存在
「『瞬間移動』って魔法を、覚えたい」
あまりの地形の悪さに思ったことがそのまま口として出た。
瞬間移動って魔法は、思っている所に一瞬で飛ぶらしい。
一秒後に目的地に着けると思うと今からでも覚えたくなる。
まぁ、難易度の高い魔法だから覚えるのに苦労するんだけど。
フカフカした土や落ち葉に隠れた木の根、非常に歩きづらい斜面に思わず転びそうになる。
こんな場所だから、無いものねだりも仕方ない。
どうしてこんな道の無い場所を歩いているのか。
それは私の家が原因だ。
街から街に行きたいのなら、整備された山道を歩けばいいのだが、そうもいかない。
私の家は、人が来ない山奥に住んでいる。
理由は簡単。私が禁忌の種族、人間族と魔人族のハーフ『人魔族』だから。
もしも私達が住んでることが教会にバレれば、すぐさま教会に報告されて焼き殺されてしまうだろう。
なので、絶対に人が来ない場所に小さな山小屋を建て、そこで細々と暮らしていた。
だから今こうやって道の無い山を手探りで歩いているのは家の立地が最悪に悪いせい。
「……なんて思ってたら、見つけた」
見つけたのは、人が普段から利用している山道。
樹木は伐採され何年も踏まれた地面は硬く歩きやすい。
太陽の位置を見て方角を確認、多分こっちであってると曖昧なことを思いながら南に向かってまた歩こうと思った、その時。
「―――気配?」
「ガウッ!ガウガウ!」
歩こうとした時、私が来た所とは逆の樹木の中から『ハンドッグ』という犬型の魔物が出てきた。
私は子供の頃からずっと使っている弓を持ち、逃げるようにバックステップでもう一度の樹木の中に入った。
「ガウッ!」
生まれた時から飢えに飢えたあの犬は、標的を見つけると本能で追いかけ足から齧り付き肉だけでなく骨まで食べる。どうでもいいけど骨を食べたその次の日に骨だけ吐く。
だから、ハンドッグと戦う時の基本は、こういう木の上みたいな高い所に逃げてから―――。
「―――射つ」
脳天を貫く矢、気合入れて強く射ったので矢先が脳天から顎を貫通して地面に突き刺さる。
それでも流石は魔物、残り少ない力を使い、四肢を使って無理やり矢を引っこ抜こうとする。
なので、次は真ん中の背中から狙って一発、尻尾の付け根当たりを狙って一発。
生き標本となったハンドッグ、まだ意識はあるのか四肢がピクピクと動いている。これから楽にしてあげるね。
「『ファイア』」
ハンドッグの真下に火を敷き、そのままこんがり焼いてしまう。
太陽の位置は真上、ちょうどお昼時だ。
「歩き疲れたし、お昼ご飯も見つけたし、休憩にしよっか」
パンもあるし、お家から採りたてで盗りたてのレタスもある。
「ちょっと豪華だけど、サンドイッチにでもしようかな」
人間族は……いや、教会は『魔族は全て滅する』という教義を掲げている。
魔族というのは、猫人族とか蛇人族とかの魔人族とか、さっき倒したハンドッグなどの知性の無い魔物、ついでに私みたいな人魔とかをまとめてそう呼んでる。
『神の望んでいない魔の血は滅ぼすべき』
なら、この世界を創った神様はどうして魔族を創ったのか疑問でしかないけど。
とりあえず、そういう理由で人魔は存在を許されていない。
なら、魔人族達が住む場所で暮らせばいいと、小さい頃の私は言ったけれど、意外とそういうわけにもいかないらしい。
魔人族は色んな種族がいる。
お父さんであれば『蛇人族』とか、お父さんの先祖が『猫人族』だったり、髪の毛にお花が着いてる『華人族』とか、角が生えてる『鬼人族』。
何個あるか忘れたけど、沢山いるって事だけ覚えてる。
その沢山いる種族同士で、いろんな種族が交配してきた。
例えば『猫人族と狐人族』や『犬人族と楽人族』など。
そうなるとどうなるか。
俊敏な足で近づき鋭い爪を持る猫人族と魔法が得意な狐人族のハーフ、運が良ければその種族のいい所を全て備えた子が産める。
別に、魔人族が遺伝に全てを頼っている訳じゃないらしい。同種族恋愛、別種族恋愛どちらも受け入れられている。
ただ、人間は別だ。
ハッキリ言って、人間族を魔人族風に言うのなら何の特徴も無い種族なのだ。
そんな人間が、例えば猫人族と子を産むとしよう。
遺伝は、部分部分のパーツを母と父から一つずつ貰う。
毛色や耳や尻尾は猫人族、だが、手は人間族の遺伝を貰ってしまった。つまり、鋭利な爪は使えない。
このように、強い遺伝を持った子が産めない可能性があるのだ。
さらにその人魔族が魔人族と交配しても強い遺伝が貰えない可能性があるのだ。
そう言った理由で、魔人族は数百年前から人間族との交配を禁止にした。
色で言ったら、人間は『白色』。
濃い色が欲しい魔人族に、灰色なんていらないし、あったら邪魔なのだ。
故に、殺す。
その遺伝がうちの家計の血に混じったらと、孫達を不安がる。
だから、殺すらしい。
でもこれ、私はそう思わないんだよね。
一番は、人間が何の特徴も無い種族だということ。
人間と魔人の戦争も、最終的には勇者と魔王の戦いで決着がつくけれど、勇者と魔王が生まれるまでの間は冒険者や兵などが戦い、ほぼ互角の戦いをしている。
そんな種族に、何の特徴も無いとは私は思えなかった。
「ご馳走様でした」
食べやすい木の上で手を合わせ、残った骨は数本だけ貰って後は埋めて、残ったお肉は興味を示してくれた紅栗鼠に上げた。
暗くて重くてちょっと難しい話はここまで。
ぶっちゃけ人魔であることバレなければ殺されない訳で、そんなことよりもさっさと歩きださないと街に着くころには日が暮れてしまう。
一度伸びをして、お口の中を水で濯いで。
「さてと、行きますか」
少女は今度こそ南に向かって歩き始めた。
「……何度も言われたんだよね。どうして人間族が住む場所に行くのって、殺されちゃうよって」
誰がいるわけでもなく、喋りだした。
意外と私は、独り言が上手らしい。
お母さんとお父さんは、私が旅に出ることをずっと否定していた。
当たり前だ。教会にでも存在がバレれば、この命はない。
「たださ、お母さんが魔人のお父さんと結婚したってことは……きっとそういうことなんだろうね」
意味があって言葉を濁したわけじゃない。
単純になんて言えばいいかわからなかったから。
「人間は、人は、どういう人なんだろう」
アンの足は軽い。