リットの研究室
すっかり日も暮れ、私達は帰ることにした。
広場は、私達が魔法を使っていたせいで大変な事になっている。とても言葉じゃ言い表せない。
これはいつか謝らなきゃな……とりあえず今は帰ろう……
「あー疲れたぁ……」
イリアが歩きながら嘆く。
「魔法なんてしばらく使ってなかったからね。最後に使ったのがいつだったかすら覚えてないし。」
イリアとリットは、私やミラルの国民とは違い、魔法を日常的に使っていないらしい。
「覚えてないとは言ったけど、確か2年前に魔法を使っていた気がする。」
リットが思い出した様に言う。
「イリアから話は聞いてると思うけど、この国で2年前に魔法戦争が起こったんだ。その時の自己防衛の為に魔法を使っていたような……」
なるほどね。
「で、その腕輪だっけ?誰から貰ったの?」
リットに聞いてみる。
「確か、イリアの両親が戦争に駆り出される前に貰ったものだから、誰が開発して誰がどうやって渡したのか、わからないんだ。」
「そうなんだ……」
歩きながら話していると、既にリットの家に着いていた。
「ただいまー」
「お疲れ様ー。これから夕飯作るからね」
そう言ってリットはキッチンへ向かった。
「さて、リットが夕飯作ってる間何してよっか」
「うーん…特に思いつかない…」
「じゃあさ、この家案内してあげるよ!大して広くもないけど」
いやいや、自分の家じゃないでしょ。
「うん、じゃあ一緒に行こうか」
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そういって案内されたのは、書斎らしき部屋だった。本棚が部屋一面に敷き詰められており、その本棚の中に本が沢山並べてある。
「ここはほぼリットが使ってる部屋だね。私は本とかあまり読まないから」
本のタイトルを見ると、魔法に関するものばかりだった。
その中でも特に目を惹かれたのが、『魔結晶』について書かれている本だった。
『魔結晶』……?
ミラルの学校ではその単語さえ聞いたことがなかった。
「この本、読んでもいいかな?」
「いいよ。どうせリットのだし」
部屋にあったソファーに腰掛け、本を開いた。
「──魔結晶とは、大気中にある魔素と呼ばれる魔法を使う際に使用される元素が、地中に取り込まれ、結晶化したものである。強大な魔力が封じ込められた結晶であり、別名『魔法石』とも呼ばれている。
その魔力の強さ故、現代文明の発展において活用され、重宝されてきた。しかし、近年においては採掘される魔結晶の減少が進み、あまり使われる事は無くなってきた。──」
文中に出てくる「魔素」についてはハイジ先生から少し聞いたことがある程度だ。
その魔素が結晶化すると魔結晶になると…。ほうほう。
また1つ賢くなった。
読み終わった本を本棚に戻そうとした。その時、本棚の横から少しはみ出ている部分があるのを見つけた。
なんだろう、これ。
触ってみる。すると、そのはみ出た部分が本棚にすっぽりとハマってしまった。
と同時に、本棚がゆっくりと横に移動し始めた。
「何事?」
イリアが呑気に言う。
もしかして私これ相当やばいことをしてしまったんじゃ、、、
動いている本棚の裏から扉が出て来た。これって隠し部屋?
「そんな部屋あったのー?なんでリットは教えてくれなかったんだろ」
イリアも知らなかったのか。
「入ってみる?」
「いやいや、流石に入るのはまずいんじゃ…」
「いいでしょ別に。リットなら許してくれるよ」
ほんっっっとにリットに対して軽い…()
とりあえず、部屋に入ってみることにした。
扉を開く。が、中は真っ暗だった。
「どこかに電気のスイッチ無いかなー」
スイッチらしきものは見当たらない。
「何これ?上から紐見たいなのが伸びてる」
イリアがそれを引っ張る。
すると、電気がついた。
「すごい……」
その部屋の中には実験器具らしきものや沢山の本などが置いてあった。
誰がなんのために作った部屋なんだろう…
「バレちゃったかー」
突然後ろからリットの声がした。
「ひえっ!?リット!?」
「あ、リット。ごめんなんか勝手に部屋入っちゃって…」
「大丈夫だよ。それにここ僕の部屋だし。」
ここリットの部屋だったの……???
「この部屋は、元々魔法学研究者の父さんが使っていたんだけど、最近は色々と忙しくてもう使わないかもだからってこの部屋を僕に譲ってくれたんだ」
リットのお父さんすごい……
「たまにここに引きこもって色んな本を読んでるんだけど、まだ僕には難しい内容もあって分からないことだらけなんだよね。」
私も試しに部屋の本を手に取り読んでみる。
……なるほど。わからん。
「ナギサは魔法使いになりたいんだったよね。何か理由ってあるの?」
リットが聞いてくる。
「私はただの憧れかな。母さんの魔法を使う姿が格好良くて、魔法使いになりたいなーって思って。」
「なるほどね。」
「リットは将来なりたいものとか、あるの?」
「僕は、父さんみたいな研究者になりたいなって思ってる。まあ僕も憧れみたいなものだけど」
私達が将来について話していると、リットが料理の途中だったことを思い出したように「あ、やっば」といいながら台所へ戻っていった。
「将来、ねえ…」
イリアが呟く。
「私も…魔法使いになってみたいかも」