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敬語

 王都から帝国に行く方法は三つのルートがある。

 一つは半年に一度来る『人間領土一周大型馬車』だ。

 一般市民の拠点を移したい人や観光目的の方を対象にしたサービスで、格安で利用できることもあり冒険者もタイミングさえあれば利用するらしい。


 二つ目は、護衛任務をしながら移動する。

 これが一番美味しい方法で、王都から護衛付かせながら帝国に移動するのは貴族や商人の金持ちたちだ大半だから、報酬も美味しければ、移動に使える馬車もお高い物を貸して貰えたりする。


「もう一つは『自分達の馬でひたすら馬車で向かう』なんですよねぇ」

「んながっかりしながら言うんじゃねーよ」

「だってぇ……今は半年の周期じゃないですし、帝国に行きたがる人もいない。めんどくさい」

 馬の手綱を握るヒビキさんは、愚痴を吐きながら安定した速度を出してくれている。

 馬車の中はほんのちょっとだけ高い装飾が施されており、しかし、所々錆びついていたり、クッションは長年使われているせいかふかふかじゃなかったりしている。

 本棚の中にある一つだけ濡れてボロボロになった本、金具が壊れて蓋がどっかいった救急箱と予備で置いてる一回も使われたことも無い救急箱、何故か白目を剥いてるライオンのぬいぐるみ。

 生活感というかなんというか、そういうのが見えて少しだけ楽しい。


「この馬車、ずっと使ってんのか?」

「二年前からずっと使ってますね。私が【赤】になった記念に仲のいい冒険者がくれました。今日から忙しくなるだろうから、いっぱい移動するだろうからって」

「仲が良いんですね」

「私が子供の頃から冒険の仕方を教えてくれましたからね。多分、自分の子供だと思っているんでしょうね。私も親って思いますけど」

 そう語るヒビキさんの口調は少し楽しそうだった。



「街、寄ってきます?」

「どっちでもいいです」

「じゃあ行かなくていいですね」


「魔物とか意外といないですね」

「人がいない所に住んでますからね。馬鹿な魔物はこういう道とかに現れて狩られて、賢い魔物は奥に潜んで繁殖しますから。ここらへんの魔物は賢い子ばかりですね」

「そうですね」



「お前ら、他人行儀過ぎね?」

「「え?」」

 ボーっと外を眺めていたら、突然ルーチェがそんなことを言い出した。

「これから共に戦うのに、なーんかギクシャクしてないか?」

「そ、それは」

「まぁお互い自分から話すタイプじゃないですし」

「人と話すの苦手だし」

「ぶっちゃけ勇者様相手に気軽に話しかけていいかなって気持ちがまだあるし」

「なんて声掛けていいか分からないし」

「まだ会って二日目ですし」

「お互いのこと良く知らないし」

「思考が似てんなぁ、吾輩見てるだけでストレス溜まるぜ」

 そんなこと言われても、ルーチェのストレス溜まらないように会話しろっていうのは酷くない?


「そうですねぇ……じゃあ、アンさん。私の事『ヒビキ』って呼び捨てにしてみてくださいよ」

「え゛っ」

「ひっどい声出たな」


 よび……すて?


「え、えと……ヒビ……キ?」

「はい、なんですか?」

「………………なんでしょう?」

「ぷっ」


 あっ、ヒビキさん今絶対笑ったでしょ。


「じゃあ、そろそろお腹空きませんか?」

 お腹……?お腹すいてることを、敬語じゃなく伝える?

(えっと確かにお腹は空)(いてきたけどそれを伝)(える言葉はいや待って)(返事一言で大丈夫だ)はい」

「返事一つで随分間が開いたな。おい、今度は『はい』じゃなくて『うん』だ」

「え!?」

「私、芋虫と干し肉持ってきているんですが虫いけるタイプですか?それとも干し肉で我慢します?それとも仲を深めるために美味しいお肉でも狩りにでも行きます?」

 え?えっと……今携帯食食べるのは後が怖いし、でも……うぇ?

「うん?」

「思考停止してんじゃねーよ」

「だ、だってぇ!」

「ちょっと楽しくなってきた」

「お前、吾輩には遠慮なく敬語使わないじゃねーか。その感覚でいいんだよ」

「だって! ルーチェはルーチェじゃん! ヒビキさんはヒビキさんじゃん!」

「どっちも言葉が話せる生物じゃねーか」

「ルーチェは猫でヒビキさんは人! ペット!」

「吾輩は畜生じゃねーよ!! 勇者に仕える光の精霊様だ!! 吾輩にも敬語使えよお前!!」

「でも、見た目は猫じゃん。それに、仕えるってことは私よりも下」

「下だから敬語使わねーならヒビキもそうだろーが!!」

 確かにそうかもしれないけど、冒険者としての経験は上だし、勇者の力を使わない私とヒビキさんの実力なら多分ヒビキさんの方が上だ。

 それに、年上。

「そうそう、遠慮なく呼び捨ててくださいよ」

 けど、肝心のヒビキさんがノリノリだ。

 こうなったら。


「おいヒビキ」

「急に怖くなった。はい、なんですか」

「やぁヒビキ」

「今度はフランクになった」

「やいヒビキ!」

「……いじめっ子?」


「これは何をしてるんだ」


 私にも分からない。


「じゃあ、ヒビキが敬語止めてみたらどうなんだ」

「あぁうん。別にいいですよ、別にいいよ」

 なんか一瞬怪しくなかった?

「アン、なんか話振ってよ」

 うぇいいきなり!?

「えっと……好きな食べ物はなんですか」

「私は美味しければいいかな。あーでも、北諸国にあった『ラーメン』って料理と『肉まん』って料理が美味しかったな」

 おぉ、なんか印象が少し変わる。

「吾輩からもいいか? 尊敬してる人とかっているのか?」

「やっぱり他の【黒】の方々だね。特に、『ヒナ』さんが凄く尊敬してて!」

「ヒナさん?」


「『翠翼のヒナ』って呼ばれてて、得意武器はなんと『ブーメラン』っていうマイナー中のマイナー武器でっていうかヒナさんしか使えてる人見たこと無くてそれでいて最強! しかもかっこいいし可愛いし、何より顔が良くて、それでいて強いってずるくないですか?私はずるいと思う」


「へー」

「ブーメランが使えて強いって所しか分からなったな」

「……ごめん、普通に素が出た」

「い、いえ、別にいいと思います」


 よく分からなかったけど。


「んー、なんか……アン?」

「なんですか?」

「アンちゃん」

「なんですか!?」

「これだ」

 何がだ!

「アンちゃんって呼んでもいい?」

「べ、別にいいですが」

「じゃあアンちゃんって呼ぶ」

 ちゃん付けなんて、初めてされた。

 いや、初めてじゃないか。チャインさんにされてたけど。

 なんか……新鮮だ。


 それから二人、不器用に話していた。

 私はこの後も二人から敬語を強要され続けていた。

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