっきり蹴り『水結界』を張る。
『ライトニングボール』が水結界に当たると、中央から波紋が広がり結界は感電状態になる。
向けられる目線に殺意は感じないけれど、当たったら即死する攻撃。
人間族はこういう魔法属性相性をあまり使わないイメージがあるのだが、魔人族は意外とそうではないのか、それともこの人達がちゃんと考えているのか。
「ねぇレン、どう思う?」
「さぁラン、とりあえずロアヴェリス様の言う『ちょっかい』は出せたんじゃない?」
「それもそうだね」
「それもそうね」
猫耳と頬っぺたの模様、猫人族と楽人族のハーフ。
ランと呼ばれた方は赤い髪の毛、レンと呼ばれた方は青い髪の毛
顔付きが似ているから、多分双子。
レンと言った方はロアヴェリスと言った。ロアヴェリスは、魔王幹部の一人。つまりこの二人は弟子か部下か友人か。
「こんにちは、魔王様に選ばれた人間」
「こんにちは、魔王様に親しい人間」
「……」
「挨拶も出来ないなんて、この人間は悪い人間のようね」
「返事も出来ないなんて、この人間は喋れない人間のようね」
は?何言っているんだこの魔人族。
頭来た、言い返してやろう。
「……挨拶も無しに攻撃をするなんて、この魔人は悪い魔人のようですね」
「ほう、煽り耐性の無いレンに煽りますか」
「あら、煽り耐性の無いランに煽りますか」
何か嫌な予感がするので、とりあえず頭に乗せてたタオルを体に巻いてすっぽんぽん状態を解消する。
動きにくいけれど、これくらいなら余裕だ。
「やいバスタオル荒野人間。お前に全力でちょっかいをかける」
「おい山無し谷無し人間。貴方に全力でちょっかいをかける」
プツンと。
頭の何かが切れる音がした。
「そっか、ここは風呂場。血がついても、洗い流せるよね。そうだよね貧乳」
「ド直球。ボキャブラリーの低さが伺える」
「【悲報】人間族の低脳を晒す」
「それはそれとして」
「それはそれとして」
「「今私達の事貧乳って言ったな?」」
「「「 殺す 」」」
私が書くキャラ、七割貧乳です。
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