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臨戦態勢

「『上手くいったようだな』」

「『上手くいったね。私のおかげ……!』」

「『九割吾輩で一割実行したアンだろ。お前は何も案出さなかったし何も実行してねーじゃねーか』」

「『アンだけに?』」

「『殺すぞ』」


 心の中で喧嘩する二人を無視しながら、ミコトちゃんに案内されながらとある部屋に移動する。

 小さな光が壁に付けられた地下階段は、雰囲気だけならこの魔王城の中で一番禍々しかった。

 そういえば、私はこの魔王城を外側から見たことは無いし、どんな部屋があるかも知らない。

 色々やることはあるけれど、少しだけ見て回る時間が欲しいかもしれない。

 クローバにはあることを教えてもらいたいから、クローバにも来てもらってる。


「先日は私が不在で申し訳ありませんでした」

 先頭を歩くミコトちゃんが突然そんなことを言い出した。

「あぁ、パーティの時の事?いいよ別に。私は気にしないから」

「寛容な心に感謝します!所で、魔王様は『魔王様』と呼べばいいでしょうか?それとも『アン様』?」

「なんでもいいよ」

「なんでも……それじゃあ、魔王様と呼ばせていただきます!」

「うん、分かった」


 今度は様付けが恥ずかしいとは言わない。

 眠ってる間、夢でやりたい事を決めた際に決心したから。

 魔王であるのなら、勇者であるのなら。

 胸を張り、堂々とすると。


 それはそうと。

「そういえばミコトちゃん。『あいどる』ってなに?」

「『アイドル』が……何か……!?」


 ミコトちゃんはこちらを振り向き目をかっぴらく。

 目が大きい。


「アイドルというものを語るのは……凄く簡単でもあり、難しい」

「そ、そうなんだ」

「まぁ、私が思うアイドルという物は『皆を笑顔にする存在』です」

「笑顔?」


 歌を聴いて欲しいダンスを見て欲しい、で戦う系じゃないのはなんとなく察していたけど、笑顔はよく分からなかった。


「歌とダンス……それを、お客さんに、ファンのみんなに見てもらって、笑顔になってもらうんです」

「どうして?」

「歌とダンスが好きだから」


 即答する彼女。

 それが当たり前だと言うように告げた彼女の顔は、自分に似た覚悟を持っていた。


「路上でダンスをした。終わった時には見知らぬ人に囲まれて拍手をしてくれた。それが……それが、たまらなく嬉しくて」


 天井を見ながら過去を懐かしむ彼女の横顔は、今まで生きてきた中で一番綺麗な顔に見えた。

 神を語ったことはないけれど、神を見たことは無いけれど、きっと神様の顔を拝めるなら、この顔だと思った。


「次は衣装を変えた。次はステージを用意した。次はファンサービスをした。そうしていたら、いつの間にか『音楽』という文化は魔人族に定着して、私はアイドルと呼ばれました。だから、アイドルという言葉の意味は私にも良く分かりません。おまけに私しかアイドルと呼ばれる人はいないので、もっと意味が分かりません」


 再び進行方向を向いて地下の階段を歩く。

 顔は見えないけれど、その声は何処か弾んでいて、話の内容は『分からない』と言っているのに、その『分からない』を楽しんでいるようにも思えた。


「あん、あん」

 クローバが繋いだ手を振り下に引っ張り目線をクローバに移す。

「みことの、おうたとダンスすごい。じょうず」

「見たことあるの?」

「うん、あんねてるとき、いっかいだけしてもらった」

「クローバちゃんが暇そうにしていたので、私のステージを見に来てもらっちゃいました!」

「かわいかった」

「ありがと♡また近いうちにやるから、また見に来る?」

「うん!」

「……じゃあ、私も行こうかな」

 クローバが非常に満足してるっぽいのでなんとなくそんなこと言ったら「本当ですか!?」とミコトちゃんがまた目をかっぴらいてこちらを向く。

 目ん玉飛び出ないか心配だ。

 スライムらしいから本当に飛び出ても大丈夫だと思うけど。




「着きました。ここが『臨戦態勢』と呼ばれる場所です」


 そんな雑談を地下への階段をゆっくりと降りること二分。

 大きな扉を開けてくれると、そこは先ほどまでの禍々しい道のような空間ではなく……何と言えばいいんだろう。

 黒く四角い石素材の間に光り輝く白い光。暗いのに神秘的にも思えるデザインに開いた口が塞がらなかった。


「きれい」


 そう呟いたクローバの恍惚とした声に気を戻す。

 いけないいけない、私は観光に来たわけじゃないのだ。


「あれ、魔王様じゃないか」

「ロアヴェリス、さん」


 部屋の奥にから特徴的な声が聞こえてきた。

 ただ、どこにいるか分からない。声の聴こえ方と、二人の部下がいるためある程度の位置は分かるけれど、その姿が全く見えない。


「にゃはは、ここだよ魔王様」

「―――うしっ!?……ろ?」

 絶対部屋の角にいると思ったのに、真後ろから声が聞こえ反射的に振り返るが、やはりその姿は見えなかった。

 仕方ない、なんかおちょくられてる気がしたので。


「『蛇眼(じゃのめ)』―――見ーつけた」

「ありゃ」


 はっきりと見えた訳じゃないけれど、なんとなく目の前にいるなーと思ったので、そこ目掛けて抱きしめてみた。

 すると、見えないけれど物体は確かにあって、しっかりと私はロアヴェリスさんを捕らえられていた。

 抱き付いてみて分かる。よく見れば、至る所から発光してるライトに反射して、微妙に透明な膜らしき物がある。


「どうして透明なんですか?」

「これはね…………っしょ、あー重かった」

 そう言いながら、黒い布?を脱ぐとその巨体が現れた。

 黒い布と言ったそれは、だんだんと肌色に近い色になっていった。

「この、デザートオクトの皮膚で隠れてたのさ」

「デザートオクト、あー砂漠の巨大ダコでしたっけ。砂と同じ色と聞いたことはあります」

「そんなに美味しくなかったなー」

 ミコトちゃんがちょっとだけ変なこと言ってる。

「いや、実は砂の色じゃないんだ」

「砂の色じゃない?」

「これはほんと最近見つけたんだけどねー、確かにあいつの元の色はこんな感じに砂に近い色をしているけれど、ちょっとだけ電気を加えると……ほれ!」


「「「おー!!」」」


 砂色だったデザートオクトの皮膚は瞬く間にこの床と同じ色の黒色に変身した。


「これは擬態と呼ばれる物らしい。砂の上でならいつも通りの色でいいけれど、岩が地面の時は、変幻自在に色を変えて油断してきた獲物をパクッてこと」

「かっこいい!」


 キラキラと声に装飾を着けて喜んだのはクローバだった。


「そうかいそうかい?にゃははー、私もそう思う。自然界の生き物は知恵を絞り獲物を狙う。弱い生き物も強者を狩れる。実に素晴らしい」

「すばらしい!」

「フフッ、君とは気が合いそうだ。将来、私の部下にならないかい?」

「私の子に変なこと教えないでください」


 クローバはどんな人生を歩んでもいいけれど、どうか幸せに生きて欲しい。

 だから、この人体実験とか元男性とかの人とは、関わるなとは言わないけど……関わらないでほしい。




 気を取り直して。




「ミコトちゃん、ここなら力を出してもいいんだよね?」

「はい。クローバちゃんは、あっちの椅子がある場所に行こうね。そこなら結界があって、攻撃が飛んでこないから。多分」

「たぶん」

「多分!」

 なんでそこを強調する。

「ここの結界は強力、力任せで壊れるような代物ではない。わざわざ結界を突破するようなことでもしない限り割れることは無いだろう」

「じゃあ、ちょっとだけ……魔王の力、試してくるね」


 ここに来た目的はこれだ。

 夢の中で何度もトレーニングはしたけれど、精神で動くのと肉体で動くのじゃ話が違うらしいのでここに来た。

 クローバ達に「行ってきます」と告げ、気持ちを切り替える。


 髪の毛の結び目を触ったり、深呼吸したり、伸びをしたりして。

 目を、閉じる。


「フォンセ」

「『ん。』」

※ロアヴェリスの台詞に「にゃはは」を足しました。

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