パーティ
目も開けられないほど結界が光りだす。
一瞬だけ地から離れる感覚が訪れ、またピタッと全身に重力を感じる。
この感覚も今日だけで二回目だなとか感じながら目を開けると、そこは室内のようで。
「魔王様の生還されましたぞ!」
「「「おおおお!!!」」」「「「わあああああああ!!!」」」
周りで騒ぐのは、老若男女問わない魔人族。
老若男女とは言ったけれど、一つだけ共通点がある。
見ただけで強いと分かる。
魔王になってやっと勝てて、負ける可能性すらある。
そんな人たちが、十人くらいいる。
クローバが後ろで服を握る力が強まる。
……これは、ちょっと怖いかも。
フォンセ、一応……なんだろ。気を引き締めておいて。
「『わかった!私、頑張る!』」
一度ゆっくり気を吸って、吐きながら状況を再確認した。
私のいる場所は、数段しかない階段の上にある広い場所。この場所にいるのは私とクローバとレイディオだけ。
その下に、十数人程いるヤバい人達と、そこまで強くない人がテーブルを囲んで私を見ている。
「パーティ?」
「はい、魔王様が目覚めたと同時に準備し、軍の幹部と国家の主要人物を呼ばせていただきました」
「……へー」
そこまで詳しい情報は求めていなかった。
「私、なにかした方がいいの?」
「特に何も、いずれ下の者が挨拶に来ると思うので」
「そうなんだ。それじゃあ……クローバ、何か食べたいものある?」
少しだけ、服を掴む手を緩ませてくれた。
「あ、そうだ。レイディオはクローバのこと、全員に伝えといて。魔王を救った救世主の人魔って」
「ハッ、かしこまりました」
挨拶に来るなら私の元にくるはず。
だから、先にクローバの事を言っておかないと。
……あれ。
目の辺りが、じわーっと来た。なんだろう、これ、気持ち悪い。
「……ごはん、なにある」
「あー、何があるんだろう」
「これとかどうです?」
階段を上がりながら、両手に二つずつ、三角形の何かを持ちながら話しかけてくる女の子。
女の子……黒髪ショートカットで、頭部から二本の角が生えてる鬼人族。
頭の私と同じくらいの身長と胸、多分同い年だ。
「今、胸見て安心しませんでした?」
「……ごめん」
「いえ、正直私もしたのでおあいこです」
何話しているんだろ、お互い。
「それなに?」
クローバは女の子目掛けて指を差す。
「これは『ピッタ』という食べ物です。食べますか?」
「うん!たべる!」
元気よく返事すると、女の子は少し屈んで右手にあるピッタを渡す。
絶対頬の模様は見えているはずだけど……良かった。邪険にはしないようだ。
「良かったら、魔王様も」
魔王様、そんな風に呼ばれるとは。
「ありがとうございます……えーと」
「おっと、ご紹介が遅れました」
ピッタを渡してくれた後、タオルで拭いた手を左胸に当てた。
「私の名は『キリノジ』古くから伝わる鬼人族の『巫女』をやっております」
「巫女?」
「はい。巫女と言うのは、古くから伝わる鬼人族の神様、『鬼神』に舞を捧げる人の事です。ざっくり言うと」
「ざっくり」
「しっかりすると長くなるので」
なるほど、鬼人族専用の神様に捧げる舞い。
それはそうとピッタが美味しい。なにこれチーズ伸びる小さなお肉が美味しいパクパク食べれちゃう。
「おいしい」
「ね!美味しい」
「分かります、立ち食いもあれなので、椅子と机持ってきましょうか?」
「お願いします」
「すわりたい」
「了解致しました……それと、体調が優れませんでしたら、すぐ席外してもらっても構わないですので」
あれ、疲れてることばれてる?
「私は魔王になったことありませんが、並みの魔力量から魔王級の魔力量を手に入れたとなると、急な魔力の増減はお身体に悪いですし。食べ物も明日からも食べれますし、休まれてはいかがでしょうか」
「……キリノジさん」
「呼び捨てで構いませんよ魔王様、部下如き、呼び捨てにしてください」
魔王様……か。
「魔王、様……かー」
「どうされました?」
「まだ、自分が魔王である……自覚?がない」
ぶっちゃけ、勇者の時よりは自覚している。つもり。
やっぱり元勇者なのかな。
そもそも『元』なの?『現』なの?
「『一応現だね。今は魔王の力で周りにバレないようにゼロに近い数字に抑えてるけど……やろうと思えば、魔王解除して勇者状態になれるよ』」
ならないよ、ありがと。
「確かに、私が急に魔王になったら困惑すると思います。環境とか、私自身が大きく変わりそうです」
「……そう言う所も、まだ自覚してないけどね。少なくと、私の呼ばれる名前が『アン』から『魔王様』に変わったのは、確かかもしれない」
「え……えとー、嫌、でした?」
「…………嫌、ではないかな。でも……なんだろ」
左手で髪の毛先を触り、真っ白とは対極の真っ黒の髪を見て、憎しみとかそういうのじゃない感情が湧いた。
「なんだろ、これ」
「?」
「もういっこ、ほしい」
クローバはベタベタした両手を無防備に上げて餌を与えられる雛鳥のように次のご飯を求める。
その姿があまりに可笑しく、あまりにも可愛く。
「フフッ、ハハハ」
思わず笑みが零れた。
「あぁすみません、すぐに持たせ来ます。その前に、このタオルをお手て拭きましょうか。自分でできます?」
「……うん、それくらい」
「あう、別に下に見たわけでは無いのですが……おーい、シシマイ。シシマイはいる?」
「こちらに」
キリノジさんが名前を呼ぶと、奥の方でじっとこちらを見ていた真っ黒い服着た男性鬼人が来た。
「すぐに椅子と机を用意。全ての料理を机に乗せなさい」
「ハッ、直ちに」
「え、別にそんなに食べない」
「こういうパーティは色んな料理を楽しむもんですよ。残しても、どうせ誰かが食べますよ。多分」
そうなんだ、私は出された料理は全部食べなさいって言われたから良く分からないし、そもそもパーティも良く分からない。
「お酒は大丈夫でしょうか」
「私は大丈夫だけど……クローバ、お酒飲んだことある?」
「……ある、けど、にがい」
「無理そう」
「それじゃあジュース持ってこさせますね。私はそろそろ降りないと、他の人たちに嫉妬されてしまうので、これで失礼させてもらいます」
あ、そうなんだ。
私としては、歳も近そうでもうちょっと話していたかった感じはするけど……と思ったけど、下を見てみると同じくらいの人がそこそこいた。
「あぁ、それともう一つだけ」
「?」
「魔王様と呼ばれるのが嫌でしたら、私で良ければアン様とお呼びしますが」
「……あれ?私名前言ったっけ」
「あれが言いました。レイディオが」
「あぁ、あれか。けど……そもそも『様』が嫌」
キリノジさんは、いや、キリノジは顔を歪めて嫌を表現した。
「じゃあどうしろって言うんですか」
「……ちゃん?」
「あっは~い、それじゃあ魔王様呼びからアンちゃんに変えますね~って変えれませんよぉ!」
ノリがいい。