ギルド
山道を見つけるまで二時間。
特に魔物が来るわけでもなく、通りかかる馬車に内心乗せてもらいたいと思いながら歩くこと三時間。
やっと着いた。
『バンザ』
街に着くや否や、ギルドに向かって歩き出した。
実はこの街には四回ほど来ており、二回目と三回目の時にギルドの場所は確認したので迷子になる心配はない。
それに、この目立った赤いレンガは迷子になる人は存在しないと思う。
ギルドの中に入ると、外のスッキリとした空気とは違い、酒と汗と魔力に帯びた空気が入ってきた。
あちらこちらから視線刺さり思わずたじろぐ。
一瞬人魔である事がバレたかと思ったが、よくよく思い出せば私は子供で女子なのだ。
実力主義のギルドに、私のような子供はいても困るのだろう。
あまり歓迎されていない雰囲気に立ち止まるが、ここで戻ると負けた気がしたので、勇気を出して前に進んだ。
「あ……あの、すみません、登録……したいです。お願い、できますか」
人生で初めて、親以外との会話。
沢山練習したのに、思うように声は出なかったし緊張で声が震えている。
「ギルド登録ですね、了解しました。少々お待ちください」
それでも不自然に思わず、ギルドのお兄さんは対応してくれた。
受付お兄さんが奥に行き、資料を数枚持ってきた。
登録と同時に説明をしてくれるそう、結構ありがたい。
ギルドというのは冒険者に仕事を与え、その仕事に応じ報酬をあげる組織の事。
一番来る仕事の依頼は魔物の討伐らしいけど、建物の建設や薬草採取、お店を手伝ってほしいなどのお手伝いもあるらしい。
正直、魔物関係の依頼しかないかと思ってた。
ちなみに、これらの依頼に難易度と言うものがあるらしい。
それが《鼠》《犬》《熊》《蛇》《龍》の五段階だ。
《鼠》が簡単で《龍》に行くほど危険らしい。
まぁ《龍》などの依頼は滅多に出ないのでそこまで身を構える必要はない、一番多いのは《犬》と《熊》らしい。
「それじゃあ、ここに名前を書いてくだされば……はい、これで完了です。それではアンさん、このギルドカードを受け取ってください」
受付お兄さんが白いカードを渡してくれた。
渡されたカードには【ギルドランク白、依頼受注回数、依頼成功】とかなんか色々書いてあった。
「それは貴方のギルドカードです、上の方に書いてあるギルドランクというのは貴方の成長過程、下から【白】【黄】【青】【赤】【黒】の順番で組まれております。依頼の受注回数が多かったり、高難易度の依頼をクリアしたりするとランクが上がっていきます。今はまだ【白】ですが【黒】目指して頑張ってくださいね」
「……はい、頑張ります」
別に、そういうのはどうでもいいって思っているので少し返答に困った。
そうだ、ついでに聞いておこう。
「ついでなのですが、この街に宿はありますか?こことは少し遠い所から来たので少し疲れて……」
「どのギルドにも宿泊施設はありますが、うちはかなり古くて脆く、あまり防音も出来ておらずも不評なんですよね。街に【レブルの宿】という宿屋があります、お疲れでしたらそちらの宿に泊まった方がいいかもしれません」
「ありがとうございます」
こういうのは、ギルドに宿泊施設あるからそこに泊まりなって言った方が儲かると思うのに、この人が優しいのか親切に宿を教えてくれた。
やっぱり、優しい人っているんだ。
宿について部屋に入り、やっと一休み。
いままでは人と魔の血が通った私は決して受け入れられないと思っていたが、そんなことはないらしい。
何回か来たことのあるこの街も、一人で来ると新しい発見があったりで気分が上がる。
これが全く知らない街ならどれだけ発見があるんだろう。
「一人旅、やってよかったぁ」
なんとなく、今日寝る予定のベッドに沈む。
おうちの物よりちょっとふかふか。幸せだ。
軽い服に着替えて、凝った体を感じながら肩を回す。
体を拭くのは……まだ時間はあるし、いっか。
ギルドに登録したのは、私が人間としてお金を稼ぐなら、これが一番だと思ったから。
一番というか、元々森で狩りをしていたんだし、それを活かせる職業がいいなと思ったらギルドに所属して冒険者が一番楽そうな気がした。
他に活かす職業なら騎士団とかでも良さそうだけど、そんな国の真ん中もど真ん中で人魔なんて入ったら一瞬でバレて死んでしまいそうだ。
あとは分かんない。木こりとか?
「あとはこのまま、魔物狩って、売って……いろんなひとと、はなし…………」
独り言の声量はだんだんと落ちていく。
明日のことも未来のことも考えぬうちに、アンの意識は夢の中へと落ちていった。




