ポチと華の日常
私は猫を飼っていた。
三匹の猫だ。
長いしっぽで真っ黒でつやつや黒で、真っ黒雄猫のポチ。
真ん丸しっぽで茶色ベースに黒い縞模様の、キジトラ雌猫の華。
5cm位の鍵しっぽで真っ黒でモサモサの、モサ黒雄猫のチビ。
今はみんな虹の橋を渡って、家から旅立って行ったけど、大切な家族だ。
ーーーー
最初は高校の先輩から子猫を貰った。
黒猫のポチだ。
ポチは何をするにも鈍臭く、可愛らしかった。
大きな体でピンッと伸びたしっぽ。
しなやかさの欠片もないしっぽは、いつもフローリングをゴツゴツ叩いていた。
体長も長く、ちょっぴり太っていたので8kg以上体重があった。
走るとお腹の肉がタプタプ揺れていた。
他の猫達はしっぽが短いので、私は長い猫はしっぽが固いと思い込んでいた。
嬉しいとき、ポチのしっぽはクネクネ揺れることはなく、真っ直ぐに立ち上がってプルプル微振動していた。
私はそれが普通だと思っていた。
友人宅で長いしっぽの猫を触って、芯のないフニャフニャしたしっぽに衝撃を受けた。
普通の猫はしっぽが柔らかいよと教えて貰ったとき、家の猫は特別なんだ、なんて可愛いんだと思った私は、きっと立派な猫バカなんだと思う。
ある日、寝ているときにうなされて目を開けると、私の腹から胸にポチが乗ったまま添い寝していることがあった。
黒猫なので真っ暗闇で瞳を閉じていると、黒い物体なので一瞬びっくりするが、すぐにピスピス寝息がすることに気がついて安心した。
でもさすがに毎日うなされると安眠できないので、そっと脇におろし腕枕をして寝ていた。
可愛かった。
ポチが二才になる頃、兄が大学を卒業して、下宿で飼っていたキジトラの華を連れて帰ってきた。野良猫だったとのことで正確な年齢は不明だが、動物病院のお医者様は多分ポチと同じ位で、二才だろうとのことだった。
同居を始めたポチと華は喧嘩をすることもなく、いつも仲良くしていた。
日向ぼっこするときも、ご飯を食べるときもいつも一緒だった。
我が家の猫達は、勝手口の猫ドアから自由に出入りができた。
家を建てるときに、ちょっぴり太めのポチの腹回りを測り、特注で作ってもらった。猫バカ家族の自慢の一つである。
庭のパトロールはポチの役目だった。庭に面した掃き出し窓から銀木犀の花を背景に、ピンッと立ったしっぽだけが見えて可愛かった。
二匹は避妊手術していたので子猫が生まれることはなかったが、仲の良い夫婦のようだった。
婚姻や離婚で家族構成が変わっても、私の猫はポチで、兄の猫は華だった。
ポチはとぼけたところのある猫だったが、華はとても賢い猫だった。兄が食卓に座っているときに、兄様に挨拶してと言ったら、毎回歩く進路を変え、兄の足にスリスリ挨拶をしていた。
私が食事中に冗談で、華ちゃんマヨネーズ取ってきてと言ったら、わざわざ冷蔵庫の前に行き、困ったように鳴いていた。
因みにポチは呼んでも来ないし、マヨネーズの場所も知らない。でも可愛い。
そんなこんなで、9年という歳月が流れた。
ポチ達が9才のときチビを拾った。
その日の昼間、ポチや華が何度も何度も、外の様子を伺っていた。
なんだか私も気になったが、いつもと違いが感じられずに夜になった。
私の住む家は静かな住宅街だ。夜になるとほとんど音が消え、小さな音も響くようになる。
就寝前に、猫ドアに施錠をしようとしていると、どこからか、か細い子猫の鳴き声が聞こえてきた。
家族と一緒に声を確認してみたが姿が見えない。暗闇の中どこかに子猫がいるのに見つけることができない。
探している最中に、子猫の声が聞こえなくなった。私は焦って植え込みの下や、車の下を探した。
すると、タイヤの陰に少し毛の長い、小さな黒猫が倒れていた。両手に乗るくらいの小ささで、身体は冷え切っていた。