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脅されたことやストーカーなどの狂気生は、体裁を保つためにもオブラートにある程度包んで話した。
「だからこの間リュカがいいんじゃないかって言っていたのか…そっかぁーマデリーちゃんのこと好きなのかー。」
「はい。それも熱烈に。ここ1週間の嫉妬がすごくて、今回も二人きりで会うはずだったはずが結局三人になりましたよ。」
「そっか、そっかそっかー…レギオどうしようか。」
「どうしようって、そうだね。本来なら別にそんなに好きならリュカ君でも変わらないのだが、内にはもう婿入りは要らないからな…。どうしたものか。」
「あの、提案があるのですが。」
二人の貴族に、片方は裁判官片方は父親にじっと真面目な顔で見つめられて生唾を飲み込む。
いつ言おうかと迷っていた事を、今伝えれば全て丸く収まる。
「私は医師になりたいのです。」
「い、医師?」
驚く父に、黙ったままのアンドリウス侯爵。
「私がよくマルグリットのところへ通っていたのはご存知ですね?」
「ああマルグリッドちゃんのとこに行っているとジルから聞いた。」
「なに?婚約しているのにほかのご令嬢のところに入り浸っていたのか!」
「ま、マルグリッドちゃんにはそれはそれは仲のいい婚約者さんがいてね、キースとはそういう関係じゃないよ!なぁキース!」
「ええ、彼女はただの幼馴染です。それに厳密には会っていたのはシュゼット・タナードレイク。彼女の叔父であるシュゼット医師に、数年間医学を教えて欲しい、弟子にしてほしいと頼みに通っていました。それでついに昨日了承を得た。ただ医師になるなら家を継ぐことは出来ない、その覚悟があるのかと言われ私はもちろんと答えました。」
「それじゃあ…。」
「はい父上。リュカも共に学び爵位を継ぐには申し分ない男です。彼を次期子爵とし、マデリー嬢はこちらに嫁いてもらうのがいいかと思います。」
「ロジャー。」
キースを見ていた鋭い眼光が自分に向き思わずひいっと声を上げるところだった。
「君はキース君が医師になり、次期子爵にリュカ君がなるのは何か問題があるか?」
「いや、どちらかが継いでくれれば問題ないし、医師も立派な仕事だ。誇らしいよ。」
その言葉にキースは口が緩見そうになるが必死に堪える。
「リュカ君に婚約者は…」
「いない!」
食い気味に答えるロジャーを、ははっと笑ってしまうアンドリウス侯爵に場が和むのを感じて一気に緊張感がなくなっていく。
それではと立ち上がるアンドリウス侯爵。
「レギオ、それでだな。」
「リュカ君と娘を呼んでくれ。話はそれからだ。」
大急ぎで部屋を出てジルと叫ぶセニガン子爵の様子に、顔を見合わせた彼の息子と二人で笑った。
〜夫人の部屋〜
「あらぁ可愛いわねぇ、お人形さんみたい。」
私マルグリッドはというと、着替えがあると案内された部屋はキース様とリュカ様のお母様であるセニガン夫人、ナタリア・セニガンの私室だった。
「あ、あのナタリア様。」
「ナタリア様だなんて!お義母様と呼んでいいのよ!あ、ほらこっちの青いドレスなんてどう?私の昔のドレスとはいえ今でも廃れず人気のあるものよ。でもこっちのピンクのも…いえ、やっぱりこっち、そうこれよ!」
あのっと声をかけてもひたすらに着せ替え人形状態。
メイドさん達に大丈夫ですよ、悪いようにはされませんからと言われたがこれでいいのだろうかと不安になる。
しばらくして、頭からつま先まで全て整えられ今からお出かけですかと聞きたくなるくらい飾り立てられた。
髪は上少しを左右で三つ編みをし後ろに回してリボンで結ばれ、ドレスはほとんど白と言っていいくらいのクリーム色のシンプルで可愛らしいドレス。靴とそれと合わせたもの。
化粧はメイドがしようとすると夫人がまって!と「こんなに可愛いんだと要らないは!でも口紅だけは塗りましょう。薄くよ。…まああああなんて可愛いの!!」
仕上がった私をメイドさんや夫人がパチパチと手を叩き可愛い可愛いと言う。
夫人に至ってはもうこんな可愛い子が義理の娘だなんてと泣いている。
「こんなに綺麗にしていただいてありがとうございます。ナタリア様、皆さま。」
「もぅ、お義母様よ!お、か、あ、さ、ま!ほら言ってみて。」
リュカ様と似た容姿の美しい夫人が「ね?」と首をかしげる。
「お、お義母様!」
「きゃーーー!みんな聞いた!お義母様って!!」
おめでとうございます。よかったですね。とまたまた拍手喝采。
なんともまあ仲の良い主人とメイド。
コンコン「ジルです。入ってもよろしい出ましょうか。」拍手はやみそっと内側から開けられた。
私を一目見たジルさんは目を見開きおぉっこれはこれはと頷いた。
「奥様、マデリー様、旦那様がお呼びです。先ほどの客間にご案内いたします。」
「じゃあ早く私の服を着た可愛いマデリーちゃんを見せびらかさなきゃね。」
「は、はい?」