第三話、「三人目の主役」
すみません、純粋に力不足です・・・。
一志は、期待していたドラマ性など微塵も感じさせない「運命の出会い」を体験していた。彼女にとっては唯一の友達である一志は、早川といつも一緒にいるようになった。そんな現状は、彼女のためにも自分のためにもなにかとよろしくないのだが、自分が早川に、「安々と近づけない理由」を教えてしまったことから、彼女が他の生徒に声をかける勇気を根こそぎ奪ってしまったため、責任を感じて一緒にいるのだ。まぁ、そのこと自体を楽しんでいる節もある。
勿論、一志には他にも友達がいる。早川といると、なかなか近寄ってきてくれないのだが、そんな早川バリアを楽に通りぬけてしまうような奴も稀にいる。金曜の昼休み、二人で食堂へ向かう道中に声をかけられた一志。
「よぉ!カァズシっ♪最近見ねえと思ったらこんな美女に取り組んでやがったのかよぉ〜。」
「ばっか、そんなんじゃねえよ。エイジこそ、その子は・・・?」
「へへぇ〜…♪先週から付き合い始めたばかりの恋人でっす!」
隣の女性が顔を赤くしている。そりゃあそうだ。人前で「恋人です」なんて紹介の仕方は、ここまで堂々となされるものではない。
彼の名は、鋭司。一見チャらいが、少し交友を深めれば外見とはほど遠い考え方を持った人間であることがすぐに分かる。とにかくキレる!あ、頭の回転が速いという意味で。彼は元ボクサーで、高校中退したものの現役合格と同じ台でうちの大学に入学してきた。うちの大学はそれなりに名門で入るのには相当の苦労が必要だが、高校を二年次に中退してから旅をしていた鋭司は受験の半年前に家に帰り、そこから始めた勉強であっさり合格してしまった。少し、というか「かなり」妬ましい男だ。・・・が、男から見ても魅力的な男で嫌いにはなれない。
「こいつ、俺の行きつけの映画館の店員でさ、逆ナンですよ?逆ナン〜(笑)」
「ちょ、ちょっとぉ!?・・・。」
鋭司が女性に声をかけられるのはよくあることだが、そんなケースで鋭司が話を聞くとは思えなかったので、少し驚いた。彼はこう見えて硬派な男だからだ。まぁ、俺はちょうどいいので「同性の友達第一号」として彼女を早川にあてがった。ちなみに、彼女の名前は篠崎真理と言うらしい。名前を知ったのは初対面の挨拶から二時間後だった。一志と鋭司は、女性二人をテーブルにつかせ、それぞれ二人分ずつの食事をとりに配給ブースへ向かう。鋭司は一志に疑問の数々をぶつけ、当然の疑問だと納得のいく一志も淡々と答えていた。
一志が、「かくかくしかじかで、世間知らずの美女とお知り合いになったと」いう経緯を説明すると、鋭司は満足そうに一志の頭をなでた。鋭司の意図が分からない一志は、釈然としないがでてきた食事を持ってテーブルに戻る。
「鋭司君てモテそうだよね。一志とはどういう知り合いなの?」
「おいおい、知り合いなんてもんじゃないぞ?俺たちは親友だ。なっ?」
そんな仲だとは思ったことがなかったが、鋭司が言うのだから間違いはないだろう。一志は、鋭司の言うことには盲目的に従う部分がある。しかし、そんなことはどうでもよくて、鋭司に彼女が出来た流れに興味が注がれてしまっている一志はテキトーな返事をした。そして、続けざまに自分の疑問をぶつける。
「そんなことより、彼女が出来たなんて聞いてないぞ?先週からって…今週の頭はお前俺と一緒にいたじゃんか。」
「そうがっつくなよ〜。直接会わせて驚かせたかったのさ。」
おどけてみせる鋭司の顔には、今まで見せたことのない子供っぽさをのぞかせていた。どうやら、その説明は彼女のいる前では出来ないということらしい。なるほど、この場でのイニシアチブは自分が持てる!と、滅多にないチャンスに一志は心躍らせた。そんな一志を見ていた早川は生き生きとしている一志を見てなんだか複雑な気持ちを感じた。篠崎もまた、初めて見せる鋭司の無邪気な姿が自分ではなく親友に引き出されたものであることにジェラシーを感じていた。しかし、二人とも大人だ。それがしょうがないことなのは百も承知で、勝手に盛り上がる男性諸君に温かな心地よさを感じている自分にも自覚している。
その後、早川の紹介を(正式な)し始めると、一度はざっくりとした話にもかかわらず鋭司は興味ありげに聞き役者を演じて見せた。篠崎も、早川の帰国子女と言うステータスに羨望のまなざしを送りつつ同性のカリスマに憧れを抱いていた。とは言っても、篠崎も十分なほどにルックスがいい、一志は自分以外の三人が雑誌に出ているモデルの中にすら馴染めるレベルだと思っている。自分だけ場違いな気がしてならない。
女性陣は早川の話、男性陣は篠崎の話と別々に盛り上がっていたが、どうやら篠崎も一志も満足したようで四人での会話に流れていった。
「ところで、俺まだ自己紹介まだだったよな?」
「お前の自己紹介どころか…、俺はまだ彼女の名前すら聞いてないよ。」
「じゃぁ、真理ちゃんは内から紹介すんね♪。彼女は篠崎真理ちゃん、実はうちの大学じゃないらしいよ?鋭司君もやり手だよね〜(笑)」
はにかむ二人はそれぞれ自己紹介を続け馴れ初めを語った、俺たちも自己紹介と馴れ初め(?)を話していたが、途中で午後の講義へと向かわなければいけなくなったのだった。鋭司が彼女の前では言えなかった裏話も「お預け」になってしまい、一志は欲求不満で次の授業など右から左へすり抜けていた。