一息ついて
諸々の準備が整い、いざ魔王城の外へ。
普通、勇者は魔王城に行くのに。
でも魔王だからね、勇者だけど。
「『楽しんでるね、この状況』」
「『いい意味で慣れてきた……のか? 変に空回りしているようにも見えるが』」
コーデは、狩人服を久しぶりに脱いで―――寝ている間は素っ裸だったけど久しぶりは久しぶりだ―――ちょっと大人っぽくて高級そうな服。全体的に灰色っぽくて暗いのにどこか綺麗に見える。
魔王城には沢山服装がある。それは、クローバにも合う子供用の服や、パーティーで必須のドレスなどが沢山置いてあった。
これみたいな、お忍びコーデ?みたいなやつはちょっとしかなかったけど。
魔王城の真っ赤なカーペットを歩き、見たことない程大きい扉を脇にいるメイド姿の女の子が開く。
だいたい黒大蛇くらいの大きさ。なんで扉だけでこんな大きいんだろう。開けてもらうだけの女の子絶対いらないじゃん。
「『威厳が大事……っていうのが、過去の魔王達』」
よく分からないなー。その感覚。
外に出て一番に見えたのは、無駄にゴテゴテの正門と、正門までの道を飾る薔薇などの植物が植えられた庭。
正門まで歩き、なんとなく魔王城に振り返る。
「おぉ……」
「どうか、しましたか?」
「いや、そういえば私、魔王城の本物を見るのは初めてだなって思って」
思わず感嘆の声が漏れ
なんて言えばいいんだろう。
お城のイメージって、左右おんなじでどっしりした感じだけど、魔王城は違った。
左右対称じゃなくて、荒々しい形状。どっしりというより……怖い?
所々に角張ったような場所に、縦よりも横に広がった形状は、脳に危険信号を告げて来る。
まるで、今にでも動きそうな……。
「『ブルータリズム』」
「え?」
フォンセのよく分からない単語に思わず声が出る。
「『ブルータリズムっていう、建築らしい。冷酷で残虐な魔物のような……そんな建築』」
確かに、言われてみればそんな感じはする。
というより、なんとなく……。
ドラゴン?
「『正解。
初代魔王の姿をモチーフにしたお城』」
初代魔王で、ドラゴン……それなら知ってる。
確か『タヴ』って名前だっけ。
「『うん、魔人族で知らない人はいない。あのタヴ』」
それを……その人をモチーフにしたお城。
『その人をモチーフに』って、物語や武器しか聞いたことが無い。こんな魔人族を象徴とする魔王城のモチーフになるなんて、やっぱり凄い人なんだ。
「―――さてと、行こっか」
「は、はい」
お城の景観を十分楽しみ、ゴテゴテの正門を三人で潜った。
「あの三人、身長低いね」
遠目で見ていたロアヴェリスが呟いた。
マジで失礼なやつだなと、作業を終えて帰ってきたランとレンが冷ややかな目を向けながら内心思った。
城から出てなんとなく思ったことは、貴族の家が無いこと。
いや、多分無いってことは無いと思うんだけど。
ドミノ王国は、お城が中心にあって、その周りに貴族達が暮らすエリア、その次にお店とか平民達の住処……と、ざっくりした説明だがそんな感じだ。
だがここは違う。いきなりお店があったり平民達が暮らすよう場所だ。
「『魔人族の国って……ざっくり二つあるんだ。
一つは、種族の国。もう一つは、他種族で暮らす国。ここは後者。まぁ、国って言うより、魔王城周辺、って呼ばれているけど。
国って、誰かがそこを統治……そこら一帯をまとめる貴族がいるんだけど、魔王城周辺の貴族って、ほとんどは魔王城に住んでるから、貴族達が暮らす場所が無くて、お城出てすぐに普通の人が暮らす家や出店があるんだよ』」
……。
……へー。
「『か、簡単に言うと……簡単に、説明……』」
「『やめとけフォンセ、こいつに政治はまだ早い』」
「私、少しは政治を学ぼうと思うんだ」
「いきなり、どうかされましたか? 何かこの街のご不満でも?」
「そういうわけじゃないよ。フォンセが……ね」
「「?」」
二人して首を傾げられたので、何もなかったかのように「行こうか」と先導した。
何も知らない街だけど。
「やきとりおいしい」
「分かる」
「分かります」
やっぱり、この世で一番狩に適してる物は鳥だと思うんだ。狩りやすいし羽は矢に使えるしいっぱいいるし、おまけに美味しい。
狩人目線からしたら最強の食材だ。
ちなみに、一ヶ月寝ていて何も食べてない状態だから、しばらくは食べない方がいいと誰かから言われたが、フォンセから「魔王だから、あらゆる耐性が付いてるから、大丈夫だよ」と言ったので遠慮なく私も頬張った。
それと、お金はルカちゃんに全部任せてる。
見たかんじ、人間族と同じ高価を使っているけれど、まぁそれが分かったところで自分の荷物は全てあの盗賊のアジトに置いてきてしまっているので、一文無しなことには変わりない。
貰った防具くらいは持ってきたかった。
「『あぁそうだ。お前の防具ならヒビキが全部持ってるから。もしも会えたら返してもらえると思うぞ』」
そっか、ヒビキさんが回収してくれたのか。
それは、嬉しいな……。もしかしたら使ってくれてるかもしれない。
「『流石にヒビキの着ていた方がスペックはいいと思うからそれは無いと思うぞ』」
悲しい現実。
「アンちゃん、あーん」
フォンセが体の中から出てきて、口を大きく開けた。
適当にふーふーしてからその口にお肉を放り込むと、ゆっくり噛んで、ゆっくり噛んで、やっと飲み込んだ後に「おいしいー」と垂れながら言った。
「『おい!吾輩が食べれないからって!!ずるいぞフォンセ!!』」
「『今、アンの身体は、魔王。勇者がしゃしゃるな』」
「『おいなんつったてめぇ!』」
うるさいなぁ。喧嘩するならよそでやってほしい。
「ふぉんせ、もっとたべる?」
「大丈夫だよ、優しいね」
「えへへ……」
私が寝ている間に、フォンセがネネのことを見ていたおかげか凄く仲良くなっている。
寝てた間、フォンセは凄く私の事を心配していたらしいから、私との仲介役だったフォンセと仲良くなったのは当たり前といやぁ当たり前か。
「あっ」
と、ルカちゃんが珍しく自分から声をあげた。
「本屋がありました。寄ります?」
「本屋?うん、寄ってみたいけど」
そういえば、ルカちゃんって作家してるんだっけ。
「ルカちゃんの本ってあるの?」
「い、一応ありますけど、けど、別に私いっぱい持ってるので、買わなくて大丈夫です。ちょっと、個人的に欲しいのがあればと、思いまして」
「そっかー。私も本好きだから、寄ろ」
「ほんすきー」
「クローバも好きなの?」
「うん。おかぁさんと、ラーケンがよんでくれた」
「へー、私もよく読ませてもらってたな」
思えば、私達人魔って姿を隠すために基本は家に籠りっぱなしだ。
だから、人魔の家族は家にいる間飽きさせないように本とかをたくさん買うかもしれない。
適当な推測だけど。
ラーケンに関しては分からないけど。
着いた本屋は沢山の分厚い本が錯列しており、なんだろう。本屋を見たことない私でも本屋って人目で分かった。
「何か……オススメってある?」
「…………さぁ?」
流石に無茶ぶりが過ぎたか、困ったようにルカちゃんは首を傾げた。
「その人が読んでみたい物が分からないと……物語なら、恋愛系だったり、アーサー系だったり」
「……適当に絵本探そっか」
「ん。」
「私も、探してみます」
そうして、その本屋の中を適当に歩き回った。
感じた事の無い本の匂いは、なんだかよく落ち着けて。
クローバは少し疲れたみたいだけど、私はちょっと色んな本を読めて、久しぶりに本読んで楽しいと思えた。
本を買った後、私達は適当に食べ歩きをしながら街を歩いていた。
当たり前だが、人間族は変わり映えしないが、ここは異論な種族の魔人がいるから歩いている人を見るだけでも楽しい。
「さてと、次はどうする?」
「次は―――!?」
―――爆発音。
音が聴こえてきた方を反射的に振り返りながらクローバに被さって、万が一建物が真上から落ちてきてもクローバが怪我しないようにする。
幸いこの近くじゃないようで、だが明らかにこの街なのは間違いなく、建物をいくつかまたがった先に黒煙が立ち込めている。
どこからか、男の声が街全体に響いた。
「『奇襲!! 全身黒づくめで黒い仮面をした者が正門付近で暴れている!! 市民は速やかに避難し、兵は今すぐ増援を頼む!!』」
全身黒づくめで、黒い仮面をした……?
嫌な予感のような、良い予感のような。
「魔王様、ここはとりあえず魔王城に帰還しま……」
「クローバ、私の近くにいた人、覚えてる?」
「ん。黒い仮面」
「その人の可能性あると思う?」
「……こことあそこ、凄い遠い。違うと思う」
「魔王様、ここだと危ないです。今すぐ避難を」
フォンセ、いい言い訳ない?
「アン、いい腕試しがちょうど転がってきた」
「……!! そうだね。ルカちゃん、クローバをよろしくお願い。クローバはルカちゃんの言うことを聞くように」
「えっ」
「ん」
私はすぐさまその場から離れる。
跳躍。正門は分からないけど、黒煙目指して屋根を駆け抜けた。
時間は掛からなかった。
勇者の時もそうだったが、魔王になってからさらに基本身体能力がまた上がったのだから、移動もこの通りだ。
倒れ伏す兵を横目に、空きっぱなしの門を潜ると。
見た事ある仮面、見た事ある装備。
黒や青を基調にして、スラッとした装備で。
ちょっとかっこいい、よく分からない模様がしてある青い目をした黒い仮面。
「ヒビキさん……」
「……アンちゃん」
タイトルを「閑話休題」から「一息」に変更しました。




