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伝説の幕開け

「あら、ヒビキも来てたのね」

「そういうネネさんだって。こんな見えない所から見るなんて、ストーカーですか?」

「貴方だっていつも同じことしてるじゃない」


 アンから四百メートルほど離れた場所。

 風通る開放的な場所、二人は木の天辺に立ち、魔法による視力強化でアンの戦闘をバッチリ見ていた。


「ウォォアワアアアアアアア!!!!!!」

 矢を放ち、ミリオンポイズンの鱗の間に突き刺さり、喚く。


「あの子、狙って当てたわね」

「ですね。だいたい……百前後?当てるだけでも凄いのに、間狙って当てるなんて」

「その後は距離を少しだけ詰めて連射ねぇ。しかも全矢当ててるわ」

「この腕前なら最低でも《赤》の下くらいありそう。ラビットユニコーン複数体でも納得いく……いや、それは分からないか」

「そうね、あの子に傷があったってことは何回かダメージを喰らった、つまり不利な場面があったってことよ。つまりは……距離的不利を背負ってあれを何十匹って。あと、同伴していた人たちから聞いた『新しい攻め方してきた』も信じれば、ハッキリ言って【黒】レベルでも可笑しくないわよ?」


 少し遠くにいる期待の新人。

 彼女の中にある秘めたる力は如何程か。


「それにしても、『私が独断でポイントを付ける』って、随分と都合がいいですね」

「なんのことかしら」

「『換金してもらった値段』にすれば、公平な判断になるし、なにより面倒くさがりのネネさんが一つ一つポイントを付けるよりもずっと楽ですよ」

「それだとつまらないじゃない。道端に生えてる薬草を掴むだけで勝てるなら、私はそうする」

「なら魔物の部位のみとか」

「それもギルド的に違うんじゃない?」

「……そうですか」


 ヒビキはめんどくさそうに肩を落とす。

 どうせこの人は、アンという少女を勝たせるのだろう。

 ギルド的に、ってなんなんだ。もう少し上手い建前を言ってほしい。

 私も怒鳴られたから、別にいいけど。



「それはそうと、あの男は?」

「あちらは洞窟に行ってます。まぁ、洞窟は普通にいい選択肢ですね。ワンチャンが狙える鉱石類もあれば。強い魔物もそこそこいるのでのでポイントも楽に稼げそう」

「経験の差が出たわね、ある意味ミリオンポイズンに出会えたのは運が良かった」


 あの男は腐っても【赤】だ。

 つい最近昇格したとはいえ、実力はちゃんとある。私が言うのもなんだが「【黒】が特別すぎるから【赤】が最上位」と言われているくらい、【赤】に行くのは難しい。


「意外と分からない展開ね」

「そーですね……でも、例えここで負けたとしても、彼女はあまり気にしないんじゃないですか?」

「どうしてかしら」

「性格がそういう感じ。だって、わざわざ『負けたら【白】ならやります』なんて言わないですよ。自分の実力ならすぐ上がるとか、そもそもランクとか気にしないタイプとか」

「それなら別に、あの時点で引き下がればいいじゃない。別に私は気にしないから【黄】に落としてもらってもいいですよって」

「……たしかに?」

 ヒビキは首を傾げる。

「うーん、でも、あの子イラついたりムカついたりしますかね?あの雰囲気で」

「さぁ? 本人に聞いてみれば?」


 その本人は、迫りくる巨体を引きながら弓矢で牽制し、チャンスを伺う。

 途中放たれる毒ガスも毒針も華麗に躱している。


 ネネは代り映えの無い戦闘に少しだけ飽き、雰囲気だけで立っていた木の上に簡易的な床を作り寝そべる。

 簡易的と言うけれど、この『空陸』という魔法は難易度が高く、普通の冒険者はこの床を一瞬だけ作って空中で蹴ってジャンプしたり移動したり運用するのだが、ネネは永続的に作り空中で床を作ってしまった。

 いい意味でネネはこういうことをする。とヒビキは心の中で思い、自分もその床に乗り移った。


「そろそろですかね」

「……? 何がかしら」

「何って、どこを見ているんですか? ほら、ミリオンポイズンの毒針の数が増えてきて毒ガスも雑に出してる。体力切れそうだから、出せるもの全部出すって感じですね。これを凌げばアンさんの勝ち同然」


 流石、ね。

 歴代最強の魔法使いと呼ばれるネネは素直に感心する。



 魔物博士ヒビキ

 色は最高ランクの【黒】


 冒険者というものに憧れて、小さな頃から戦闘を盗み見していたストーカー。

 ほとんどの【黒】は元から才能があった。いや、観察力の才能があったわけでもあるが、私のような高火力魔法みたいに直接戦闘に影響が出るわけじゃないし、おっさんみたく長い間冒険者を務めた訳でもない。

 単純に、憧れと努力だけで短時間でここまで登り切った天才。

 スランプで今は休んでいると、ギルド職員となり暫く頭を冷やすと言ってはいたが、冒険者と魔物の知識で右に出る者はいない。

 実際に、ネネはミリオンポイズンが疲れたことが知らなかった。

 それは、ネネの魔法が強すぎて大抵の魔族は疲れる前に倒されるから。



「ん……あれ?」


 だが、ヒビキの予想は少しだけ辺り、少しだけ外れていた。



 ヒビキの言う通り、実際にミリオンポイズンの繰り出す攻撃は激しくなり、アンも苦戦を強いられる。

 ちょびちょび一つ二つずつ出していた毒針は、この一瞬に掛けるために持てる毒針、()()()()()()()()()()()()()


「はぁ!?」

「どうしたの」

「あんな行動、初めて見た……というか、あれが出来るならあいつのランク余裕で【蛇】に上がる」

「ふーん……魔法の詠唱だけしておくわ」

「お願いします、私は応急処置を……」

 だが、裏切る。

「それを、避ける!?」

 右に、左に、前に、後ろに、最小限の動きをして避ける。紙一重という言葉が似合うくらいに毒針弾幕を避続ける。


「面白くなってきたわね。まるで貴方やヒナみたいね。わずかな隙間を縫うように避ける」


 だがミリオンポイズンも負けられない。毒針と毒ガスで進行方向を絞り、全長二メートル体重二百キロほどある体格から繰り出される超虫(ちょうちゅう)タックル!


「……あれ、大丈夫かしら」

「いや……どうでしょう」


 先程から魅せてきたアンの戦闘に、少しだけ期待を、もしかしたら大丈夫なんじゃないかという期待を抱いているヒビキ。



 その期待は裏切らなかった。


 およそ二百メートル先から爆発的魔力(・・・・・)、もちろんその位置はアンがいる場所。

 タックルで起こった砂埃から、もう一つ大きな砂埃。


「……マジで?」


 それはミリオンポイズンを思いっきり蹴った時に起こった砂埃。

 その巨体は高く持ち上がり、木の天辺まで高く上がる。


「……ほんとうに、言ってるの?」


 空中に浮かされて動揺しているミリオンポイズン、もちろん空中で動くすべなんて知らない。

 そんな巨体が、無防備で打ちあがっているのだ。


「そんな……伝説」


 ただの的でしかない。


「嘘……でしょ?」


 砂埃が、晴れる。

 白かった髪の毛はいつの間にか金色に。

 爆発的な魔力はあの子からだろう。


「『貫け』」


 声が響いた。


「勇者、様?」


 伝説が語られる瞬間だった。

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