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友人としては太鼓判を押す。誰もがそういう少々変わっているが愛らしく、親しくなるとよく喋り、場を楽しませる良き友人。
その友人はアンドリウス侯爵家の一人娘、マデリー。
母はシルフィーヌ・アンドリウス。白百合の君と呼ばれ、さらさらとした金の髪に深緑の優しげな瞳。学園にいた頃は入学から卒業まで様々な試験でトップを維持し、容姿も中身も美しい才女。
父は王族や数々の有力な貴族たちから一目置かれる裁判官レギオ・アンドリウス。平民も使用人も一人の人として扱い、身分に合ったまっとうな扱いを受ける権限があると考える貴族にしては珍しい人である。
そんな優秀な両親から産まれたマデリー。
彼女の容姿は、父に似たミルクティー色のふんわりとした髪に暖かなオレンジの瞳のおっとりとした顔立ち。
よくうたた寝ねをし、ゆっくりと行動する。
学園の学年別テストでは下から数えて早く。
必要な勉強そっちのけで本を読み人の話に耳を傾けては花や星、隣国の音楽、何十年も前の寝物語、どこか遠い島国のこと。多くの人が知らない令嬢にしては変わった事に詳しい変わり者の令嬢に育った。
しかし変わり者の彼女だが、持ち前の珍しい知識と礼儀正しさ、話せばとても楽しく心地よいひとときを感じる人は多く、男女問わず沢山の友人に恵まれている。
17の誕生日を沢山の家族や使用人、友人達と祝った翌日。父に呼ばれ書斎へ向かった。
「お父様、マデリーです。」
入りなさいといつもより重々しい言葉が聞こえてきた。
中に入り見た父は、どこか複雑そうな悲しいようないろんな感情の入り混じった顔をしており、手に持つ手紙と思わしき物を間違いでないか、本当なのかと何度も読み直していた。
二人きりの部屋でしばらくの沈黙していたが、やっと父は顔を上げた。
「マデリー、お前に婚約者ができた。」
「婚約者…ですか?」
「あぁ」
まあまあなんてこと、私に婚約者?どこの変わった殿方なのかと目をパチクリしているマデリー。
変わり者ゆえに友人はともかくそれ以上の関係を持とうと思うものはこれまで一人も現れなかったマデリーにとっては普通の婚約とは大違いの大事件。
「お相手はどなたでしょう」
「私の友人のセニガン子爵を覚えているね?」
「…はぃ。たしか、よく遊びに来られてお父様とお酒を飲まれて、顔が怖い体の大きな熊さんみたいなおじ様だったと思うのですが…。」
「熊さん…、まぁ、そうだな。合っている。…それでだ、お相手はそのセニガン子爵の長男キース・セニガン。お前の二つ年が上で、去年学年を首席で卒業した。」
またこの子はと、困った顔で見つめる父の口から飛び出たのは知った名前だった。
「あら、キース様なら一年生のころお会いしたことがあるわ。」
「なんだ、面識があったのか。」
「と言ってもお話ししたことはないのよ?いつもお世話になってるマルグリット様のご友人らしいの。」
「確かタナードレイク公爵のご令嬢だったか…。」
一度しか会ったことがなく、名前しか知らなかったので、まさかセニガン様のご子息だとは知らなかった。
彼とは親しくしていただいてる二つ上の先輩のマルグリット公爵令嬢にお勉強を教えていただいてるときに出会った。