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不安な会話

「お、おい! そんなわけないだろ! こんな……こんなやつに負けるなんてありえない!」


 外野の歓声の中、内野の男の人がそう叫ぶ。


「醜いわね、自分から吹っ掛けた勝負なら大人しく下がっときなさい」

「うるさい! 俺は『白』に下がったんだぞ! 怒鳴る理由に足りる!!」

「めんどくさいわね。 ヒビキ、後は頼んでいいかしら」

「ヤです。怒ってる男の人とかマジで無理なんで勝手にどこかにいかないでください」

 ネネさんがヒビキさんに投げてそれを断るのなんかちょっと面白いかも。

「いいからもっと詳細を教えろ! 納得のいく、な!」

 それに痺れを切らして男の人がまた怒鳴る。

 外野からも、男の人の方に賭けた人達も「そうだそうだ!」「一ポイント差なんて出来過ぎなんだよこの出来レース!」と一緒に怒鳴る。


「うるさいわねぇ、ヒビキが怖がってるでしょう?もっと声のボリュームを落としなさいこの負け犬達」

「ま……まけいぬ!?」

「まぁ、そんな哀れな負け犬に味のない骨を与えてあげるけど、ぶっちゃけてしまえば実力が拮抗してればほぼほぼ運よ。 どっちがより強い魔物の素材を持ってくるか。 それ故に強い魔物に会わなきゃいけない。 今回はそれがこの子に傾いた。 というか、ちゃんと魔法石とかのレアな物探しに洞窟に行った貴方ならそれくらい分かってるでしょう?」

「クッ……」

 確かに、『ミリオンポイズン』を見つけられなければこの勝負は負けていた。

 さらに、洞窟は森と比べて狭い。 魔物を見つける回数も自然と上がるし、レアな鉱石類も多い。 この魔法石や水晶の花がそれを示している。


 あれ? これ普通に負けそうだったのでは?

「『運を極力減らそうとしたあいつは一流の冒険者だ。 運が悪ければマジで負けてた』」


 ……。


 まぁ、勝ったからいいや。


「あぁそれと、一ポイント差は~と言うけど、勝ち負けが決まるならどうでもいいでしょう? まぁこれに関しては、ポイント制じゃなくても良かったけれど」

「じゃ、じゃあなんでポイント制にしてたんだよ」

 震える声で男が言った。

「そんなの、その場の思い付きだからとしか言いようがないじゃない」



 情けないその顔は、しばらく忘れそうにもなかった。




「あの……私これからどうすればいいでしょうか?」

「そうだったわ。 とりあえず、今からここにある素材を売ってからそれ全部渡すから。 その作業は全部ヒビキに任せるとして」

「なんでです!?」

「そうね、後は……周りに任せるわ」


 周り?

 そう思うと、バ!っとギルドにいる人達に囲まれた。


「お前すごいなぁ!まだ新人だっていうのにミリオンポイズン倒しちまうなんて!」

「『赤』に勝てるなんて実質もう『赤』だよ!もう『黒』にあと一歩じゃないか!!」

「酒は飲めるか?お前のお陰で臨時収入を得たからじゃんじゃん飲んでくれ!」

「ちょっと!まだアンちゃんは若いんだから潰さないでよ!ねっ、アンちゃんはフルーツは好き?」

「髪の毛、キレイ」


 ……囲まれた。


「あの、えっと…………私は……………………」

「あれ、固まった」

「ほら! アンちゃんがムサイ男に囲まれて思考停止してるじゃない! 散れ!!」

「えっと……人とあまり喋ったこと無いので……どうすればいいですか」

「散れ!」


 少しだけカオスな時間を過ごした。

 いつの間にか、男の人はギルドから去っていた。

 嫌な人だけど、一応凄い人だから、いつかゆっくり喋りたいけれど……。





「アンさん。 素材の換金が完了いたしましたので、一度確認のため応接室に来てもらってもいいですか?」

「んっ、んー」

「お肉食べ終わってからでもいいので」


 少しだけ大人数にも慣れた頃。

 お酒もお肉もどれも美味しくて、すっかり勝負とか忘れていた頃にヒビキさんがやってきた。

 既に酔いつぶれている人を横目に、まだ潰れてない人と賭けに負けて飲めない人に席を離れると伝える。

 残ったお肉を急いで口の中に放り込み、なんかよく分からないワインで口の中をさっぱりさせた。


「行きましょう」

「……アンさんは酔わないんですね」

「お父さんが強くて、それの遺伝です。 でも意外と度数高くて身体が火照ってしまいました」



 応接室という場所に連れてこられると、そこには高そうなソファに座ってるネネさんがいた。

 ガチャリと、鍵が閉まる音が聞こえた。


 火照った身体が一気に冷めた。


「とりあえず、そこにおかけください。」

「……はい」


 出来れば、出来れば勇者の話はしないでほしいと内心願う。

 緊張をごまかすために置いてあるお茶に口を付ける。


「早速聞くけど、勇者なの?」

「ぶっ!! カハッゲホッ!」


 出来れば勇者の話はしないでほしいって言ったじゃん!

「『誰も言ってねーよ』」


「あらあら、慌てちゃって」

「そうなるのも無理はないんじゃないですか。ゆっくりで大丈夫ですよ」

「うぅ……すみません。」

「で、いつから勇者になったの?」


 落ち着いたかと思えばすぐに問い出してきたよこの人。

 やっぱり、この人苦手かもしれない。 いい人ではあるかもだけど。



 どうすればいいかな、ルーチェ。

「別に、ここまできたらもう素直に吐くしかないんじゃないか?」

「ルーチェ!」

「光の精霊!?」

 ルーチェが姿を見せると、ヒビキさんが飛び上がるように驚く。


「やっぱり……勇者なんですね!」

「ああ、お前さん達が言う通りこいつは勇者だ。 吾輩はこいつの精霊のルーチェという。 よろしくな」

「あ、あああのお初目お目に掛かります私はギルドの係の者をやらせてもらったおりますヒビキと申します今後ともどうか良好な関係を―――アダッ」

「ヒビキ、慌てすぎ」

 杖でヒビキさんの頭を叩いた。

「私も改めて自己紹介するわ。 『黒』のネネよ。 はい、次はあんた」


 視線が私に向けられた。


「えっと……アンです」

「ちゃんと『勇者の』って言えよ。 まだ勇者の自覚がないのか?」

「だっ、だってぇ……勇者のアンです。これでいい?」

「許す」


 クスクスと笑うネネさんと、頭のたんこぶをさすさすするヒビキさん。


「まだ勇者として日は浅いのね」

「それくらい分かってそうだけどな。 あの日漏れた魔力くらい検知してるだろ?」

「えぇ、あれを感じた瞬間に『黒』で緊急招集が起きて一昨日会議が開かれるくらいには騒がれたわ。 もっとも『黒』以外の人間は誰一人気づかなかったけど」


 へー、と思った。


「あの、私からも一つ、いや何個か、いや色々聞いてもいいですか?」

「結局何個だよ」

 既にピンピンしているヒビキさんが恐る恐る手を上げた。

「あの、どうして自分が勇者であることを明かさないのかなと思って」


 目線を、向けないでほしい。

 チラッとルーチェを見たが、自分で言えといってる目線だ。

 仕方ない。


「……はっ、恥ずかしいからじゃ、駄目、ですか?」

「「恥ずかしい?」」

「あの、えっと、あんまり目立ちたくないし、王様とか会ってみたくもないし、なんか……そんな感じです。山暮らしの私が、いきなり人前になって、っというのは……荷が重くて、嫌だ」



 先程、ギルドに帰る途中でこういうことを言おうというのを決めていたので、それをなぞる。

 と言っても、恥ずかしいのは本当のことだから、私が人魔族でもなくてもこういうことを言う気がする。

 まぁ人魔じゃなかったら生まれ育ちは山じゃなくて人間族の街だから、私にも友達みたいなのが出来てたかもしれなくて。

 でも、そこまで環境が変われば、それはもう他人だ。


「フフッ……フフフ」

「ネネさん?」

「まさか恥ずかしいから、という理由で勇者であることを明かさないなんてね! 私には理解できないわ」

「うわー、まぁネネさんは生まれてこの方『恥ずかしい』を知らなさそうですもんね。私も、人前に立つのが嫌だから、アンさんの言ってることは凄く分かります」

「でも国からお金貰えたりいい装備貰えたりするでしょう? それを全部捨てるんだから、面白いわ」


 豪快に笑うネネさんと同乗してくれるヒビキさん。


「あの、さっきも矢文で伝えましたけど、このことは誰にも言わないでほしいです」

「もちろんです。 アンさんが勇者なんて国や他の『黒』には誰にも言わないです!」

「別にいいけど、一応次の会議で『勇者と接触したけど誰にも言うなと言われた』くらいは言いたいわ。 性別とか、シャイな子とか、そこまでならいいでしょ?」

「…………ネネさん、そこは空気読みましょうよ」

「二ヒヒ、まぁそこらへんはもうお前らに任せる。だが全部言ったら吾輩たちはお前らのことを一切信用しない。 それは、分かるよな?」

「もちろんよ。今回の勇者にいち早く話したとだけ自慢するだけだから」

 ……大丈夫かな。

「……不安だ」


 ヒビキさんも同じこと思ってるから、きっと大丈夫じゃないかもしれない。

 意外とヒビキさんとは仲良くなれそうかも。

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