時の魔女、誕生
前回の前書きでも追記しましたが一部思いっきり自分で作った設定をガン無視して書いてた部分があったので修正しました。プロットは書いたんだよ?書いたんだけどね?おかしいね?おかしいよ?
…すみません。ふざけました。
”元”慈愛の魔女、ペトラ・クロエから告げられた衝撃の事実。それは、エイトでの出来事により100年も前にタイムスリップしてしまったということだった。
あの、未だに状況が分からないんです。現実においてタイムスリップって有り得るんですか。どうなんですか。
ただ、ここに来てからこれまでを振り返ってみると、ハズキの言う「魔法使い自体が珍しい」ということがタイムスリップを裏付ける証拠になっていた。
ミラルやその周辺の王国では、十数年前には既に魔法使いが何人も存在していた。それ以前は、魔法を使うことはかなり限られた人しかいなかったという。というのは私があまり興味が無い世界史の知識なんですけれども。
ペトラの話によれば、魔法を使うために必要な「魔素」が、大気に漂っているがまだ濃度が濃すぎるため、人間には強すぎるということらしい。
「魔法が強すぎると、自分まで魔法に呑まれちゃうからねー、今の時代は本当に限られた人しか魔法を操れないんだよ」
魔法に呑まれるとは……恐ろしい。
一通り状況は把握出来た。しかし、ここからどうしたものだろうか。
「なるほどねえ、ナギサ。君はおそらくこれから大変な思いをする事になるね」
「なんですって……」
「私は時魔法が使えるけど、タイムスリップで一度に飛ばせるのは10年前後までだし、そもそもさっき記憶で見た『ハズキ』って子と干渉してる以上、このままタイムスリップするのは危険……」
私も小説とかで読んだことはあるけど、タイムスリップで過去に飛ぶって色々危ないんだっけ……
過去でちょっとした変化を起こすと未来では結構な変化になってたりとか。
「よし!わかった!私、ペトラ・クロエは今後君の手助けとなるように思念体となって君と旅をします!」
「え?」
え?
「なーに、元々ナギサはこの神殿の試練を突破してるから私の『ペトラの杖』を授けるついでってことで」
「そ、それはいいんですけどこの神殿は……」
「危ないから封印するよー。死人が出たらたまったもんじゃないし」
死にかけた人なら既にいるんだよなあ……
「さて、じゃあまずは杖だね」
そう言いペトラの身体(光の玉)は高く舞い、光の玉を分裂させた。
「これが、『ペトラの杖』……」
「正式には『刻の杖』って言うらしいけどねー。まあそこはどうでもいいや」
ペトラから分裂した光は、徐々に杖の形を象っていく。
そして、先端に私の手より少し大きめな碧色の宝珠がついた杖が私の手元に降りてきた。
私は、それを受け取る。
そして、ペトラ(光の玉)が強く光り輝く。
光が、私を包む。
「魔法使い見習いのナギサ。大魔女クロエの名において、貴方に『時の魔女』の名を与えます」
時の、魔女…………
「貴方はこれから大きな困難に直面するでしょう。しかし、この光の力で、貴方の運命を、切り拓くのです──!」
光は強く、もはや眩しく目が見えなくなるほどだった。
その光が私の魂にまで届いた。
「ふうー、儀式は一通りこんなもんかな」
ペトラのその一言ともに、私を包んでいた光は消えていった。
「いやあー、あの堅苦しい感じは疲れるねえ」
ペトラがふう、というため息とともに言った。
「あれって演技なんですか?」
「いやまあ、一応これ引き継ぐ時にやれって先代の魔女から言われてるし……ぶっちゃけめんどくさい」
「えぇ……」
面倒くさがりな魔女もいるんだなあ。
「さっき渡した杖は、光魔法と治癒魔法、更に時魔法も使える優れものだよ。ナギサならすぐに扱えるはず」
「時魔法?」
「そ。さっきのゴーレム戦で私が使った『ライズストップ』とか、『タイムスリップ』とか、空間ごと時間を止めたりいじれる最強の時魔法『グラン・クロック』とか」
「す、すごい……」
光魔法や治癒魔法は、クロエの魔導書にもあった。しかし、時魔法は現代においてはあまり使われなくなった。
そのため今は時魔法の存在すら知られていないことが多い。まあ私は色々な本読んでたから知ってたけど。
「ああ、あとさっきの儀式で君が着てる服が変わってると思うから、確認してみて」
そう言われ、私は鞄から手鏡を取り出した。
「ほんとだー、なんかかっこいい」
そこに映っていたのは、以前の魔法学校の制服を着た私ではなく、上半身には少し大きめの黒と銀色のローブ、胸元には灰色の宝珠、そして黒いロングスカート、黒いブーツを履いて、仕上げに黒い魔女の帽子と、いかにも魔法使いと言った感じの姿だった。
「それは魔女に授けられる魔導衣。邪悪な魔法の影響を受けなくなる魔法がかかってるけど、今どき邪悪な者なんていないんだよねー」
「平和ですねー」
こうして私はペトラの杖とともに、『時の魔女』という名前を授かった。
「あ、そうだ、もう1つあったんだ」
「なんです?」
「私はもうこんな身体だし、これ以上何かをすることは出来ない。そこで、さっきも言った通り君と一緒に旅をしたいんだ」
「といいますと?」
「これから私は君の身体に思念体として宿る。まあ、私の魂がナギサの身体に入るだけだけど」
「え、そんなことが出来るんですか?」
「元々今の光の玉も私の最後の魔法で魂だけ留めてるような感じだからね、そんなに難しくはないよ」
「はえー……」
やはりクロエの魔女は伊達ではなかった。
「んまあ、特に君の身体に危害が加わるようなことは無いよ。ただ、もしかしたらだけど何か身体に影響はあるかもしれなくもない」
「そんな一文で矛盾することあります?」
「まあ大丈夫でしょ、死にはしないし」
「ええ……怖いけどまあ、やってみましょう」
「……ありがとう」
そう一言だけ言い、光の玉のペトラが再び私の身体に入り込んだ。
「うっ……」
ほんの少し、精神が痺れた。
そして、少しの間ペトラの記憶が見えた。
「あの教え子……」
手記にも書いてあった、失踪した教え子。その人を探している最中だった。
「………れか……見てませんか……」
「……そんな………」
ペトラは、とても辛い思いをしたのだろう。この短い記憶から、それは充分感じ取ることが出来た。
「……よし、これで大丈夫」
と、ペトラの声が身体の内側から聞こえてきた。
「これで、私の身体に宿ることが出来たんですね」
「そうそう、だからこうやって───」
よいしょー、というペトラの声ともに目の前に現れたのは─
「これが……魔女ペトラ……?」
目の前に居たのは、緑色のローブを着て、緑のオーラをまとった私より少し歳上に見える女性だった。
「やっぱこっちの方が話しやすくていいねー。」
大きく伸びをしながらペトラが言う。
「君の身体に私の魂が移ったことで思念体としてこれから君をサポートすることができる。あ、ちなみに私は他の人には見えてないからね」
「いわゆる『背後霊』ってやつですかね?」
「まあ大体そんなもんかなー。」
ペトラの身体は透けており、さながら幽霊のようだった。
「というわけでナギサ、これからよろしくね」
ペトラは手を差し出してきた。
「はい!よろしくお願いします!」
私も手を差し出したが、当然ペトラには触れることは出来ない。
「まあ、実体がないから私の体には触れられないけどね……ってあー!!!」
突然、ペトラが私の顔を指さして叫んだ。
「なんですか!?」
「め、目の色が(物理的に)変わってる……」
「え?」
再び鏡を取りだし、自分の顔を見てみる。
「あ、ほんとだ」
元々赤色だった瞳は、右側だけ緑色になっていた。
「これが、さっき言ってた影響ってことですか?」
「んまあ、そうなるかな」
それだけで済むなら良かった。てっきり目ごと持っていかれるのかと思いましたわ。
「とりあえずそろそろ神殿を出ようか。あ、私はこれから基本的にナギサの中にいるから。人と話すとき私がいるとややこしくなるからね」
「そうですね、お願いします」
ペトラの思念体は私の中に戻って行った。
「目の前にワープポイントを展開するから、そこに入って脱出して」
ペトラの魔法により、神殿の外へと通ずるワープの魔法陣が展開された。
「よし、じゃあ行きましょう」
魔法陣の中に入ると、私は光ともに上へ上がって行った。
────────────────
神殿の外。
入ってきた神殿入り口前に転移してきた。外は既に日が落ち始めていた。
「脱出成功ですね。で、これから私はどうすればいいですか、ペトラさん」
(ペトラでいいよ、敬語もなし。今後死ぬまで付き合うことになるだろうからね)
私の中にいるペトラの声は、脳に直接届いている。テレパシーみたいなものだ。
(そうだね、とりあえず元の時代に戻るのはこの時代の人間と接触してる以上危険だから、”この時代で起きるべきこと”が起きて未来が元の状態に戻ったら戻ろう。)
うーん、何だかややこしくなってきた…。
(簡単に言うと、さっき言ってた「ハズキ」って子がこのまま問題なく辿るべき運命を辿ればナギサは元の時代に戻ることが出来るということさ)
「つまり、ハズキを見守りながら機を待てばいいってこと?」
(んまあそゆこと。だから、あまり過度な干渉はしないようにね)
「わかった。とりあえず、この辺のどこかにいるハズキと合流しよう」
(そうしよう。私はその間この神殿に結界を張って誰も入れないように封印しておくよ)
ペトラは神殿の封印に向かい、私はハズキと合流するため辺りを散策した。
……って、そこで寝てるのが多分ハズキかなこれ。草むらでよくうつ伏せで寝れるなあ。
「ハズキー?」
「ん、んん……」
ハズキはゆっくりと起き上がる。さっきもうつ伏せで倒れてたしデジャヴかなこれ。
「あ、ナギサ。おかえりー」
「ただいま、待たせちゃってごめんね」
「いいよいいよー。って、なんか服変わってない?」
「あー、まあ、これはちょっと色々あって……」
私は、ハズキにこの神殿での出来事を簡潔に説明した。
「えっ?試練を突破したの?」
「まあね。所々危なかったけど」
「そりゃすごいや。んで、その大きな杖が例の『ペトラの杖』?」
「そうそう。最後のゴーレムってやつを倒したらもらった」
「あれ倒したの?すごいなあ、ナギサ」
そんな会話をしている間に、神殿の封印を終えたペトラが戻ってきた。
もちろん、ハズキはそれに気づくことはなかった。
本当に見えてないんだ、これ。
「そうだ、もうこんな時間だし、ボクの家に泊まってく?」
ハズキが提案してきた。
「えっいいの?」
「いいよいいよ。どうせボク1人だしね」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そうして、ひとまず私はハズキの家に泊まることになった。
────────────────
同刻、エイト王国にて
「父さん、解析の方はどう?」
リットは、エイト魔法技術研究所に来ていた。
「いや、手がかりは掴めたが肝心の航路が全く特定出来ないんだ。これだけレーンの数が多ければ、一つ一つ潰していくのも困難だし、どうにかしてこの手がかりを……」
グラムは、ナギサが転移した時の航路の特定をするため、レーンの解析をしていた。しかし、何万とあるレーンの中から1つを見つけ出すのは困難を極めていた。
「その手がかりって?」
「ああ、どうやら、出口がミラル王国の近くに繋がっていたらしい。だが、道の出口から見えていた景色がどうも今のミラル周辺とは一致しないんだよ」
「なるほど……どういうことなんだろう」
研究員総出で道の解析を進めるが、未だこれといった成果は出ていなかった。
「レーンの性質が分かれば、どこに飛ばされたかも分かるんだが……」
「僕が調べてみるよ。父さん、ここのパソコン借りていい?」
「ああ、いいぞ」
リットは空いているパソコンの前に行った。
(行き先がミラルだとすれば、ナギサ君にとっては好都合だろう。しかし、どうも何かが引っかかる……)
転移時、アルが装置を故障させたことにより、正常な転移は出来なかった、とグラムは推測する。
だとしたらそんな都合のいいことが起こるのか……?
グラムは様々な仮説を立て、検証した。しかし、どれも裏付け出来る証拠などは見つからなかった。
(そもそも、この道は横につながっているものだけなのか?もし縦に繋がっているものもあるとすれば……)
グラムは思考する。
「…………」
グラムが苦悩する中、リットはというと。
(こ、これは……)
リットが何かを発見し、即座に立ち上がってグラムの方へと歩いた。
「父さん、もしかしたら重要な手がかりが掴めたかもしれない。」
「おお、何か見つけたのか?」
「空間の移動だけじゃなく、時空の移動をしているレーンを何百本か発見した。もしかしたら、これに流された可能性もあるかもしれない」
「時空の移動だと!?」
グラムは立ち上がり、解析を再開した。
「行き先はミラル周辺だと仮定して、ここから繋げてみよう」
そして、グラムは調査を進めた。
「で、出来た……!!これが恐らくナギサ君が流れて行ったレーンだ……!」
調査の末、グラムはミラル周辺とエイト魔法技術研究所を結ぶレーンを発見することに成功した。のだが……
「……ん?待って父さん」
リットは何かに気づいた。
「これ、到着点の日付が1957年の9月になってる……」
モニターの右下にある日付が「1957/09」と書いてあるのをリットが見つけた。
「1957……ということは今から100年前……!?」
「今は2057年だから……そういうことに……」
ナギサはあの時、転移装置の故意的な不具合によって軌道が変わり、タイムスリップするレーンに乗って転移した、ということらしい。
「そ……そんな……あの男とんでもないことを……!!」
グラムは強く机を叩く。
「どうしたの〜?」
そこへ、ふらふらとイリアがグラムとリットの元へやってきた。
「あれ、イリア。来てたんだ」
「暇だったからね〜。それで、何があったの?」
「ナギサが通ったレーンを調査してたんだ。そしたら……」
イリアが、グラムの前にあったモニターを覗いた。
「これは?」
「それが、ナギサが転移した場所。右下の日付を見て」
「右下……『1957/09』?1957年の9月?」
「そう、そこが今ナギサがいる場所」
「1957年って……100年前!?嘘でしょ!?」
「信じ難いけど……恐らくそこにナギサはいる」
気づけば周りには所員全員が3人の周りを囲んでいた。
「つまり、タイムマシンを完成させなきゃいけなくなったってこと?」
「簡単に言うなあイリア……タイムマシンって危険なものじゃなかったっけ?」
リットは自宅の研究室で時間と魔法に関する資料を読んだことがあったため、多少なり知識があった。
「ああ。タイムスリップは1歩間違えれば未来を変えてしまう、まさに『禁忌』だ」
「でもナギサは……」
イリアが不安そうに言う。
「……やるだけやってみよう、父さん。何かが起きたらその時はその時だ。」
「これは……完成したら世紀の大発明になるな」
頭を軽く掻きながら、グラムは決心した。
「よし!何としてでもナギサ君を助けるぞ!」
所員全員が「おー!」という雄叫びを上げた。
タイムマシンを作る世紀の大プロジェクトが、エイト王国にて始まった。
……しかし、これによりあの悲劇を起こしてしまうということに気付く人間など、誰一人としていなかった。