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光の精霊ルーチェ。闇の精霊フォンセ。

「なぁ、ヒビキ」

「……」


 ゆっくりと動く馬車の上で、端の方で蹲るヒビキに話しかける。

 せめて手綱くらい握っててほしい所だが、優秀な馬なら道沿いに歩く程度なら出来る。

 だから、そのことに関しては何も言わなかった。


「吾輩、アンの所に行ってくる」

「……」

「どうしてかは分からないが、魔王の力が弱まってる。多分、吾輩を呼んでる。まぁ、罠かもしれないがな」

「……」

「だから、一旦お別れだ」

 ヒビキは、動きもしなければ喋りもしない。

 馬車が揺れると同時に身体が揺れる。

 ただの人形のように。


「吾輩は、さよならとは言わないからな。いつか、勇者のアンの隣に立つ女は、お前だと信じているからな」

「……」

「…………じゃあな」


 吾輩は、アンの元に向かった。

 同時に、ヒビキの口が動いた気が下。


「――――――」

 馬車の揺れで、何を言ってるか聞こえなかった。




『アンの傍に来た』という感覚が来ると同時に、ここが現実の世界でないことにルーチェは察した。


 真っ白な世界に存在するのは、世界と同化して今にも溶けてしまいそうな白い髪をしたいつも通りのアンと、この世界だといるだけで存在感がありまくりな真っ黒な毛色したフォンセと、なんとなく状況を把握しながらアンの傍に近寄る金色の毛色したルーチェ。


 ここは、アンの心の中。

 もし勇者の力を手にしていたら、この空間は金に染まっていただろう。

 もし魔王の力を手にしていたら、この空間は黒に染まっていただろう。

 そんな、まだ何にも染まっていない純粋無垢な白い空間。


「アン」

「……!ルー、チェ……」


 アンがルーチェの存在に気が付くと、再会に嬉しそうに顔に笑顔を浮かべたが、すぐにどこかバツが悪そうに目を反らした。

 その理由を知ってるルーチェは、何も言い返せなかったし、何も言いたくなかった。


「……初めましてだな、フォンセ」

「……はじめまして、ルーチェ」


 同じ主人の、心の奥深くまで契約をした『敵』。

 そこに何の感情が生まれたか―――嫉妬か、嫌悪か、怒りか―――二匹は分からなかった。



 

「……もしも神様がいるのなら、何をしたかったんだろうね」


 フォンセが俯きながら呟いた。

 魔王は、魔人族は、基本的に神を―――創造神と呼ばれるレインを信じない。

『魔』という存在を『悪』にした神が許せないからだ。


「今回ばかりは、吾輩もそう思う」


 ルーチェは天井を見上げながら呟いた。

 人間族は、聖なる者は、神を―――創造神と呼ばれるレインを侮辱してはならない。疑問に思ってはならない。

 神罰が当たるから。自分達を生み出した全ての母親を侮辱しちゃいけないから。神から力を貰いそれに感謝しなくてはいけないから。

 それが当たり前なのに、光の精霊であり勇者と契約を交わしたルーチェは、平然と神を侮辱した。


 アンは二匹の姿を見て、とりあえず喧嘩にならなかった事に胸を撫で下ろす。

 仲良くはなさそうだけど、醜い言い争いを想像していたアンからしたらまだ仲が良い方だった。



「……ルーチェは、どうしてここに?」

「そんなの簡単だ。魔王状態を解除……というか、薄めたと言った方がいいか?魔王の力を弱くしたんだろ?」

「そうなの?フォンセ」

「うん」

「一応、どうしてか聞いてもいいか?」


 ルーチェがフォンセの真ん前に立って見張るように睨む。

 それが嫌なのかフォンセは浮遊しながら「説明難しいし、私も分かっていなところがあるかもだから、間違ってたりしたらごめんね」と言いながら私の元に逃げて来る。

 アンは長い話になるだろうと予測し、両膝を折り、その両足の間にぺたんとお尻を落とした。


「一応、ルーチェを交えて話したかった、というのもあるけど。一番の理由はアンちゃんの安全の為。魔王に開花したばかりの状況って、普通はすぐに倒れる。魔力が多すぎて、身体が持たないから。

 けど、勇者の前例があって、身体が変に慣れちゃったのか……『魔力オーバー』の方は慣れてたんだけど、『魔王の魔力』は慣れてなくて、しらない間に、身体に悪い物が蓄積してた」

「……?」

 アンは口を開けて首を傾げた。

「アンは全然分かって無さそうだな。要はあれだろ?慣れたって言ってるけど意外と疲れてたみたいな。油断して病気になるみたいな」

「ん。しかも、『聖』と『魔』の真逆の属性だから、余計だめ。多分、いっぱい眠ると思う」

「よく分からないけど……勇者になった時に気絶したやつのがもっと酷いってこと?」

「まぁ、その認識でいい」

「いっぱいってどれくらい?」

「一カ月くらい?」「もっとじゃないか?」


 アンはびっくりして空けてた口を閉じた。


「だいじょうぶ、クローバちゃんの面倒は見れるから」

「え?どうして?」

「ここはアンちゃんの夢の中……心の中でもあるけど。体外と体内に精神を分けることが出来るから」

「何言ってるか分からない」

「これ吾輩も良くやってたぞ。というか、吾輩達見えてる時、基本的にはそうだぞ」

「?」


 アンはこれっぽっちも分かってなかった。




「さてと、そろそろこれからのことを話すぞ」

「ん」

「これから……」


 アンは顔に出るタイプだ。このことを話されたくなかったかのように、顔を暗くする。


「安心しろ。吾輩はしてしまったものは仕方がないと思ってる。だから、それに怒るつもりもは無い」

「ルーチェ……」

「お前が勇者を捨てて魔王になったとしても、吾輩は責めない」


 そうは言っても、嫌な話なのは確かだ。

 どちらかを取らなければ、どちらかを捨てなければ。


「私は……まだ、二人といたい」

「「……」」

「勇者か魔王なんて、ルーチェかフォンセかなんて、選べない、選びたくない」

「アン……」「アンちゃん……」

「もっと、二人と一緒に旅とかしたい……!」


「じゃあ」

「そうしよっか」


「え?」


 勇気を出して強い思いを吐いたあとに言われた軽い声に素っ頓狂な声をするアン。


「別に、誰も『勇者か魔王か選べ』なんて言ってねーよ」

「前代未聞の勇者と魔王を持つ生物……むしろ、捨てる方が損」

「それに、吾輩とフォンセは、お互い対極に位置する存在だから、仲は悪いかもしれねーけど」

「私達二人共、アンちゃんの事が大好きだから」

「「もっと一緒にいたい」」


「二人共……!」


 それは、光の精霊と闇の精霊の……いや、アンとの契約者心からの言葉だった。


「……うん、うん!じゃあ、これからも一緒だね!ルーチェ!フォンセ!」

「あぁ、これからもよろしく頼む」

「よろしくね」




「で、勇者と魔王両方保持したままなのはいいとして……これから本当にどうするんだ?」


 冷静な声で、これからの未来を定めようとするルーチェ。


「……どうする?」

「お前って本当に先のこと考えねぇよな」

「今をしっかり生きるって思えば、よし」

「『よし』じゃゃねーよ!フォンセはアンに甘々だし、しっかりしてるのは俺だけか?」

「「うん」」

「『うん』じゃねーよ!!」


 白い空間に怒号が響く。

 意外と響いたから狭い空間なのかもしれない。


「……勇者になった時は、二人しかバレなかった。だから大っぴらにされることは無かった。だが、魔王になったことは周りにバレバレなんだろ?」

「ん。顔も名前も魔力も覚えられた」

「フルコースじゃねーか。まぁ……勇者隠して魔王として生きるのが無難か?」

「一番簡単。でも、アンちゃんはこの力で何かしたいことは無いの?」

「この力で?」

「それが、今後『生きる上で』一番大事」


 この力でしたい事と言われて考える。

 別に、勇者になった時も何かしたいかと言われれば特に何もなかった。

 魔王討伐も、とりあえずの成り行きだったし。

 魔王になっても、それは―――。




「あっ」




 頭に思い浮かぶ、緑色の髪の毛。

『それ』と呼ばれたあの子と、産まれながらの私の境遇。




「人魔を救いたい」

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