魔王として
「―――正気、ですか?」
静まり返る『魔王の部屋』に、レイディオの震えた声が反響した。
余計なことばかり言うレイディオだけど、こういう時に一番早くに声を上げてくれる存在なのは正直ありがたいと思ったキリノジだった。
「正気だよ。『人魔族の人権剥奪を禁ずる』何か質問はある?」
起きてからすぐ行ったのは、権力を持った者達を集めてコレを言うことだった。
久しぶりにクローバと会って出来るだけ長く二人だけで話したかったけど、仕方がなかった。
コレを言うまでは、この独特な部屋や、そもそも自分の意見を言うこと自体が不安でドキドキもしたけれど、この呆けた顔を見たら不安なんて物は存在せず、気持ちよさだけが後頭部に残った。
「どうしてか教えてもらってもよろしいでしょうか?」
キリノジさんが真剣な顔で私を見る。
パーティの時に見せてくれた笑みしか知らなかったからその顔になんとなく驚いた。
それでも、私は堂々とする。
「理由は色々あるよ。勿論きっかけはクローバの存在だけど、一番は『存在する理由があるはず』ってこと?」
「存在する理由?」
「じゃあ逆に質問するね。なんでキリノジさんの血筋は純血なの?」
「なんでって……鬼人族特有の身体能力や体内魔力は、魔人族のどの種族を見ても高水準です。鬼人族としての血筋を色濃く残す為、と父から聞いております」
言ってもらいたいことを全て言ってくれて内心喜ぶ。顔にも出てるかもだけど。
「うん、ありがと。そんな感じに魔人族って種族ごとに特徴があるのはみんな知ってる。
だからこそ思ったんだ。人間族にも何かしらあるんじゃないかなって」
なるべく明るく、それでいて真剣に話す。
ここにいる多くの人は怪訝そうな顔をしていて、けれど少ないながらも満面の笑みを浮かべている人がいて安心した。
「特徴が無い種族、『人間族』何かに特出したわけでなく、平均的な強さを見てもどの種族よりも劣る。
じゃあ、なんで互角で争ってるの?」
これは、勇者になる前からずっと思ったこと。
お父さんから種族の話を聞いてから、ずっと。
怪訝そうな顔している人達が顔を鎮める。
それを見て、慌てて訂正する。
「別に責めるわけじゃないよ、純粋な疑問なだけ」
「にゃはは!フォローが下手くそですね!」
嬉々として魔王の私を貶すのはロアヴェリスさん。
ただ、嫌な気はしない。だって彼女はずっと笑みを浮かべていたのだから。
「人権剥奪禁止って具体的に何するのー?」
「『人魔だから殺す』とか『人魔を見つけたから売る』とか。後、これは人魔に限らないけど現在奴隷として売られている子達の生活を保障したりする。要は奴隷も禁止」
夢の中でルーチェが言っていたことを、身振り手振りしながらあたかも私が考えたように語る。
「まぁ、私頭悪いから、この言い方があってるか分からないけどね」と一言添えて、政治は下手くそなこともアピールする。
「にゃふふ、私は賛成」
頬っぺたに飴を頬張らせながら、ロアヴェリスさんは愉快に言った。
「まっ、奴隷禁止でちょっと部下探すのがめんどっちーくなるけど、それくらいだし?いいよいいよー。魔王様の仰せの儘にー」
これで、ひとまず味方が一人。
一人手が挙がれば、もう一人と手が挙がるとルーチェが言っていた。
「私も!!賛成します!!」
見たことない、青い肌でピンク髪の少女が声と右手を挙げた。
「……だれ?」
「お初目お目に掛かります!アイドルで魔王軍幹部をしております!『ミコト』と申します!」
「あー、キリノジさん言ってたっけ?」
あいどる?が分からないけれど、とりあえずあのパーティに来れなかった人と認識した。
「私は沢山の人にステージを見て欲しい!そこには魔人も人魔とか、もっと言えば人もいて欲しい!歌を聴いて欲しいし、ダンスを見て欲しい!」
すてーじは分からないし、あいどるも分からないけど。
人魔所か、人までもいて欲しいと語る彼女に開いた口が塞がらなかった。
こういう人が、魔人族にいる。
そう思っただけで、私は嬉しかった。