2度目の転移
ここは一体、どこなんだろう......
仰向けになっていた体を起こし、立ち上がった。
360度、どこを見ても平原。木も何本か見える。
そして私の右側、方角はわからないが遠くに謎の建物のようなものが見える。
少なくとも、ここは目的地ではなさそうだ。
状況を整理しよう。
私は、ミラル王国に帰るためにエイト王国の研究所から四つ先の王国に飛ぼうとした。しかし、アルという男に邪魔をされ、しかも『クロエの魔導書』まで奪われてしまった。そして今、この地に着いた、ということになる。
あれ?私詰んでない?
魔導書もなければここがどこかもわからない。
この状況は、非常にまずい。まずすぎる。
とりあえずバックの中身をのぞいてみる。
『クロエの魔導書』は、もちろんあるわけがない。
残っているのは私の好きな小説と、エイトで手に入れた謎の魔導書のみ。あとは小物。
さて、どうしたものか...
とりあえず何かの手がかりを探すため、遠くに見える建物のようなものへ向かうことにした。
しかし、ここはどこなんだろう......
歩けども歩けども、広がるのは果てしない平原といくつか生えている木。
.....本当に進んでいるのかこれ...
30分以上、遠くの目的地に向かい歩いているが、全く進んでいる感じがない。
それどころか、目的地から遠のいているような気もする。前に進んでいるのに。
「お困りかな、お嬢さん」
「ひいぃ!!!!!」
突然、謎の低い声が私に語り掛けてきた。思わず変な声が出てしまった...
「誰?」
辺りを見回すが、人影は見当たらない。
「ここだよ、君の目の前、下を見てごらん」
言われたとおりに下を見てみる。そこにいたのは......
「カラス????????????」
声の正体は、カラスだった。
......いや、意味わからん。
「そう、カラス。ただ、中身は違うから安心してくれ」
なんか、だんだんややこしくなってきた。
「人と喋るのは本当に久しぶりだ。この『永遠平原』に迷い込む人間なんて最近になってそうそういないからね」
「『永遠平原』?ここがそうなんですか?」
「ああ。ここは私みたいなはみ出し者が迷いこむ言わば監獄。一度迷い込むと、抜け出すことは不可能に近い。」
「ふ、不可能......」
このカラスの話を聞き、私は軽く絶望した。
「......ただ、完全に不可能、というわけでもなくてだね」
「え???」
カラスは、ふさふさの体の中から何かを取り出した。
「『レイコンパス』。これを持っていればここのような抜けられない場所でもこのコンパスが抜け道を示してくれる。」
見た目はごく普通......でもないなこれ。真っ赤だし。
「へえぇ、便利......」
「欲しいか?」
めちゃくちゃ欲しいです。ください。
「いやでも、なんであなたはそんな便利な道具をもっているのにここから抜けないんですか?」
「......」
カラスはしばらく黙った後、こう話し始めた。
「...自分で言うのもなんだが、私はこれでも元々神でね。」
.......はい?
なんかとんでもないこと言い出したぞ、このカラス。
「私は『魔法を産み出しし五人の神』の一人、そう言えばわかr」
「わかりません」
「なんでそんな食い気味に......」
「神様?なんで神様がカラスに?」
「......詳しくは言えないが、まあいろいろとやらかしてね.....」
神様もいろいろと大変なんだな。
「それで?何でここから抜け出さないんですか?」
「このままカラスとして外へ出ても何もできないしな。しばらくここにいることにするよ。君みたいな迷子を導くためにね」
「ほええ.....」
「私の話に付き合ってもらって悪かったね。ほら、この『レイコンパス』をあげるよ。」
「あ、ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?なんの対価もなしに」
「いいんだよ。それに、『レイコンパス』ぐらいだったらこの体でもいくらでも生み出せるからね」
私は神を名乗るカラスから『レイコンパス』を受け取った。
「ああ、それと」
「はい?」
「このコンパスは『召喚魔法』が使える。困ったら、この私を頼りなさい。」
召喚魔法?便利そう。
「そういえばまだ名乗ってなかったね。私の名は『メリ』という。」
「普通別れ際で名乗ります?」
「冷たいなあ」
「まあ色々とありがとうございます。それじゃ、私はそろそろ行きますね」
「ああ。またいつか」
メリと名乗るカラスに別れを告げ、私は『レイコンパス』の導くままにここ『永遠平原』からの脱出を目指して進みだした。
ところであのカラス、何の神様なんだろう...
そのうち聞きだしてみよ。