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黒にしては地味な色

 シュン、と矢が顔の横で飛び立つと、矢は一直線に鹿の額を打ち貫く。

 鹿、と言っても魔物の一種で人を襲わない温厚な生物だけど、私達の食事を満たすために死んでほしい。もう死んでるけど。

 草食生物は美味しいから大好きだ。その皮の下にあるやつ全部頂いちゃおう。


「キシァアアアァァァ……」


 反対方向から甲高い魔物の声、けれど段々と弱っていくこの鳴き声。

 きっと、ヒビキさんが何か倒したんだろう。


「ヒビキさーん、ちがう、ヒビキー、『赤鹿(アカジカ)』狩りましたよ……って」

「おー、ナイス。私は『ピアルドラゴン』と木の上で見つけた『紅栗鼠(ベニリス)』」


 ヒビキさんは右手に全長三メートル程あるピアルドラゴンを引きずり、左手で紅栗鼠を握り殺している。

 いや、紅栗鼠はいいとして、ピアルドラゴンってそこそこ強くない?まだ別れてから二分しか経ってないんだけど。


「アンちゃんほんとナイス、旅の赤鹿はご馳走ですよ」

「あ、アハハー。それはどうも。ヒビキも凄いですね、ピアルドラゴン、強くなかった?」

「私からしたら苦労もしないよ」


 なんかサラッと凄いこと言われた。

 今の今まで忘れていたけど、ヒビキさんは【黒】っていう一番凄いランクだったんだ。

【黒】って、どれくらい強いんだろう。


「なぁヒビキ、飯の前でも後でもいいんだが、もう少し狩りをしないか?お前さんの戦闘が見たい」

 ルーチェナイスアシスト!

「なんで……って、そっか。確かに私の戦闘一度も見てないか。別にいいけど……」

 ドスン、と魔物の死体を放置している馬の傍に雑に投げる。

「私って、他の【黒】の方と比べて地味だし分かりづらいんですよ。自分もそう思ってるし、周りもそう思ってる。だから、この辺の魔物じゃあ私の強さは分からないよ」

 そう言いながら紅栗鼠の腸を切り、解体初める。


「私って『魔物博士』って言われるくらい、知識が凄い冒険者らしい」

「魔物博士?」

「はい。例えば……この紅栗鼠だけど……この子、オス同士メス同士で喧嘩するんだよね。餌の奪い合いや恋敵とか、だから普通の栗鼠よりも歯が鋭い」

 既に皮を剥いで紅要素の無くなった(生肉も赤いから紅要素は一応ある)紅栗鼠の開設を淡々とした後に、「『パーミネート・アイス』」と言いそのまま冷凍した。

 これで、例え明日明後日食料に困ってもこの紅栗鼠を食べられる。

「こういうどうでもいい知識とか、戦闘に役立つ知識とかに自信を持ってます」

「そう、ですか」

「地味ですよねー」


 自虐交じりにテンションの高い声を上げるヒビキさん。

 正直、否定はできないけど。


「他の【黒】と呼ばれる方も、良く分からないので。地味かどうか分からないです」

「比較対象が無かったらそりゃあ分からないか」

「ネネさん、と呼ばれてた人は?」

「あの人は……一番分かりやい。規格外」

 次に手際良くピアルドラゴンを解体するヒビキさんを見て、私もやらなきゃと思い赤鹿を水魔法で泥を落とし始める。

 良く家でもやったのでそこまで苦労はしない。

「規格外?」

「規格外。歴代の【黒】の中でも最年少で認められて、それでいて歴代の最強の魔法使い」

 そう言われ、ネネさんの姿を思い返す。

 私よりも小さくて、子供っぽくて生意気で、猫ドラっていう珍しい魔物を従えてる。

 うーん……思えば、見た目だけ感が凄い。

「信じられない、です」

「私達、宙に浮いていたのに?」

「宙? ……ちゅう……あっ!」

 あのミリオンポイズンと戦った、上空からのぞき見していたあの時!

「そっか……今思えば、ちなみにあれはなんですか?」

「『空陸』っていう風魔法を応用した使い方。見てる感じだとそんな感じがする」

「知らない魔法だ」

「後で教えてあげる。そんな積極的に使う魔法じゃないけど、使えるだけで機動力が格段に上がるよ」

 それは嬉しい、私は簡単な魔法くらいしか知らないから。

「そういえばなんですけど、アンちゃんってどこで住んでたんですか?」

「山です。山の、人が来ないであろう場所で暮らしてました。だから、お父さんと狩りに行って、帰ってお母さんのご飯を食べる。そんな生活を十五年間してました」

「ふーん……だから、私とか【黒】に詳しくないんですね。冒険者を知らない人でも、ネネさんくらいは知っていたから」

 そう言われても、『冒険者を知らない人』というのがパッと思い浮かばない。


「話を戻しますけど、ネネさんの戦闘は一切手が付けられない。最上級魔法を連続で使い、敵を一掃する。初めてアレを見た時は心が躍りましたけど、今同じランクにいて、私もいていいのかなって思ってしまうくらい、理不尽的な強さを持つ」

「……」

「だから、凄く尊敬してる人でもあるんですよね。優しいし」

「それは……なんとなく」

 新人の私が絡まれている所に、わざわざ気を使って介入してくれた。ヒビキさんも困っていたし、結果的にあの場を解決してくれたのはネネさんだ。

 今更だけど、凄いことしてくれたんだなぁ。

 なんか、見る目が変わったかも。


「まぁでも、一緒にいれば私の戦い方とかいつでも見れますよ。例えば―――」

「例えば?」


『例えば』のその先、急に言葉が止まりどうしたのかと思い視界を赤鹿だった物からヒビキさんに移した。

 真上を見ている?


「―――今とか!」


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