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スティーブと

 腰に携えた剣を抜き、私の座っている上辺りに向かって剣を振ってきた。

 流石に異変を感じ、座ってる状態からヒビキさんの邪魔にならないように前転。

 転がると同時、「キンッ」という剣同士が重なる金属音聞こえた。

 何者かと確認すると、そこには想像を超すある人がいた。


「男の人……!」

「よう【青】の白髪女、一日ぶりだな」


 そこには、ギルドで私に絡んできたあの男だった。


「ついでに思い出させてやる、俺の名前は『スティーブ』だ。二度と忘れんな」

「名乗ってる場合ですかね」

「っと、あぶねぇ!」


 ヒビキさんは唾ぜり合う剣をズラし、膠着状態を早々に脱して斬りつける。だが、スティーブもそれに反応してバックステップで攻撃を避ける。


『おい、加勢するぞ』

 ルーチェの心の声に我に返り、驚きの感情を戦闘態勢にスイッチさせた。

 人に向けて弓を向けるのは初めてだけど、どこを狙おう。頭?

『足だ足狙え!生け捕りにして情報聞き出―――』


 弓矢を構えてそんなことをしてる間に。


「焼き払え『フレアサークル』」

「こ……、『緊急信号』!!……ガアアァッ!!」


 一瞬にして、男とヒビキさんの周囲を炎で囲い、男の両肘から下と両膝を切り、行動不能にさせた。

 こう言うしかなかった。分かったのは逃げ場を無くす『フレアサークル』のみで、剣筋とか、全く見えなかった。


 私は、今やっと思った。

 これが【黒】の実力なんだと理解した。


「え、えと……とりあえず、もう……」


 もう安心ですかね。

 そんな安堵は、次の瞬間打ち砕かれた。


「『瞬間移動』『煙幕』」


「え?」


 ヒビキさんの強さに圧倒されてボーっとしている時、突如知らない声と周囲に広がる白煙。

 これは……。


「『フォルテシモ・ウィンド』アンちゃん立って切り替え!煙幕!動かないと死ぬよ!!」

「っ、はい!」


 ヒビキさんの怒号と共に再び切り替える頭。

『蛇眼』を使い下げた弓を構えながら煙幕外の木に乗り跳び状況を確認する。

『蛇眼』である程度煙幕の中も分かる。

 煙の中にいる人は七人、ヒビキさんと四肢が切断されたスティーブ、さっき一瞬聞き取れた『瞬間移動』でここに来ただろう人が五人。

 ヒビキさんの風魔法で煙が飛び、一人の顔が一瞬だけ見えた。

 髭が生え眼鏡している黒髪の男性、しかしそれ以上は見えず、仲間の一人が出し続けている煙の中に再び隠れる。


「爆、アロー」

 私はそこに、矢を撃ちこむ。

 ただの矢ではない、ツクモさんから貰った刺さった瞬間に爆発する矢だ。

 これなら例え当たらなくても、爆風とかでダメージ喰らうはず。

 矢を撃ちこんだらすぐに移動する。場所がバレるから。


「……」


 あれ、爆発しない?

 そういえば、ツクモさんは「実はまだ試作品で何回か不発してしまう恐れがあります」とか言ってた気がするけど、一発目で?不発?嘘でしょ?


 そう悲観している間に、煙の中からヒビキさんが出てきて私がいる場所まで下がってくる。

「怪我は?」

「わ、私は大丈夫です。ヒビキさんは」

「無い。既に四人倒してる」



 なるほど、つまりもう五人中四人が倒してくれたらしい。



 え?五人中四人?二十秒も経ったないですよ?


「ただ、後一人が物凄く強い。警戒してください」

「わかりました、でも、煙の中だと矢が通らず」

「大丈夫、すぐ晴れる」

「え?」


 そう言うと、ヒビキの言うとり本当にすぐ晴れた。

 そっか、魔法による煙幕だったから、倒れたから自然と消える。

 そして、消えた煙幕の中から出てきたのは、転がる四人の男性と、未だピンピンしてそうな男が一人。

 顔を見ると、さっきちょびっとだけ見えた人だった。

 髭は剃っておらず、黒髪でぼさぼさ、清潔感のかけらもない。

 服装は五人……いや、今思えばスティーブという人も全員緑色で統一されている。

 というか、でかい。お父さんよりもはるかにでかい。

 多分、二メートルくらい。


「やるねぇ。そこの仮面の人」

 風邪の時みたいな掠れた声、水に漬かしたら消えてしまいそうなくらい薄い声。

 仲間が倒れているのに顔がニヤけているのは何故なのか、私には分からない。


「【黒級犯罪者集団】『オクトパス』の長だな」


 黒級犯罪者……?


「まぁそれくらい腕が立つと流石に知ってるか。隣の嬢ちゃんは何も知らない顔をしているけどな」

「言ってしまえば、めっちゃ強い犯罪者集団ですよ。盗みや誘拐、人殺しなど数々の悪行をしてきた人達です」

 ……はぁ。

「いまいちピンと来て無さそうだなぁ」

「……アンちゃん、周りを警戒して、絶対に隙を見せないように。私が前に出て、アンちゃんが射る。やることは討伐と一緒ね」


 落ち着いた声、心の底から安心する声。

 襲われてから少しだけ不安だった心が、ゆっくりといつも通りになってくる。


「作戦会議は終わりか?それじゃあ―――」


 男は、左足を前に出して腰を落として姿勢を限りなく低くし、つま先立ちをした。

 多分それが男のスタイルなのだろう。

 姿勢を低くしたせいで狙う的が小さくなったし、小回りを利くようになった。


「アンちゃん、やっちゃって」

「『ライトニング・アロー』」


 ヒビキさんの声と同時に身体を動き出す。

 私は右斜め後ろに跳びながら光属性を付与した矢を飛ばす。

 勇者に覚醒してから体内の魔力の質が上がり強い魔法が撃てるようになったが、一番恩恵を受けたのが光属性がより強く発動出来る事だった。

 別に勇者になる前から使っていたけれど、単純に威力や速度が上がった。


「早いねぇ、矢が」


 右足を狙った矢は反復横跳びの要領で避けられる。 

 それを追う形で、走りながら矢をもう一本、もう一本と打ち続ける。

 ヒビキさんも行動にでる。男が逃げる先、矢と同時に当たるタイミングで剣を振るう。

 矢を避けたり防げば剣が当たり、剣を防げば矢が当たる。

 最高のタイミングで、即興にしては百点満点のコンビネーションが出来た。

 剣と剣は交り合い、今度は真横から胴体を狙った矢は当たると確信した。


「ざぁんねぇんでしたぁ」

「―――叩き、落とされた?」


 当たると確信した矢は、直前で下に勢いよく落ちた。

 バリアとかに阻まれたわけじゃない。本当に、透明な何かに落とされたように感じた。

 何が起きてるか分からない、けど。


「アンちゃんとにかく撃ちまくっちゃって」

 ヒビキさんに言われずとも再び右腕を動かす。

 連射は得意分野だ。


 木の上や地面など、あらゆる所に移動しながら一秒間に二回弓を引き四本の矢を放つ。

 とにかく隙を作る。隙を作って、ヒビキさんが一撃を決める。

 二体一は、お父さんよくやった。

 自信はあるし、負ける気もしない。

 けれど……。


 何度落とされる数十本の矢。

 一つも突き刺さらず足元に落ちる様は、男は表情一つ崩さずに見て視界外から来る矢を全て防がれるのは気分のいい物ではない。


「『ブラックウェーブ』」

「『ウォール』」

「『アイスランス』『サンダーボルト』『ファイアハンマー』」

「『多重結界』『アンチマジック』『バリア』」


 ヒビキさんが怒涛の魔法攻撃を仕掛けるも、全て防御されてしまう。

 というか、聞き慣れない魔法単語が多くて何が起きてるか分からない。

 黒い津波を壁が守って、氷魔法などは自身周りに掛けてる防御魔法で守る。


 そういえば、さっきからこの人達は一度も攻撃して来ていない。

 相手の様子を探るように、機会を伺うように。

 一体、何を考え―――。


「アンちゃ―――」


 ヒビキさんの、聞いたことのない叫ぶ声が私の耳に届いた頃には、「あっ」と悟った。

 弦を弾いたその瞬間、気の抜けた右腕を掴まれ、幼い女性の声が耳元で聴こえた。



「―――『スリープ』」



 それは、人を強制的に眠らせる魔法。

 掴まれた右腕は後ろに引かれ、そのまま倒れながら瞼が重くなるのを感じる。

 走り疲れて出た汗の感触も、血生臭いこの場所も忘れて、眠りに着こうとした。


 瞼に閉じきる前に見た女性は、人間ではなかった。


「『瞬間移動』」

「じゃぁねぇ、仮面の人。次は袋叩きにして殺して……あ・げ・る」

「待て!」

「『瞬間移動』」


 男がそう言うと、目の前にいた汚い男は消えていた。

 周りを見ると、既に死体になった盗賊がそのままだが、四肢を斬ったはずのスティーブも消えて血の後だけが木の下に溜まっていた。



「……慢心」


 何が、アンちゃんは勇者だからきっと大丈夫だ。

 何が久しぶりの戦闘でも大丈夫だ。

 何が【黒】だ。


「久しぶりにちやほやされて嬉しいと思ったんなら、ちゃんと期待には応えてあげないと」


 私は私だ。

【ヒビキ】って女は、ここで終わらない。

シャニマスにハマりすぎて(二月くらいから)全然書けてないです。

これから頑張ります。(N回目)

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