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人間

「ただいまより、人間族が魔王軍の脅威に備えるべく、対魔対策会議を始めたいと思います」



 人間大陸の真ん中にある国、王都ドミノにあるギルド三階。

 だだっ広い部屋に黒く丸い机と椅子三十個ほど。

 そこには【赤】の上位に達している者や、ドミノ王国騎士団長やチャトランガ帝国騎士団長などといった各国の騎士団長とそれらの部下、また、王都ドミノの王様である『トレイン』王、レイン教会教皇様の『ダリア』様、チャトランガ帝国の帝王『ダルク』様やアバロン王国の『ジャンプ』様などなど……各国の王様方達。


 そして、【黒】と呼ばれる人間……いや、化け物六人。


 現在十歳、齢七歳の頃に【黒】になった『最魔女のネネ』

 ブーメランを武器にし万能の戦闘スタイルを持つ『翠翼のヒナ』

 世界一の神聖魔法を操り教会の顔でもある『神域のオラクル』

 ペガサスを乗りこなし上空での戦闘が得意な双子の兄『斧翼のアラン』双子の弟『槍翼のイレン』

 人間界最強の戦士と名高い現ギルド総長『大木のレギオン』


 他四人も収拾されているはずだが、場所の関係で今は来れないのか、何らかの原因で来れないか、何らかの気まぐれで来ていないか。


 それにしても、ここまで【黒】が一遍に集まるのは見たことがない。

 教会の重役であるオラクルとアランとイレンはよく会うのだろうが、それくらいだろう。


【黒】の六人と各国の王と騎士長、並々足らぬ人間達が集まり、異常な雰囲気に包まれたこの空間に一般人が紛れ込んでしまえばいるだけで胃が痛くなってしまうだろう。


 最も、この重役達をまとめあげる司会に選ばれた『ムテモラ』の胃は既にボロボロだ。

 喉に硬い唾が通るのを感じた。


「勇者様は既に開花したのでしょう?」

「はい、オラクル様。五日前の異常で魔力上昇は、勇者様で間違いないでしょう」

「五日前……ね。 勇者様が私達に姿を明かさないのは初めての事ですよね? 教皇? トレイン王?」

「そうじゃの。 過去の勇者のどれもが人間族の安寧の為に魔王を討つべく、レイン中央教会で管理している聖剣を受けとる。 それが、二代目勇者から行っていた伝統じゃの」

「伝統と言うか、強い武器防具受け取りに行くのは普通でしょ」


 カジノで有名な国、トランプ共和国の『ダイス様』が伝統に対して正論を吐く。


「何を言う! あれはレイン様から勇者に渡る神聖な……」

「それはそうですけど、勇者の気持ちも考えてみてくださいよ。 魔王を討てる確率が高くなるのに、それを見捨ててまで何を取ったのか、私はそれが気になる。 神様考えるのも当たり前ですけど、もう少し教皇様はもう少し人情も考えてくださいよ」

「なんだと!?」

「あーもうそんなカッカッしないでください教皇。 すみませんねーダイス様とムテモラ君」

「い、いえ……」

 オラクルが二人の会話に割って入り、ダリア教皇の怒りを鎮める。


「勇者様は神の子です、何かお考えがあるのかもしれないですし、例え道に外れようと精霊様が修正してくださるはずです。 今は、我々の事を考えましょう。 ね?」


 それは道を外した人を戻すように、上手く話しの流れを戻してくれた。

 流石、普段から人の悩みを解決してるだけある。 円滑に、皆が求めるゴールに導いてくれる。



「……そうだな。 現状勇者が行方不明で、今後は魔物が活発に動く事が予想されるだろうし、魔王軍の侵攻も勢いがつくだろう。


 それはそうと」


 誰もが分かる重要案件を言った後に「それはそうと」と話を逸らすギルド長。

 また胃がキリキリとしてきたムテモラとオラクルだが、次の言葉に衝撃を受けた。



「なあ、ネネ。 昨日ギルドで何か面白いことやっていたようだな。あれ、勇者だろ?」



 室内に複数の驚きの声が上がる。

 どういうことだ、何を言ってる、などの雑音が部屋全体に広がった。


「面白いことはしたけれど、勇者じゃないと思うわ」

「どうだか……昨日もあっただろ。 経った一瞬、勇者の魔力が」

「確かにあった気がするわ……昨日のいつか、昨日かどうかすら覚えてないけれど、あった事だけは覚えているわ」

「午後だったかな? 王都方面で一瞬だけ魔力上昇を感じたよ」

 ヒナまで会話に加わり、その情報は確証付けられた。

 どうやら【黒】の方々が眉一つ動いていないのを見ると、化け物達は全員知っていたようだ。


「そ、それじゃあ勇者様はまだこの近くにいるかもしれないと言うことですね!!」

「その可能性は高いかもしれないが、そこの丸眼鏡が言ってた通り勇者に考えがあるんだろ。わざわざ追ったり捜索する必要はないからな」


「ただ」と言いながら机に肘を付き、意味もなく干し肉をしゃぶりながらネネを再び指差した。


「稀代の魔女様なら、勇者だと分かると思ったんだがなぁ」

「勝手に期待して勝手に失望して勝手に気持ち悪い顔しているのは別にいいけれど、面白いことを勇者だと決めつけるのは、彼女に対して失礼じゃないかしら?」

「『彼女』ねぇ……俺は別に、あの女が勇者とは言ってないが?」

「勝負に勝ったのは女の子の方だし、男の方は品性が無かった。 選ぶなら彼女が勇者だと思っただけよ」

「ふん、どっちが決めつけてるんだか」


 二人はバチバチに睨み合い、お互い譲り合う気はないようだ。

 レギオンはネネが何か知っていることに気付いているようだが、ネネはアンが勇者だと明かす気はサラサラなかった。

 もっと言えば、その先も。


「にゃー」


 机の上で寝そべるラックが、この場に一番合わない鳴き声をしてくれた。


「この話は後にしましょうか」

「そうだな」


 一時停戦。

 ネネは呆れたように溜息を吐き、オラクルとムテモラはまた話の道筋が元に戻ったことに安堵の息を吐いた。


 会議は始まったばかり。

 化け物達は既に飽き、時間だけが過ぎてくこの空間が、ただただムカついた。





 会議は明日に持ち込れ、私は家に帰った。

 帝王様や、アバロンの……名前なんだっけ、王様などのお国のトップ様は寝泊まりは出来ないそうで、私がわざわざ転移魔法使わされて返してあげた。

【黒】である私をよく雑用に使おうとしたわね。次は問答無用で断ろう。 ついでに魔力石でもせびろう。


 特定の場所と特定の場所だけを繋ぐ、そこに入るだけで転移する転移魔法とかあればいいけれど、現状研究段階だし、国と国を繋いでしまえば悪いことしか浮かばない。


「作るとしても、従来の『転移系魔法』とは違う、零から作らなきゃいけなさそうね」


 現状、『瞬間移動』と『転移魔法』と『テレポート』が転移系魔法と分けられている。

 名前事に作者が違い、魔法の詠唱方法や必要な魔力だったりが違ったりするが……。


「だめ、めんどくさい。 あとあと」


 そう言いながらベッドに転がると、床で新鮮な獲れ立ての魚を貪っていたラックが私の背中に乗っかってくる。

 可愛らしい生物め。

 最近越してきたこの水の中がそんなに居心地がいいのか。

 分かるよーその気持ち。


 水の都アバロンの水深がそこそこ深い場所に作ったこの結界住宅は誰にも邪魔されず騒がしくない最高の研究場所で安寧の場所。

 辺り一面水に覆われて上下右左どこ見渡しても水。起きた瞬間に泳いでくる魚がいたら気分爽快その日一日の気分が良くなる。 そのまま捕まえてラックのエサにするも良し。 私が食べるも良し。


「私を足蹴にして許すしてあげるのは貴方だけよ。気分がいいから存分にそこにいなさい」

「ニャー」


 機嫌良さそうに鳴くラックに思わず笑みが零れる。

 さてと、そろそろやることをしなくては。



「ヒビキ、聴こえるかしら?」

「『―――ネネさんですか』」

「あら、驚かないのね」

「『どうせ念話機能や通話機能くらい付けてるのかなと思ってましたよ』」

「あら、つまらない。 貴方が驚く声が聴きたかったのに」

「『あらつまらないが聞けて良かったです。 で、なんですか?私が会議サボったことに対してなんか文句でもあるんですか』」

「文句は全くないわ。 ―――貴方はこれからどうするのかなと思って」

「『…………別に、私はアンちゃんに付いて行くだけですよ』」

「違うわ、魔人大陸に行くの?って聞いてるの」 


 息を飲む音。

 念話機能?通話機能?甘いわ。


「『―――このくれた装備、どれほど絡繰りがあるんです?』」

「ひ・み・つ・よ」

「『……捨てていいですか』」

「駄目よ。 私が丹精込めた防具を無駄にするの?」

「『……』」

 優しいあの子は思わず黙る。

「まぁなんでもいいけれど……そろそろ独り立ちする頃よ」

「『な、何言って』」

「それじゃあね」


 プツンと魔力の流れを断つと、音声が途切れまた無音の空間が広がった。

 夜の海は暗い。

 深淵に佇む小さな明かりは、まるで絶望の中の光の様だった。

※『フォルセティ教会』→『レイン教会』に変更しました。

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