アザミ
四歳の誕生日に、家が燃えた。
おかぁさんと散歩から帰る途中、家の方向に黒煙が上がっているのをチラッと見ただけだし、それを見たおかぁさんが酷い顔した後にすぐに一緒に逃げたから本当に燃えたかは分からないけど。
だから、おとぉさんにはそれから会ってない。
おとぉさんが今も生きてるかどうかは分からない。
会ってないから、分からない。
今はなんとなく、分かっているつもりだけど。
これが「さっし」ってやつだってラーケンが言ってた。よくわからない。
そして、教会に追われた。
おかぁさんが『瞬間移動』を使って必死に遠くの方に逃げようとして、でも大量の魔力を使う瞬間移動は一回でも使えばへとへとで。
結局すぐに追いつかれて、それでも朝昼夜ずっと逃げて、寝る暇も無くて。
でも、私は疲れて寝てしまった。
そこからおかぁさんには会ってない。
起きた私は、とある村の外れにいて。
おかぁさん求めて、声が聞こえる方向に行ってみた。
そこには村の形した地獄があった。
家は壊され、そこら中に無残な男の死体が転がっている。
何が地獄かと言うと、この地獄は現在進行形で起こっていることだった。
起きた時から聞こえていた声の正体は、女の人の悲鳴と、子供たちの鳴き声と、荒くれ者達の歪んだ声だった。
そして、私は―――。
次に起きたのが、嗅いだことのないとんでもない異臭と、家の形すらない村だった何かと、男の死体ばかり転がる土の上。
私の服は妙にボロボロで、確か本当は真っ白のお洋服は、さっきまでは土汚れだらけで茶色かったお洋服は、赤黒い模様が出来てて、その部分だけ異常に冷たかった。
手に握ってる剣は、初めて持ったのに妙に手に馴染んでる気がした。
悪い夢だと思って、また寝た。
起きたら、またおとぉさんとおかぁさんと一緒にご飯が食べれると思ったから。
でも、次に起きたのは知らない男の声と雨に濡れた冷たい身体だった。
「よぉ多分人魔のお嬢ちゃん~?このぉ死体の山はお嬢ちゃんが殺ぁったのかなぁ?」
独特の喋り方だった。
おとぉさんとおかぁさん意外に喋ったことは無かったけど、それでも変な喋り方だなと思った。
「寝ぼけてるかぁ放心してるかぁ無視かぁ全部かぁ分からねぇが、お嬢ちゃんが殺ったことは確かだろぉなぁ。その血がべぇっとり付いた剣が証拠だぜぇ」
男の人の言う通り、私の持っている剣には血が付いていて、雨に濡れて地面に血が下たる。
覚えてないけど、そう言われると多分私がやったんだなと思った。
「こ、この有様は一体!」
聞いたことある声だった。夢にまで聞こえてきた声だった。
見たことある姿だった。夢にまで現れた姿だった。
目元だけ隠された白い仮面と、全身を覆う白いローブ。
神を信じ罪を許さぬ杖は、私達から見たら禍々しく見えた。
そいつを見た途端、なんでか目が痛いくらい熱くて。
「……ひぃ、おかぁ……さん、おとぉ、さん……」
「その色と華人族を象徴する髪は、報告に会った人魔族は貴様か!」
「貴様の父と母は既に神の裁きの炎によって裁かれた!!己が生まれた罪を償うが―――」
「―――ああ゛っ、『瞬間移動』!!」
初めてで無意識に発動した魔法。
位置は、そいつの背後。
確信したように背中から刺したピンク色の華が付いた剣は、深々と心臓を貫いた。
「……これは、おとぉさんと、おかぁさんの……」
『かたき』という言葉が分からないクローバは、仕方なく目を瞑った。
言葉が浮かばなかった私は、仕方なく目を瞑った。
揺らいでいた感情は確かな物へと変わり。
蕾は花へと進化する。
「『アザミ』」
それは、ただの少女だった私が覚醒した瞬間だった。
「よぉ起きたか、人魔の嬢ちゃん。『花』って呼んでいいか?」
気が付いたら、いつの間にか私は布団にいた。
それが、ラーケンとの出会い。
そこから、私は『オクトパス』という盗賊団の一味に加わった。
ラーケンは『オクトパス』の一番偉い人だった。
最初は警戒してたけど、何もされないのとご飯をくれたから、信じていいんと思った。
「どうしてラーケンは、わたしをここに?」
「あぁ?どうしてだぁ?」
「だって……わたしは『じんま』で、そんなのバレバレで、売られるって、おかぁさんが……」
「あれぇ言ってなかったかぁ?」
「え?」
「あの時ぃ、村を襲ってたフレスト……分からんかぁ。男達を殺してだろぉ?」
「……たぶん?」
「記憶はねぇみてぇだな。少し前ぇ俺達はあいつらに喧嘩を売られたんだがぁ、花が代わりに殺しちったんだぁ。だからぁ、花は俺達の一員だぁ」
「?」
「いつかぁ分かるさ」
そう言ってたけど、今でもよく分からない。
酷いことする人達だし、うるさい人達だけど、私には酷いことしてこないからいいかと思った。
なんだかんだ優しい人だと思った。
それからは、剣の使い方を教えてくれた。
瞬間移動の種類を教えてくれた。
ご飯をくれた。話し相手をくれた。お洋服をくれた。
そして。
ラーケンは死んだ。
悲しくはなかった。
おかぁさんとおとぉさんじゃなかったから。
へんなの。おかぁさんとおとぉさんが死んだなんて分からないのに。
アンはラーケンを殺した。
私は泣かなかったし、私は別にラーケンに殺せと命令されてなかったから殺さなかった。
けど、この後どうしよっかとか、アンには酷いことしたと思ってはいるから、ならいっそ殺された方が考えなくてもいいかなとか思っていたけど、アンも人魔らしくて、なんか流れでついてきてくれることになった。
こういうのを、ラッキーとラーケンは言ってた気がする。
アンは、新しい名前をくれた。
私と一緒の人魔で、人魔である私を庇ってくれたアン。
おかぁさんとおとぉさんと、ラーケンを失った私に名前をくれた人。
アンは、凄い。
人魔なのに、魔王。
それと、猫のフォンセが教えてくれたけど、勇者らしい。
凄い。
けど、アンはあれから起きなくなった。
『コンコンッ』と軽快にドアを叩く音が聴こえドアの方に目を向ける。
「……こんにちは」
部屋に入って来た人はルカという人。
出来る事なら何でもできるらしく、よくご飯を食べさせてもらってる。
「……こんにちは」
「フフッ……」
アンと同じ、お姉ちゃんって感じがする。
アンよりも小さいけど。
「いま起きた?」
「ん。アンは、きょうもおきない。」
「そうですか……ご飯、なに食べる?」
「おいしいもの」
「うん、分かった。……あれ?そういえば、フォンセさんは?」
言われて気付く。
アンが眠っていた時も、傍で話してくれた。
「……いない」
「どうしたんだろう。まさか、アン様に何かあったり―――」
「―――んっ」
「「!?」」
「ふあぁああぁ……」
「おはよう、クローバ」